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雪華月兎のSSサイト(仮)

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最終章 朝焼けの始まり(後編)





あーゆーはっぴぃ  最終章
『始まりの朝焼け』













ガバッ!

布団を跳ね上げる。

何か耳障りな音が聞こえ、それが自分の呼吸音だと気付く。

はぁっ、はぁっ、はぁっ。

すっかりあがってしまった呼吸を整え、ゆっくりと深呼吸をする。

時計を見るとそろそろ夜明けの時間。

「はぁ~、・・・・・またか」

そう言いながら先程まで見ていた夢を思い出す。

自分の最愛の人に責められ続ける。

あんな夢を見るなんてどうかしてる。

そう思って首を振るが先程の嫌悪感は拭えない。

最近よく夢を見る。

琥珀さんの過去。

まだ、自分が無力で、何も知らなくて、何も出来なかった頃の夢。

気付けば喉が焼けるように痺れていた。

どうやら体が水分を欲しているらしい。

そう思い台所へ向かう為起きる。

そこで自分のベッドが汗で異様に濡れていることに気付く。

どうやら凄い量の寝汗をかいていたらしい。

そんなことを冷静に考えながら廊下に出る。

人気の無い廊下を静かに歩きながら、もう一度夢の内容を思い返す。

なんて嫌な夢なんだろう。

彼女が幽閉され、犯され、陵辱され、

しかし、その全てが真実だった。

そう、あの夢に出てきたものは全て過去の再現の他ならなかった。

「くっ」

思わず声を漏らす。

彼女は今でこそ笑っていてくれる。

しかし、遠野家の人間は忘れてはいけないのだ。

過去における彼女に行った仕打ちはそう簡単に帳消しに出来るものではないことを。

まるで出口の無い迷路。

どんなことをした所で過去の罪というものは拭えない。

過去を失くすことは出来ないことなのだ。

そんな事を考えている間に台所に着く。

冷蔵庫から水を取り出し、一飲み。

水分を取って頭が少しすっきりする。

こんな事を思うのは勝手かもしれないが、

もし出来ることならあんな過去失くしてしまいたい。

もし、それが無理なら、

いっそ、憎んで欲しい。いっそ、この家を全て侮蔑してもらいたい。

そうすれば少しはこの罪も晴れるだろう。

そんな思いが心を渦巻く。

『いま、幸せ?』

少し前に琥珀さんに投げかけた問い。

あれは、琥珀さんを労わる言葉なんかじゃなかった。

「あれは、自分が安心したかっただけ」

口に出していってみる。

自分はなんて浅ましい人間なんだろう。

激しい自己嫌悪が襲い掛かってくる。

「くそっ!!」

力任せに冷蔵庫のドアを閉める。

ダンッ!!

深夜に大きな物音が一つ。

そう思っていたら、

「キャッ!」

廊下から彼女の声が聞こえた。






















「どうしたんですか、志貴さん」

琥珀さんは台所まで来ると笑顔で聞いてきた。

「ダメですよ~、冷蔵庫は優しく閉めないとっ」

冷蔵庫をさすりながらそんな事を言う琥珀さんはいつも通りの笑顔を見せている。

急にその笑顔を見て不安に思う。

本当に今のままでいいのか、彼女に贖罪しなくてもいいのか、彼女は本当に幸せなのか、そして何より自分が彼女の横に居ていいのか?

様々な思いが心の中を渦巻く。

「あぁ、ゴメンちょっと力入れすぎちゃって・・・・・・」

「いえ、それは構いませんけど。・・・・・志貴さん具合でも悪いんですか?」

こちらの顔を覗き込みながら琥珀さんは聞いてくる。

そんな琥珀さんの気遣いも今の自分には不安になる材料以外、何者でもなかった。

そんなこちらの思惑を知らずに琥珀さんは尚も言葉を重ねる。

「どこか苦しかったらすぐ仰ってください。お薬を用意しますから」

その言葉がとどめだった。

「なんで?」

「へっ?」

「なんで琥珀さんはそんなにこっちの世話をしてくれるんだ?」

「えっと、それは侍女として当然じゃ・・・・」

「違うっ!!」

思わず声を荒げてしまう。

「そうじゃないんだっ!!なんで遠野家の為にそこまでするんだ!なんでこの家を憎まないっ!!なんでっ、琥珀さんはここでこうして笑顔でいられるんだっ!!」

感情の奥底からドロリとした醜い何かが噴出してくる。

それを体から吐き出すように言葉を続ける。

「この家と血は君に償えないほどのことをしてきた!!それなのになんでっ、なんでそこまで笑顔でいられるんだ!!君はっ、君は・・・・・」

言葉が続かない。

頬がいつの間にか濡れている。

どうやら感情が昂ぶり涙が溢れてきたらしい。

琥珀さんのほうは終始無言。

しかし、先程まで見せていた笑顔はすっかり消えてしまっていた。

彼女は真っ直ぐにこちらを見つめている。

そして、その瞳はこちらを責めているように思えた。




本当ニ、憎ンデイインデスカ?




そんな言葉が頭を駆け巡る。

そんな事を思っていると琥珀さんは急に後ろを向き、

「志貴さん、ちょっと付いて来てください」

そう一言告げて廊下に出て行ってしまった。














付いて行った先は遠野家の屋根の上。

琥珀さんはわざわざ一番高いところまで登る。

そして、そこから見える景色は三咲町の全貌だった。

元々、遠野の屋敷は丘の上に立っている。

なので、その屋根からは町並が全て見渡せる。

そろそろ日の出なのか空が白み始めている。

早朝の空気はどこか新鮮で鼻の奥に残る。

そして、横で琥珀さんはじっとしている。

こちらから話し掛けるのもどうかと思ったのでそのまま琥珀さんの横で町並みを眺める。

ゆっくりと日が昇り始める。

町はそれを合図にゆっくりと起き始める。

眠っていた町の目覚め。

どこからか町の息吹が聞こえてきそうなそんな景色。

まるで一枚の絵画を見せられているような感覚。

そして、完全に昇った太陽を見て気付く。

「眩しくない・・・・・」

そう、空に浮かんでいる太陽は赤く、その光は穏やかで眩しさを感じない。

まるで夕焼けに絹のカーテンをかけたような優しい色合い。

その太陽は冬の乾いた空に佇み、ゆっくりと町を照らす。

「はぁ~~」

思わず感嘆の声をあげる。

この景色にはどんな賞賛も霞んでしまう。

この一枚の風景画のような町並みはきっとこの瞬間、この場所でしか見れない。

そして自分が感動してる横で琥珀さんがゆっくり口を開く。

「どうですか志貴さん?ここの風景は」

「えっ、・・・・・と」

その問いにどう答えていいのか分からず悩む。

そんな自分を見て琥珀さんは更に言葉を続ける。

「この風景と眩しくない太陽、これをを昨日教えて貰えなかったといって志貴さんは私のこと恨みますか?憎みますか?」

「えっ、いやそんな訳無いじゃないか!それに、昨日見られなくても明日見ればいい。それだけのことじゃ・・・・・」

「はい、その通りです。そして・・・・・、それが私の答えです。」

琥珀さんは相変わらず景色に視線を向けながらそうこちらに言ってくる。

「えっ?」

「確かに昔のことはとても辛い記憶です。ですが、今ここでこうして志貴さんと一緒にいる現実の方が私には大事ですよ」

「けど、そんな単純な問題じゃ無い!!遠野家は、遠野の血が犯した罪はそんな次元の話じゃ無い!!」

「いえ、おなじことですよ。確かにあの頃の記憶は辛く悲しいものでした。でも、その分を志貴さんや秋葉様は今返してくださっています」

「いや、けど、俺たちは何も・・・・・」

「志貴さん、それは気付いてないだけです。私は、もう両手じゃ持ちきれないほどの思い出と温もりを下さっています」

そう言ってこちらに向けて笑顔を、

本当に楽しそうな、見てるこっちが楽しくなるような笑顔を向けてくれる。

「そっか・・・・・」

「だから気に病まないで下さい、志貴さん。私は今ここで、この屋敷に使えているだけで幸せですから、恨む訳ありません♪」

そう言いながらこちらにゆっくり寄り添ってくる。

あぁ、ここまで言われて初めて気付く。

それはとても単純なこと、

どんな過去があろうと

その過去かどんなに辛かったであろうと

彼女はイマを生きていると言う事。

「うん、ゴメン。確かに琥珀さんの言う通りだ」

「あはは、構いません。志貴さんの心遣いは嬉しいですから」

そう言って自分を見上げながら微笑んでくれる。

そして二人でもう一度朝焼けの町並みを眺める。

今度はお互い寄添いながら、

「ふぁ~~っ」

大きなあくびがでる。

「まったく、志貴さん。シチュエーションが台無しです!!」

「ゴメンゴメン、どうやら寝足りないみたいだ」

「あぁ、じゃあ志貴さんはこれから寝直しですか?」

「う~ん、そうするかな」

うん、今ならあの悪夢は見ないで済みそうだ。

そう思っていると、横から琥珀さんが

「もし、心配なら添い寝して差し上げましょうか?」

なんて悪戯っぽい眼で言ってきた。

「うっ!!」

思わずたじろいでしまう。

しかしすぐにいつもの冗談だと気付く。

ほっとする反面、少しがっかりする。

いや、このままじゃいつも通りだ。

たまにはいつもと違うリアクションをしよう。

そう思い直して、

「じゃあお願いしようかな。確かにその方法は効果絶大だろうし♪」

と、返してみた。

それを聞いて琥珀さんは、一気に先程の朝焼けと同じくらい赤く染まる。

そんな琥珀さんを尻目にこちらはさっさと話を進めていく。

「それじゃ、琥珀さんの部屋へ」

「えっと、志貴さん。私には朝食の準備が・・・・」

「たまにはサボっちゃおう!どうせ今日はみんな休みなんだし」

そう言って琥珀さんの手を取って歩き出す。

そんな自分の後ろを引っ張られるように歩いていく琥珀さん。

最初は、え~っ、とか、でも~、などと言っていた琥珀さんも最終的には、

「もぉ~、志貴さん今日はなんだか強引です」

そうポツリと言いながら隣りに並んでくれた。

そして二人、ゆっくりと歩く。













「あっ、そうだ志貴さん。最後のお願い、今使っても平気ですか?」



「えっと、構わないけど。どうしたのいきなり?」



「ええ、いい事を考えついたんですよ~♪」



「う~ん、なんかちょっと怖いんですけど・・・・・・」



「別に変なお願い事じゃありませんから大丈夫ですよ~」



「うぅ~、じゃあいいですよ」



「それじゃあ、三つ目の願いです。志貴さん、お願いします。これからもずっとずっと・・・・・・・・・」










二人が交わした願いが、



心地の良い音楽のように、



ゆっくりと朝焼けの町に融けていく。



その願いは永遠に続く願い。



笑顔を忘れた彼女が一番望んだもの。



そして、その願いを叶えていく二人の進む道はまだ見えないが、



彼と彼女の話はひとまずここで終幕。



ただ、これから先、



彼らが進んでいく道程は、



――――――――きっと、この町並みに刻まれていくだろう。






























そんな訳で後書きです。

いや~、遂に終わりました。
自分史上初の試みだった連載SSもこうして終わりを迎えたわけなんですが、ほんの少し感慨に耽る自分がいちゃったりします。
そして、ここまで色んな人に読んで頂けて嬉しいですね~。最初はこんなSS誰も見向きもしないんじゃないかと恐れていたのですが、ヒット数の回転や、BBSの書き込みなどはホント元気付けられました。







そういえば、思い返してみると最初はなかなか文章が書けなくて大変だったり、志貴の一人称が分からなかったり、まぁ酷い有様でした。
第一章の頃と今回のSSを比べてみると随分変わったんじゃないかと思います。



えっ、左程変わらないんじゃないかって?



えっと、その、・・・・・・ゴメンナサイ。










まぁ、そんなこんなで最近は次回作どうしようかなぁ~と、もっぱら頭を捻ってます。
多分今度はFateのSSになるんじゃないでしょうか?
一応大体のストーリーは完成してるんで多分次はそれを書いていくと思います。
いや、まぁ、どうなるか分かりませんがね(笑)




そんな訳で唐突に恒例の友人とチャットです。今回は最後と言う事で食べわんさんベルギーさんとですね♪




今回はかなり長いんで此方からどうぞ!





そんな訳で今回の『あーゆーはっぴぃ』はこれにてお終いです。
ただ、書ききれなかったネタなんかはいずれ短編なんかで書いていきますのでよかったら読んでください。



そんな感じでアンダーグラフの『ツバサ』を聴きながら今回はこの辺で。










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