142982 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

雪華月兎のSSサイト(仮)

雪華月兎のSSサイト(仮)

一期一会





風が吹き抜ける。

変わらない町並みの中。

今日も一日が穏やかに終わる。

過ぎ行く日常は、あまりにも無常。

―――あの戦いが、

聖杯戦争が終わってそろそろ一月が経とうとしていた。

学校で起きた集団昏睡事件も一区切りが付き、授業も再開されている。

いつも通りの日常、

そう、自分はこの『日常』に帰ってきたのだ。

本来なら幸せを感じるところ、

しかし、

どうしても心が晴れなかった。




「――――セイバー」




呟いて気付く。

彼女と過ごした、たった二週間。

それは自分の中でいつの間にか日常を遥かに超えた大切な時間に変わっていた。

セイバーがいなくなって早一ヶ月。

町は少しずつ変わり始め、季節は移ろいゆく。

自分自身も以前と同じような生活習慣に慣れてきた。

もう一ヶ月もすれば、聖杯戦争は時間に流され過去になり、思い出へと変わる。

彼女のこと、

セイバーとの出会いはそろそろ過去という名の思い出になろうとしていた。

そんな現状を一人憂う。

しかし、想いとは裏腹に時間は確実に一連の事件を過去に押しやっていく。

すでにニュースで集団昏睡事件が報道されることも無く、

今朝テレビが映しだしていたブラウン管越しの公園は平和そのものだった。

いい加減に日常に戻らねば。

一度頭を振って思い直す。

確かに彼女と過ごした日々はかけがえの無いものだった。

でも、いつまでも引きずる訳にはいかない。

そう思い、今日は最後に彼女と別れたところに行こうと決心した。

最後に彼女と別れた柳洞寺にはあれ以来一度も足を運んでいない。

今までどうしても避け続けてきた。

だが、あそこにもう一度行くことによって自分は一歩進めるようになるのではないか。

自分なりの解釈だが、今はそう思えた。













学校の帰り道、遠坂からの一緒に帰ろうという誘いを断って一人、柳洞寺を目指す。

夕暮れ時の風にしては温かい。

そんな風に後押しされながら歩き続ける。

その歩みに淀みは無く、普段通り。

下校するときと何ら変わらないペースを守りながら十字路まで着いた。

ふと気になって時計を見る。

時間はまだ5時前、柳洞寺へ行って、自宅に帰っても支障は何も無い。

それを確認するといつもの帰り道とは違う柳洞寺へと向かう。

その足取りはあくまで変わらない。

ホントにいつも通り、ホントに何気ない動き。

半ば無意識のように足を前に出す。

歩きながら考えてみる。

案外こんなことでは何も変わらないんじゃないか?

自分はすでにセイバーの事を過去の思い出として扱っているのではないか?

今まで柳洞寺に行かなかったのは単に用事が無かったから。

そんな風に考えてみると今やっていることはとてつもなく無意味だ。

一瞬止めてしまおうかと考える。

けど・・・・、

ここで止めてしまう事を体が否定する。

その証拠に先程から足に躊躇が見られない。

先程から頭よりも体が、

いや、細胞が先に進めと言ってくる。

なんだろう、この感覚。

一定のリズムで動き続ける身体。

それに従いただ黙々と歩く。

周りの景色など目にも止めず、ただ柳洞寺に向けて足を動かした。





















そして、いつの間にか山門まで続く階段に到着。

一歩目をゆっくり踏み出す。

そういえば、ここでアサシンと闘ったのだ。

あの時は魔力が足りなくなったセイバーを抱えて帰ってきたんだったな。

そしてもう一歩。

バーサーカーとも闘ったんだよなぁ~。

あの時、初めてセイバーを抱いて・・・・。

ギルガメッシュとの戦いへと赴いた時は・・・・・・・。

ゆっくりと思い出になりつつある記憶を噛み締めるように思い出していく。

一歩一歩、大切な思い出を踏み締めていく感覚。

彼女はいつだって気丈に生きていて、

女の子扱いしたら怒ったっけ。

いつでも自分を犠牲にして、

常に自分を盾にして、

そして傷ついていった少女。

――――セイバー

その思い出を一つ、

また一つと思い返してく。

気付いたときには山門の前まで登りきっていた。

それは、あまりにもあっけない到着。

やっぱり・・・・。

どうやら自分で決めた事ながら今日の試みは失敗だったのかもしれない。

その証拠に自分の心は全くの不変。

感慨も、悲しみも、何一つとして感情の起伏が無かった。

はぁ~。

溜息と共に最後に別れた高台へと足を向ける。

そして、もう一度今回の目的を思い返す。

これを機に、自分は「日常」へと戻り、彼女との繋がりは過去の思い出とする。

たったそれだけの事。

こんなんじゃ、高台の丘に着いても心は変わらないんじゃないかな。

そう思ってもう一度意識を足へと向ける。

もう、高台の目の前へ・・・・・。



しかし、

「・・・・あれ?」

気付いたら、足が停まっていた。

先程立った山門の入り口から、一歩も動いていない。

いや、一歩も進めない。

まるで磁石によって吸い付けられているような感覚。

気付くと頬が濡れていた。

何故か立っている事さえもやっとの状態。

視界が涙によって邪魔される。

気付くと後から後から涙が溢れていた。

動こうとする意志と動かない身体。

先程まで後押ししてくれていた風が今はこんなにも煩わしい。




――――デキナイ




あの聖杯戦争を、

いや、セイバーと過ごした日々を過去の思い出に変えるなんて無理に決まっている。

今日ここに来て、認めてしまった。

そう俺は、

衛宮士郎は心の底からあの高貴なサーヴァントに惚れ抜いてしまっていたのだ。

後から後から涙が溢れ出てくる。

「くっ!!」

そしておもむろに走り出す。

行き先は彼女との思い出の地。

最後の瞬間、一緒にいたところ。

そこへ向けて一直線に走り出す。

涙でくしゃくしゃになった顔に風が当たる。

涙の筋に風の冷たさが伝わる。

着いた先には、あの頃と同じような夕焼けが待っていてくれた。

いつの間にか涙は風に乾かされている。

あの聖杯戦争の最後、

夕焼けの手前に、

そこに彼女は立っていたのだ。

「セイバー」

いない相手へと向けられた言葉。

呟いてみたところでそこにあるのは眩しい夕焼けだけ。

いや、丁度セイバーが立っていた辺りに一本の花。

それは一輪の菜の花だった。

その花びらは夕焼けに一つの彩りをもたらす。

高台に揺れる黄色い花弁。

その姿はあの金色の騎士にどこか似ていて、

気付くと、自分はもう一度声を出す。

先程とは異なった、相手へと向けられた言葉。

「セイバー」

そう呟く。

――――解っている。

そう、もう彼女はこの世にいない。

少なくとも今自分が住んでいる世界に、彼女はもう戻ってこない。

けど、自分は彼女に憧れた。

彼女の隣りに居たいと思った。

そして何より・・・・、

彼女のことを愛していた。

だから、

「だからさっ」

声がいつの間にか漏れる。

そして、それはすぐに叫びに変わる。



「いつでもいいっ!」



「いつでもいいからさっ」



「また、・・・・・・会えないかな?」



「おれっ、やっぱりセイバーのこと、」









――――――すきだから











風が高台の上に凪ぐ。

柔らかい風が辺りを包む。

最後の一言が景色に溶け込んでいく中で、

風に揺られて一本の菜の花の花弁が、

ゆっくり、

ゆっくりと揺れていた。





















「あれ、珍しいわね。この家に花が飾られるなんて」


「あぁ、たまにはいいだろ。ってかどうしたんだよ遠坂、こんな時間に」


「えっ、いや、その、あんた今日どっか様子おかしかったし、その・・・・・」


「あっ、そっか。ありがとな。そして、ゴメン遠坂。なんか心配かけちゃったみたいで」


「べっ、別にあんたを心配したわけじゃないわよ!ただ、おかしいなと思っただけで」


「そっか、でも一応、ゴメン」


「ふん、まぁ分かったらいいけど。それにしてもこの花、衛宮君にしては機転が利くじゃない。食卓が華やいで。」


「ホントか?」


「えぇ、なんか最近にぎやかな食卓に慣れていたから特にね・・・・・」


「あぁ、そうだな」












そんな会話をBGMに衛宮家の食事が始まる。





始まりの合図はもちろん部屋中に響く「いただきます」の声。





みんなの笑い声や怒声が飛び交う。





他愛ない話が食卓を彩り、周りを色付ける。






そんな中、一輪の菜の花は真ん中でゆっくりと揺れている。






―――――そう、背筋を伸ばした金色の騎士のように



















そんな訳で後書きです。

今回は初のFateモノという事でかなり大変でした。
うわ~、士郎ってどんな奴だっけ、喋り方は、一人称は??


と、まぁとにかく大変の一言でした。
そんなこんなでようやく完成にこぎつけて、友人に見せたときのコメント。


T「今更セイバーエンド後の話されてもなぁ~」


・・・・・・





雪「もうSS書くの辞めるでちゅ~!!」





いや、そんな、えっ、なんで??
SSに今更とか時期とか関係あるんでしょうか?
今でも彼の一言は疑問です。




えっと、読んで下さった方もそんな風に思うのかなぁ?とかビビッてる訳ですが(笑)




なんにしても今回のSSは得るものが多かったなぁと思いましたね。

今後、長編を書く時の為の練習みたいなものかなぁ~。
そんな訳で今後もFateSSを何本か書いていけたらなぁと思っております。



まぁ、その前に終わりのクロニクルSSなんですが(汗)


そして、気付いた方もいるかもしれませんが今回のSSに参考として終わりのクロニクル二巻の鹿島がフツノを取りに行くシーンを使っています。

いや、雰囲気の出し方とかだけなんですけどね♪



その辺、上手い事出来てたらなぁ~とか思いつつ今日はこの辺で。












感想を与える


BACK

















© Rakuten Group, Inc.