2009/07/04(土)14:45
『学問』を読む
山田詠美の新刊『学問』を読み終えた。
ストーリーについて、具体的には触れない。
この作品で初めて山田詠美を読む人もいるだろうが、
ここ最近の山田詠美作品に「?」だった人にこそ
かなり嬉しい読み応えがあると思う。
好きな作家だった筈なのに、
長編では96年の『ANIMAL LOGIC』、
中短編では2004年の『姫君』以降、ぐっとくるものがなかった。
『PAY DAY!!!』ではシチュエーションに最後まで馴染めず、
『風味絶佳』や『無銭優雅』にも物足りなさを感じていた。
文体と雰囲気ばかりが先走って、後に残るものが無かったのだ。
『AtoZ』に関しては既に記憶がない。
その点、『文学』は久々に、残るもののある一冊だった。
山田詠美らしい文体でありつつ、彼女自身の過剰な押しつけがない。
その辺りのバランスが、私には快かった。
悪い意味ではなく、女向けの本だ。
むっとした日本特有の湿度がある、
エロチックで、そして残酷な本だ。
『色彩の息子』などに見られたものより、
ずっと内向的ないやらしさがある。
残酷さの後に、
「過去」が「過去」であってくれるがための
温かさと開放感がやってくる。
愛が引き起こす様々な事柄は、
すっかり終わってみて初めて、優しいものになるのか。
しっかりと終わらせないと、愛は愛と呼べないのかもしれない。
愛は体にあるのか心にあるのか、
関係にあるのか距離にあるのか、
わからなくなってしまう本である。
しかしまあ、愛とは得体の知れないもので、
それが引き起こす事柄は時に残酷である。
以上。
CHECK:山田詠美『学問』