雪月花

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• 身代わり感傷

  体のことは忘れていようと努めて忙しくしていた。けれど、久々に測った熱は依然、下がらないまま。糞、と心の奥ではっきりと呟いた。体温計を噛み壊したい。そろそろ１年になる発熱だ。下がらないなら、体がこれに慣れれば良いのに。もうそれでもいい。早く、楽になりたい。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝弟が明日の朝、４年間住んだ沖縄を後にする。大学卒業と就職のため、という理由は喜ばしいものだが、私は「住み慣れた土地を後にする」ことの寂しさをたぶん本人以上に感じてしまって、なんだか切ない。すぐに会えるよ、と言い交わした人と会えなくなること。また行けるよ、と思っていた場所に行けなくなること。そして、その疎しさに慣れていってしまうこと。自分の思い出と都合良くないまぜにして、勝手に哀しくなっている。弟が住んでいるのは名護だ。沖縄本島の北部にあたる。那覇とは反対側の街。にぎやかな繁華街こそ無いものの、私はそこに住む人と、森と、海が大好きだ。明日の朝、彼は下宿からほど近い港にて車ごと船に乗る。そうして鹿児島に着いてから、ぶらりぶらりとここに戻る。それからまた離れた街で独りの生活を始めることになる。遠い港まで行って体ひとつで船に乗ったり、那覇空港から飛行機に乗ったりするんじゃなくて、いつもの、ちょっとした遠出みたいに出かけてそのまま島を後にする、その情景が私には辛い。「大丈夫？寂しくない？」と訊いたら「大丈夫。けっこう平気」と答えた。私は何をひとりで悲しくなっているんだろう。何に置き換えて、何を思い出して心細くなっているんだろう。大切な人が多いのは幸せなことだ。ただ、自分の体はひとつしかない。だから居場所はいつもひとつしか選べない。大勢と繋がっていることはできても、みんなみんなと等しく一緒に居ることはできない。縁起でもない話ではあるが、結局は、「誰の死に目に最も居合わせたいか」だ。私の選択基準はね。ずっと反芻してきたこの解決不可能な悲しさが、今夜、いつもより濃く私の体を締め上げている。中からも、外からも。

  2009/03/01

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• 好きでもない

  好きな男さえ鬱陶しいことがあるのに、好きでもない男の鬱陶しいことといったら。

  2009/02/28

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• みれん

  ずっと探していた幸田露伴の作品が、インターネットで出会った親切な方による調べでとうとう、やっと、見つかった。「未練」というタイトルだとばかり思いこんでいたが、その実は「みれん」という平仮名の作品名だったそうだ。そしてその作品を収録した全集は、私の街の図書館にも、あった。今からどきどきとして胸が落ち着かない。探していたものを見つけて、こんなに嬉しいのはいつぶりだろう。ときめく、という言葉こそがふさわしいような今の心持ちである。私が死んだら棺桶に一緒に入れてもらって、同じ煙になりたい程の物語。そんなものに、私は幸い幾つか出会えて居る。それほどのものは、ただ手で書き写すだけで私を悦ばせる。世の中には写経をする人も居るようだが、私はただ、心に沁み入る物語を書き写すだけで十分だ。神でもなければ仏でもない。家族でもなければ友人でも恋人でもない。信仰なるものとは種を異にするものの、私という独りの人間の寂しさが持つ拭いきれない輪郭を柔らかく暈してくれるものは多分、そういった珠玉の物語たちに他ならないのである。

  2009/02/27

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• 深爪

  「あの人の心には限度というものが無い。　何でも突き詰めて考え過ぎるんです」　（黒澤明監督　1955年作品　『生きものの記録』より）＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝珍しく深爪をした。爪と肉の境界を感じる。慣れない種類の痛みは、軽微であっても気になるものだ。慣れた痛みならば、ある程度酷くても気にならないのに。普段は物に触れることのない爪の内側の皮膚。そこに触ると女はくすぐったがる、ということに性的なものを感じていたのは川端だったろうか。マゾッホよりも変態だと私は彼を位置づけている。最近は本当に海外のやや昔の小説ばかり読んでいる。だって面白いから。がんばれ河出文庫。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝広島の平和祈年公園を設計した人物と、東京の都庁を設計した人物とが同じだと今日、知った。彼のいわばデビュー作にあたるものが平和公園らしい。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝自動車学校で知り合った女子大生としばらく話をしていて、「いくつですか」と歳を訊かれたので「26です」と答えた。「お若いですね」と反応されたが、これは面白い。歳の割には若く見える、というのは喜ばしいことだが、26という年齢は「老け始めても妥当」な年齢と認識されているのか。ちなみに私は未成年の彼女を、せいぜい２つ下だろうと見積もっていた。失礼。

  2009/02/26

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• 石原慎太郎の民主党っぽさ

  仮免が取れてしまいました。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝芥川賞作品が掲載されているので文藝春秋を買う。作品そのものよりも選評が読みたくて買うのだ。ここ何回かは作品をろくに読まずに選評ばかりに気が行く。だって、メンツが豪華なのだ。宮本輝、小川洋子、山田詠美、村上龍、池澤夏樹、川上弘美、黒井千次、高木のぶ子、石原慎太郎。とんと新作を見かけない作家さんたちも混ざっているが、だからこそ、ここでその文章が読めるのが楽しいのである。石原慎太郎の選評は、なんだか今の民主党っぽい。「あれもだめ、これもだめ、うんざりだ」で、「仕方が無いから次点を通す」という。大概、宮本氏→山田氏→村上氏→石原氏、という順番で読んでから、残りの方達のを読む。宮本氏の選評は、「まとめ」みたいな雰囲気があるから、まずは安心してふんふんと読める。以下３名は、かなり好きなことを言ってくれているのでベクトルはそれぞれに違えど刺激的なのである。山田詠美の新作が読みたいよ。男女の長編。今日は仮免のお祝いに、本を３冊注文した。

  2009/02/25

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• 風呂の中の女の髪は

  「風呂の中の女の髪は、運命よりも恐ろしい」by 寺田寅彦＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝寺田寅彦や夏目漱石の話をする相手が居ない状況で、いちばんの話し相手が歌人でもある祖母になるのは畢竟である。「昔の本は良い」「すっきりしている」「理屈っぽいことを書いているのに理屈っぽくない」上記はいずれも祖母の言。今日は、空いた時間で一緒に『柿の種』を読んだ。ヴォネガットもオースターも初期の春樹も好きだけれど、好きなのはやはり、噛みごたえのある一昔前の文体だ。二葉亭四迷まで遡ってしまうと、こちらの教養が追いつかないけど。今は露伴あたりで頑張っている。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝このブログを作ってから、もう６年くらいが経つのかな。一応は匿名でやってはいるけれども、やはり少しずつ少しずつ、知人にも存在が明らかに。ミクシは知人用として割り切ったけど、どうもなあ。知人さんは読むなら割り切って読んで。ここは何事もなかったように誰宛でもなく続けようと思うから。青臭い自称匿名の、ネット上の吐き出し場所として。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝待っているのに睡魔が来ないからこうしてだらだら書き綴る。戦々恐々と待ち構えているから向こうも来にくいのだろうか。翻訳のレポ?トや教え子用の受験対策リサーチなど、英語と日本語の間をせわしなく行き来する日々。流麗とまではいかずとも、日本語らしい日本語を書ける自分であるために、この場所はやはり必要だと思い直した。・翻訳調になっていまいか。・手持ちの言葉の使い回しに依存していまいか。・新しい語彙は増えているか。使えているか。主にこの３点について、日本語リハビリのためにもブログは続く。研究のために翻訳書を進んで読むようになると、不自然な翻訳調にもいつのまにか慣れてしまう。そうしていつか自分までが、それを無意識に書いてしまう日が来るのではないかと。これが今、いちばん危惧していること。今日は意識して、人称代名詞を省いた。

  2009/02/25

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• 乾いた唇

  私が訳したアルバムの歌詞を引用して ブログを書いてくれている方を見つけた。 今までは専ら引用する側だったけど、 こうして知らない人が引用してくれるのは なんだかとても嬉しいものです。 だから逆輸入ならぬ逆引用リンク。 ＜asianimprovのアジア系アメリカ雑記帖＞ http://asianimprov.at.webry.info/200902/article_7.html 今、店頭にあるフィガロとPENにも、 このアルバムのことは載ってるらしい。 アーティスト名は「モンテカルロ76」。 生活感濃いセクシーさは何とも素敵です。これ聴いてる男子はもてると思います。 あと、今のTVブロスには、 次にやったアルバムのことが載ってるそうです。 こちらは「ラルメリ」というユニット。 イスラム系なんだけどハーマンのTPが入っていたりして、 何とも言えない濃いカルチャー臭と無国籍感。 UAとチャラを足したような母性ハスキーなボーカルと、 不思議とメイシー・グレイっぽかったりするアレンジが好き。 これ聴いたら女子は…、女でよかったと思うでしょう。 ＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝そんなこんなで今夜は技能第一段階の仕上げです。中途半端な緊張は嫌いだ。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝乾いた上唇に煙草がひっつく度に、どうしても思い出してしまう人が居る。

  2009/02/24

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• if

  if one has only one thing to wish,the wish is rightfully the strongest one he holds....there might be too many, i got.

  2009/02/23

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• 雨はどこから

  「返事が良いですね。素晴しい」と、運転とはいまいち関係ないポイントを褒められた本日。夕方から、ずっと雨が降り続いている。しとしと、ではなく、ざあざあ、だ。これだけ降ると、思わず空を見上げてしまう。これだけの水を含んで、さしずめ空は重たかろうと思うのだけれども闇に紛れて表情は読めない。空が雨ごと落ちてこないのが不思議だ。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝恋人が体を壊した。お見舞いにもいけないし看病もできないし、心配である。声が出ないという。でもそんなときに無理をしてでも心細いからと電話をくれる相手が私なのは、嬉しい。ちょっとした矛盾である。

  2009/02/22

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• 映画化の件

  漫画ならまだ許せる。でも小説をやたらと映画化するのはどうかと思う。SFやアクションならまだ許そう。でも、でもなあ、人間ものはなあ。「映像化不可能と言われたあの名作が遂に」なんて、言うのならそもそも映像化は読者の脳みそに任せといて欲しい。そんな想像力すら読者には無いとなめられてるのか、あるいは映画製作側のネタが尽きてるのか知らないけど。特に、読む前に予告映像なんかを見てしまうと、読み始めてからも俳優の顔なんかがちらついて、自由な想像が成り立たなくなる。都内の殺人事件が速攻で裁判にかけられて、裁判員制度開始を見込んで残酷な証拠写真などが流された。それによって傍聴人や裁判員なんかの一般人は、落ち着いた判断を失う恐れは十分にあると思う。言い方は悪いがグロテスクなものが本当に駄目な人だっているのだ。でも裁判員は容易には断れないのだ。何が出てくるか分からないのに。グロテスクな証拠写真もそうだし、成人向けの発行物だってそうだし、同じく「映画化された小説」のCMも、流す前にひと言欲しいと思う。見たくない人が見ずに済むように。

  2009/02/21

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• 一辺倒な謝り方の一辺倒な誤り

  食品の産地偽装とか酒気帯び会見とか、贈賄収賄だとかなんでもいいけど。この手のニュースを見るたびに感じていた違和感、消化不良感がどこに起因しているかがやっとわかった。謝罪会見だのに登場する人たちの謝り方が一辺倒で、しかもそこにこれまた一辺倒な間違いがあるのだ。たいていの関係者はこう謝るのである。「この度はご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」違う。これが違う。迷惑如何よりも先に言う事があるだろうと。「嘘をついてごめんなさい」「酒を飲んでごめんなさい」「賄賂で融通してごめんなさい」だろうと思う。謝る気があるのなら、まずはごめんなさいから始めろ、なのだ。ご迷惑なんのかんのは、やらかした行為の結果なんだから。私だって、だいぶ昔に教わったよそれくらい。

  2009/02/20

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• スリング・ブレイド

  ゴーストドックとバスキアは一応ビデオに録ってあるから、何度もレンタルを繰り返していた一本をDVDで購入。ラーメンズ以外のDVDがうちに来るのは久方ぶりだ。映画のDVDは、１本しか持っていない。しかも『カッコーの巣の上で』。『スリング・ブレイド』は本当に好きだ。10年前に英会話学校の外国人教師に薦められてから、その5年後くらいに初めて見た。それから、何度見たことだろう。ニコラス・ケイジやジャック・ニコルソン、アラン・リックマンやゲイリー・オールドマンといったおじさま系俳優が大好きな私にとって、この映画のビリーボブは最強のどつぼである。でもこの映画でのビリーボブしか知らなかったから、試しにグーグルで彼の画像を探してみたら、なんだか普通の格好いいおじさまだった。残念。だから私の中のビリーボブは、『スリング・ブレイド』の中のカールだけに留めておくことにする。『カッコーの巣の上で』の横に、『スリング・ブレイド』が並んだ。ここに『レナードの朝』が加われば、フェイバリット精神病棟ムービー３部作が揃う。

  2009/02/19

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• たけやぶやけた

  夜、消防車がうるさいので玄関を開けると、すぐ目の前の西の空がオレンジ色に染まっていた。飛び散る火花が風に乗って調子に乗ってこちらを目ざしてくる。道路を挟んだ向かいの家の裏手に、火が上がったのである。オーストラリアのニュースも記憶に生々しくあるので、私はあたふたとしながら庭のホースを目一杯伸ばして、道路に面した庭の木々と、道路の街路樹を思い切り濡らした。普段は出てこない野次馬も何人か濡らしたが、別にいいと思う。火は無事に消されたようだけれども、怖いものは怖い。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝自動車学校の「効果測定」なる学科試験は無事通過。30分の制限時間であるところを15分にて終え、50問中49問正解という我ながら上々の出来ばえ。学科は出来るのよね、車は思うように動かせないけど。およそ試験と名のつくものは、7割の時間で9割の得点を獲得せねば気が済まない。残りの1割は、時間を費やしたって分からないものが多々だし。合格ラインは43点だったから結果は余裕だったけど、49点ていうのは47点よりもある意味で悔しい。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝歌詞対訳の仕事。マイワールドを発揮できるような哲学ソングから片付けてったら、フルオープンな感じの楽天的ラブソングが３曲残った。ラブソング、英語のままで聴くのは好きだけど、それを日本語にするのはストレートすぎて難しい。直訳のままでOKを出せる自分であれば事は易いのだが、やはり原詞のリズムに乗っ取った上で、なおかつ日本語としてスムーズなものにもしたい。葛藤は続く。少なくとも〆切には間に合う。

  2009/02/18

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• リップクリームとビューラー用ゴム

  メンソレータム、というリップクリームがある。メンターム、というリップクリームもある。その傍に、これまた見た目そっくりな新種を発見した。こういう「類似品」って、どこまで大丈夫なんだろうとふと思う。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝リップクリームの２本パック。２つ入りのビューラー用、替えゴム。２本入りの太いヘアゴム。10本セットの単3電池パック。120分のビデオテープ３本セット。ケース付きCD-Rの20枚パック。手持ちが切れたときには、なんとなくお得感で手が伸びる。だけど全てを使い切る前になぜか残りが行方不明になる。私の部屋にはきっと、魔のトライアングルがあるんだな。忙しくなるといつも、月～金に着た洋服が山となる。冬場は特に、重ね着が多いからもう、それは渦高く。そんなこんなで週末には洗濯や風通しや片付けをする。ときもある。そしたらリモコンとか、部屋用ソックスの片割れを発掘する。たまに、そういや探してた、ってものが見つかったりもする。私の部屋にはやっぱり、魔のトライアングルがあるんだな。

  2009/02/17

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• 名著やいかに

  今夜はじめて気がついたのだが、私は浴槽の湯に体を浸けるときに、まず両足で湯の中に立ち、それから両手の指先をきちんとそろえてまるで飛び込みからプールに入るみたいな姿勢で腕から沈む。まあいい。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝楽しみにしていた小林賢太郎テレビがあまり面白くなかったので、何かを「面白い」と思えないかと、読みかけの本に手を伸ばした。読了してしまおうと決めていた。面白そうだし装丁も綺麗だし（意外と重要なファクター）、がんばって最後まで読んだけど面白くなかった。面白くない本、というのはもう何と言うか、腹が立つ。注文して届く本なんかだと、書店でざっと目を通すこともできない。いずれにせよ音楽の試聴みたいにはいかないから、面白いんじゃないかという期待を抱きつつ最後まで行くしか無い。で、面白くなかった、私には。そもそも面白い本というのは、一気に読んでしまうか、でなくとも周りのことがそっちのけになるか、或はもったいなくてわざわざ途中でお預けにしてしまうか、いずれかの読み方となる。で、きっとまた読み返す。読んだ端から忘れてしまうような内容の本が多い。当たりに出会えてないなと思う。新しい人の本は、大抵が帯の文句が内容に勝っているし、本屋でぱらぱらとめくって「ああ」と分かる部類のもの。こういう後味の悪さを緩和したければ、図書館に入るのを待って読めば良いものを、映画にしたって本にしたって私は、気になるものは定価で自腹を切って賭けに臨みたいのだ。そして、こういう後味の悪さを払拭すべく戻っていく先にあるのが、きっと私にとっての「名著」なのだと思う。読了後の不完全燃焼感にも色々な種類があるから、それぞれを拭うにはまたそれぞれのベクトルの名著を選ぶことになる。『メモリー・キーパーの娘』での消化不良を解消するには…ヴィアンの『心臓抜き』あたりの一節で事足りるだろう。

  2009/02/16

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• 言葉のあそび

  おこがましいようだが、「翻訳というものは」、と考えてみる。言葉の、或は単語の「あそび」の部分を如何に忠実に、他言語に置き換えられるか、他言語で再現できるかというものではないかと。逐語訳は、簡単に考えて無理である。逐語訳にこだわった独特な、珍妙な文体が好みならば、或は必要とされているのならば、それでもいい。だけれども、たいていはそうではないし、私の信条として、流れるような日本語の美点は出来るだけ損なわれないようにしたいのである。かといって、他言語には他言語なりのルールと空気があるわけだから、ある程度「翻訳調」になってしまうのもこれまた致し方ない。翻案、意訳、という特別ルールが許可されるならばまだしも、それは私の考える「翻訳」とは方向性が異なる。単語ひとつとってみても、そこには「あそび」がある。例えば、「ひとり」という日本語の単語ひとつをとってみてもそうだ。「ひとり」という単語には、私の頭の中の辞書に依ると、「人間ないし相応の知能を持った生物が単体で存在している状態」という意味がある。だがそれに付随して、「ひとり」には文脈によって様々な付加ニュアンスが含まれる。「ひとり」は寂しいのかもしれない。「ひとり」はせいせいするのかもしれない。「ひとり」は客観的な主観なのかもしれない。「leave me alone」が「放っておいて」となるのは、「ひとり／孤独にして」を経て「放っておいて」と解釈されるからだ。（ひとりにして、のままの方がいい場合もあるが、　例えば小説なんかの場合、犬同士の会話が出てきたりなんかすると　ひとりにして、っていうのはちょっと変だったりするしね）「i can make it by myself」が「自分でできるよ」となるのは、「ひとり／自分自身でどうにかやれる」を経ているからだ。文脈によって、「ひとり」の意味は僅かながら異なっている。異なる方向へ、単語のニュアンスが枝を伸ばしている感じだ。「alone=ひとり」でもないし、「myself=ひとり」でもない。それぞれの言葉ないし単語の「あそび」の部分を如何に汲み取って、原文とは厳密には違う形ではあれど、全体としてニュアンスを再現すること。これが私の翻訳方法だ。理想的な形の。最近は対訳が増えているので、言葉のリズムにも気を遣う。対訳ならではのもさい日本語が堂々と一人歩きを始めた昨今、こんな私のちっぽけなあがきは何の変革にも繋がらないかもしれない。けれど。詞を詞として書いた人がいる以上、私は翻訳された和文も詞になっていなくてはならないと考える。歌詞がリズムに乗っている以上、対訳された歌詞もリズムに乗らなくてはならないと考える。対訳、翻訳でありながらも、原文の歌詞と同時に口ずさめるような結果に繋げられるよう、そして、余分な意味の付加や過剰な切り捨てが行われないよう、細心の注意を払って対訳を仕上げていく。だから、対訳に取り組んでいるヘッドホン装着時の私は、かなり音楽に溺れている。端から見ると多分、気持ち悪いと思う。ひとつひとつの仕事を、名前も出ることだし、責任を自覚してベストを尽くしてやり遂げるたびに、私の中の翻訳論は刀匠に鍛えられるみたいにして形を変えていく。確固としたものをもたなくてはならない。またお願いしたいと思われるカラーも必要だ。しかし、私のカラーは原作を越えてはならない。その為に、常に柔軟であり続けねばならない。ああ、広辞苑を読破するという昨年からの目論見が、どうにか今年中には達成できますように。私には圧倒的に言葉が少ない。手持ちの言葉をやりくりするのにも限界はある。冷蔵庫の余り物で作れる料理に限りがあるのと同じだ。今抱えている案件は、何となく深夜のテンションが似合うので、それに合わせて私は深夜に作業を進める。こうやって、翻訳対象に振り回される生活リズムは好きだ。実務や特許の翻訳とはひと味ちがうこの醍醐味に、私はすっかり溺れてしまっている。小説や雑誌の記事翻訳も好きだけど、対訳って面白いなあ。はてさて、この深夜のうちに、もう１曲くらいとは対話しておきましょう。

  2009/02/15

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• 家族で居ること

  10人に聞いたらそのうち9人が支持していない、そんな人物がリーダーを務める国で何を思おう。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝ともかく、父にはバレンタインのチョコレートを贈った。父はチョコレートを始めとする甘いものが大好きである。「嫌になるほど食べてみたら？」と言ったら「それじゃあ嫌いになるじゃない」と言う。「嫌いになったら食べなければいい」と言ったら「それはそれで寂しい気がする」と言う。芋粥、の話を思い出した。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝伯母は化粧品店を経営している。そんな伯母からこんな話を聞いた。「アメリカの大恐慌時代に、不況にも関わらず　売り上げの落ち込みがあまりなかったものがある。　それはファンデーションと口紅と、チョコレートなんだって」おもしろい。

  2009/02/14

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• ファーストインプレッション

  新しい仕事が来た。歌詞対訳である。先に歌詞部分の原稿はもらっていたけど、音源が手元に届くまで見ずにおいた。サウンドと言葉のファーストインプレッションに重きをおいているからだ。なんとなくふらふらと、iTunesの中をサーフィンする。それから、何とはなしに、という体を装って依頼されたアルバムを聞き始める。メイシー・グレイのようなアレンジと、UAとチャラを足したような声。イスラム系のテイストも多々含んでいるので、コードも拍子もゆるゆると波打って変化する。はじめまして、の第一印象は、「母性溢れる、個性的な女性」といったところ。モダンです。さて、〆切まで時間がありませんが、頑張ります。

  2009/02/13

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• できない、という感覚

  今まで、何かが本当に出来なくて困った、という思いは多分、したことがないような気がする。大抵の場合、出来なかったことは出来るようになったし、それでも駄目な場合は別の手を探して回避してきた。たとえば、サックスや翻訳は思い切りやればどうにかなるし、逆上がりと鶴亀算は出来なくても別に困らない。けれど車の運転というのは本当に手強い。そして、免許取得には「別の手」が無い。クリアできなければ進めないのである。早くも気が重くなってきた技能教習を思い、前に見えるのにぶつかってしまう障害物を思い、イメージせよと言われてもできない後輪の場所を思い、これが「出来ない」って感覚かあ、と妙に新鮮でもある。

  2009/02/12

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• 脳が起きた

  明日の早起きは動かせない予定だし、でも仕事の〆切も明日だし、服薬してから、たまった仕事に目を通す。通すだけ、通すだけ、と思いながら気がつくと鬼・仕事モードになっていた。音楽系の記事翻訳１件音楽系の歌詞翻訳１件そして家庭教師の子ども達への用意。自動車学校の勉強、TOEICの勉強、そしてそして大学院の７種類超の課題。たまっている、最初の一つ、明日〆切のものを済ませてクライアントに送ったから、これはもう大丈夫、な筈。PC画面の周り、ひまわりみたいに咲き誇った付箋の花びらを一枚、ぴりっと剥がしてその辺に投げた。しまった、また脳を起こしてしまった。

  2009/02/11

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• 技能課程　１限目

  ＜092010火＞「土屋さん？」「あ、はい！初めまして。○○です。よろしくお願いします」「はいよろしく～」（乗車）「荷物は後ろ置き。運転したことある？」「…ないです（ある人が来るのかと疑問が湧く）」（若干の間）「…ハンドルは分かるな？」「はい」「ブレーキとアクセルは？」「わかりません」「（以下説明）。で、これが速度メーター。　これが回転数のメーター。これがガソリン。でこれが水温計」「水温計？」「そ、エンジンの」「エンジンの中に水が入ってるんですか？」「エンジンの中言うたら違うけどな…。　まあ話せば長くなるけれども（以下説明）」「じゃあ、あの辺りに水が」「まあそうじゃな。あの辺りにな苦笑　これは何か分かるか？」「えっと、マークからして…ワイパーですか？」「正解。でこっちがウィンカー。こうしたら左、こうしたら右」「どっちも右手でやるんですね。えっと、覚えます。　左回りをイメージして、上にかちっとしたら左のサイン、　右回りをイメージして、下にかちっとしたら右のサイン。　…覚えました」「まあ、あんたは学科はできるかもしれんけれども笑。　で、これが何か？」「なんとかレバーですね。いや、なんとかギア？レバーギア？」「チェンジレバー。で、Pは？Rは？（以下質問）」「（以下回答。直前の学科でやったので大丈夫）」「よう知っとるが。で、これがハンドブレーキな。　したら動かすで。ブレーキペダルから足を離すと動く」（車、後退）「うわ、足を離すだけで進むんですか、車が」「そうよー。オートマは」「怖いですね」「場内行くで。（以下ミラーや視界等の説明）　まずわしが一周するけえ見とき」「はい」（場内、外周一周。説明聞きつつ既に手に汗）「カーブは、曲がり終わったらハンドル戻すんですか？」「あんた自転車は乗らんのん」「乗ります」「ハンドル回したままにしとったらどうなる？」「曲がり続けますね」「くるーっと行ってしまうじゃろ、くるーっと。　おんなじよ。んじゃあんたの番。乗ってみ」 「え、もう運転するんですか？」 「あんた、運転しに来たんじゃろうが！」「ですね」「はい左右前後確認。はい右にウィンカー出す」「はい」「はいアクセルー。カーブ来るよカーブ」（曲がりきれず縁石に突っ込んで茂みの中へ。　教官、無言で車をバックさせ元位置へ）「こらまた派手な、なあ？」「すみません」（次のカーブは乗り上がらずスルー）「あんた、いま反対車線走りょうるんで？」「わ」（進路調整）「はいここ真っ直ぐじゃけ飛ばし！アクセル！」「踏むんですか」「そうよ。おい、斜め行きょうるぞ。　あんた、稀に見るオオモンじゃな。こりゃあ…」（進路調整したらすぐに次のカーブ来襲、また乗り上げる）「うわ、曲がれませんでした」「ちぃと貸してみ、貸してみ！」（緊張のせいで教官とハンドルの奪い合い ; repeat）「…お任せします」「こりゃ、長い付き合いになるで。　はいもう一周～。直進、アクセル～」「お、真っ直ぐ行けたな。カーブ来たで！」（カーブなんとか曲がりきれたと思ったら反対車線突入）「あんた、場内で死ねるで」「死にたくないです」「じゃろう。また力入りょうる。力を抜く！」「抜く！（ハンドルから手を離してしまう）」「ハンドルは持っとかんといけん。ほら遠くを見る！」「遠く…」「前のトラックおるじゃろ。あんくらいんとこ見」「はい。（トラックに向かって猛進）」「ちょちょちょ。こりゃあ…」（hisブレーキ作動）「あ、カーブ曲がれました！」「曲がれました言うてもあんた、またほら…（縁石上陸）」「すみませんっ」「ブレーキは、ふわっと踏む。こう、ふわっと」（つい足下を注視）「前見る！前！」「はい！」「ほんまにこりゃ、えらいんが来たで苦笑。　適性は済ませたんよな、あんた？」「はい」「まあ狙いは悪くないんよ。ただガッチガチじゃな」（狙いが悪くない、の意味が分からない。　きっと何か言葉を探して褒めてくれようとしたのだろう。　以下、外周を何度か廻るが大体同じ）「よしじゃあ駐車場に戻すわ。そこ左入って。　はい左ウィンカー」（ワイパー作動）「…晴れとる」「…はい」（駐車場エンター）「人ひかんように」（ブレーキペダルを放し、惰性のスピードで恐る恐る進む）「もちいとスピード出してもえかろう」（加速。きゅっ）「無し無し！！ええと…今日はここまでな」「はい」（もちろん車庫入れは教官。下車手順を確認）「んじゃ、明日のおんなじ時間、続きしょうで○○さん。　また明日会おうや」「はい、ありがとうございました！（礼）」「はい～（振り返らず退場）」　　　初日篇：完　　　怪我人：無し　　　教訓：力を抜く。　　　　　　手は離さない。でも握りしめない。青空を見ない。　　　　　　アイスクリームのバーみたいのがアクセル。　　　　　　それよりでかくて蠅叩きくらいの広さがあるのがブレーキ！　　　　　　カーブは思ったより手前から、思ったより一杯ハンドルを回す。　　　感想：ブレーキから足を離すだけで動くなんて、どうかと思う。　　　　　　運転しながら彼の突っ込み連射へきちんと応答できるようになれば、　　　　　　それはそれで無敵になれるとも思う。

  2009/02/10

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• ノート型人間

  宿題型人間と、即興型人間。テイクアウト型人間と、店内人間。色んな人種区分を頭の中で行っているのだが、今日は新しいものを思いついた。「ノート型人間と、バインダー型人間」ちなみに、それを使っているかどうかという即物的な区分ではないことにご留意を。ちなみに私はノート型人間です。ひとつひとつ、物事ごとに、けじめを付けて行かなければならない性質で。

  2009/02/09

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• ここではやるべきでないかもしれないけれどここしかないから

  やらなくてはやらなくてはと年末から思っていたのに、まだ「メモの吐き出し」をしていない。一時期こそよくなったものの、私はいまだ変わらぬだ。あちらこちら、時間も空間も関係なく、ペンが無ければ眉ペンで、それもなければ爪痕で、文字を遺していかないと気が済まない。言うなればそれらは記録される課程においてのみ生命間を発揮し、その後はどこに行ったか分からなくなってしまう排泄物。メモ用紙なんてファーストクラスで、煙草のパッケージや机の木肌、レシートの裏からガム用の捨て紙、こないだ泊まったホテルのチラシの裏にも、PCの中にも携帯の中にも、バナナの皮にもコップにも、或はペン軸にまでも！そこここに意味も分からない文字の端々がばらまかれている。これらをただ捨てたり消去したりするのは忍びないので、いったんここに全てを書いてから捨てよう、というのが「メモ整理」だ。１年に１度これをやると、なんと、部屋が明るくなるのである。さてと。そろそろ重い腰をあげよう。

  2009/02/08

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• (追って後日)

  (追って後日)

  2009/02/07

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• (追って後日)

  (追って後日)

  2009/02/06

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• (追って後日)

  (追って後日)

  2009/02/05

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• 苦しい眠り／損な性格

  いつもより少なめの薬で、いつもより早めに眠気が訪れた昨夜。そこに、自然の睡魔が混ざっている気がして、呑気に身を任せたのがいけなかった。夜中に苦しく目が覚めた。開かずの血眼で這うようにして不快さの元を探し、微かな起動音を立てたまま「スリープ」していたPCを強制終了する。電源スイッチを黙って長押しする行為が何か残酷なものに思えた。そうして、脇にある分岐コンセントもオフにする。ベッドに改めて倒れ込んだまま、電球がひとつ付いたままになっているのを見逃していた事に気付いてうんざりする。灯りがあると眠れないのは昔からだ。もはや体を動かすのもままならないので、片手だけをベッドの下にぶらさげて、手探りで探り当てたコンセントを、弱い力できしきしとゆすりながら執拗に引き抜く。ようやく再びの暗闇。傍らにある小さな金属のケースから、ミントのタブレットに紛れている甘い薬を無造作に舌に落として齧る。そのまま浅い眠りに落ちた筈のわずか後に、薄い瞼はブラインド越しの朝日に反応してしまう。うう、と眠らずに夢だけ見ていた活発な脳を抱えて海老の様に背を丸めて毛布に頭をくるみ、そのまままた片手だけを伸ばしてアイマスクを探す。だからといって眠られるわけでもなく。昨夜の眠りは不注意の事故だった。一睡もできないよりも遥かに辛い。今夜は処方通り、二十数錠をきっちり嚥下しよう。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝いつだって、どこか胸を張り切れない。私は、生まれつきの妙な後ろめたさを振り切りたかった。その為に「頑張る事は良い事だ」と心で唱え続けていた。筈が、「頑張る事」を頑張って、中身がついでになっていた。頑張る事を頑張っている。その姿が、周りに気を遣わせていたのに。それさえも気付かない程、私は頑張る事に躍起になっていた。今は、「頑張らない」ことを頑張ってしまう。私は何だって、頑張ってしまうのだ。頑張らなくていいよ、はとても優しくて難しくて困る。頑張りたくないよ、と本当は思っている。でも、頑張っていない、がどんな感じなのか、それをすっかり忘れてしまったのだ。すると、頑張っていないのがどんな感じだったのか、頑張って、思い出そう、やってみないと、と思ってしまう。思いやりが片思いの輪のようにくるくると、くるくると。行き場の無い頑張りが、その円の中でくすぶっている。頑張りの火も消せず、思いやりにも応えられず。私は多分、頑張るのが、本当は上手ではないのだ。だからこそ頑張らないと、とまた訳の分からない思いが始まる。誰かの言う通り、これはただの「損な性格」なんだろう。

  2009/02/04

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• 節分のない家

  熱海で独り住まいをしていた祖母が死んだのは、９年前の今夜だった。電話で報せを受けた母の泣き叫ぶ姿が焼き付いて離れない。そのまま両親と弟は夜行列車で祖母の元へ急ぎ、私はその晩を引き受けて、翌朝ひとりで新幹線に乗った。季節の行事は何かと欠かさない我が家から、その年を境に節分が消えた。今でも、節分の日に地方行事の様子がテレビで流れると、誰ともなしに目を外し、そのまま次の日を待つ。鬼は外、福は内。鬼は外、福は内。この文句を口にする事は、今でも憚られるのだ。

  2009/02/03

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• 同じ水を飲む

  自室の電気ストーヴにはスチーマーが付いている。300ccくらいしか入らないタンクを内蔵しているのだ。このごろは、あっという間に水が蒸発する。私の水差しから、あるいは飲み差しのコップからこぽこぽと小さな穴に水を注ぐ。もはや加湿器に、水を飲ませてやっている感覚になる。花だろうと加湿器だろうと、同じ水を共有する「喋らないもの」が部屋に居るのはすこしだけ嬉しい。硬いものがすこしほどけるような気分だ。

  2009/02/02

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• still "W"

  spilled coffee ruined my dic.the cap of my mobile mug was not tightend correctly.from "P" to the last page are stucked.I've been turning the pages one by one,detouching the stucks carefully.I begin this boring chore from the end of the book,yet I am working on "W" thou an hour passed.texts are happily remained readable.making the most of my fingers like paper nives,I wonder how many words are listed on "W".stains are not so dark,nevertheless I orderd extra shot of espresso.my favorite dic gain the flavor of late and miserable wrinkles.both I never have wanted on it.however, the stains are strongly sticky.what I regret now is not that I skipped the cap-check,but that I added plenty of honey in my late."V" got the serious damage.comparably "S" got the lighter damege.poor "V",lucky "S".and still, "V" to "P" are waiting for me rescue them.long way to go.pages are stucked with sweet coffee.and, of all these troublesome possibilities,I myself is stucked to the paper dictionary.don't wanna giving up with analog way of sarching.

  2009/02/01

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• 文化的孤独

  私がこの街で寂しいのは、話題を共有できる人が居ないからだ。川端康成夏目漱石内田百間谷崎潤一郎三島由紀夫小林賢太郎筒井康隆寺田寅彦村上春樹町田康ポール・オースターカート・ヴォネガットヴィトゲンシュタインJ．L．ボルヘスガルシア・マルケスレーモン・クノーブローティガンジャン・コクトーイタロ・カルヴィーノフランツ・カフカトルーマン・カポーティミラン・クンデラマヌエル・プイグボリス・ヴィアン或はロートレックやエゴン・シーレ或はチャーリー・パーカーマイルス・デイヴィスホーコン・コーンスタカウント・ベイシービル・エヴァンスコルトレーンロイ・ハーグローヴフィル・ウッズアントニオ・ハートサドメルジョン・ゾーンレナ・ホーンジョニ・ミッチェルロバータ・フラックジョン・ケイジホセ・フェリシアーノモンテカルロ76メスクラエリカ・バドゥアル・グリーンチャカ・カーンシアター・ブルックルー・ドナルドソンドリーム・ウォリアーズスヌープ・ドギー・ドッグ徳沢青弦日野皓正篠田昌巳或はカッコーの巣の上でレナードの朝道エレファント・マンスティング蜘蛛女のキスフィラデルフィアシャイン真夜中のカウボーイマイ・フェア・レディサウンド・オブ・ミュージックバスキアゴースト・ドッグスリング・ブレイド東京物語ニコラス・ケイジフォレスト・ウィテカー或はスナオクワハラでも百人一首でもいい。趣味の悪いブラックジョークでも、愛についての理想論でも、世流を皮肉る笑い話でもいい。昨日みた夢の話でもいいし、今かかえている夢の話でもいい。誰か、そんな話をしようよ。

  2009/01/31

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• 寝具と食器

  私は毛布をなかなか洗えない。恋人の汗も染み込んでいる筈の毛布をそうしばしば洗うのは気が引けるのだ。かといって、彼の汗の匂いを、毛布からそれと嗅ぎとったことは無い。香るのは、お揃いで使っていた柔軟剤の香りと、私の使うボディクリームの香りだけだ。昔も、今も。だから、仕方なく毛布を洗濯する時にはいつもの洗濯よりたっぷりの柔軟剤を入れて、眠る前にはしっかりとボディクリームを体に塗る。そうすると、少し昔に戻れた気がする。未練がましい、女々しいことだね。今日は山にある家に行って、引越の際にそこに運んだままになっている馴染みの食器たちをひとつひとつ触った。食器を入れたケースはガムテープを貼って、私以外は使えないようにしてある。食器にも、私的な思い出が沢山あるからだ。「使えばそれが薄らいでしまう」と、毛布の場合のように危惧しているのではなく、それらの食器は親しい人とだけしか使いたくないのだ。家族は、この場合の「親しい人」にカウントされない。血の繋がらない愛しい人と血を繋げるために、同じ料理を、同じ食器を使って食べてきた。純粋な思い出を、そうでない使い方によって不純なものにしたくない。どちらかといえばこれは或る種の潔癖性なのかな。皿やカップを愛しく触って、また元のように封をした。寝具を共有することと、食器を共有することは、私にとっては等価なのである。

  2009/01/30

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• どうしようもない

  今、矢も盾も堪らないくらいに恋人に会いたい。でも、今からじゃあ電車も飛行機もない。糸目をつけずに車を頼めばいずれ着くにせよ、そんなんじゃ気持ちに到底間に合わない。私が走ったところで然り。恋人に今夜会いたい、という望みが叶わない可能性は、限りなく100％に近い。世界が平和になりますように、という望みが叶う確率よりも徹底的に低い。じゃあ明日にでも新幹線に乗って、という話じゃない。そんな悠長な、というわけではなくて、そんな種類の話ではないのだ。今夜、私がどんなに会いたかろうが、どんな手をもってしても今夜は会えない。こういうのを、「どうしようもない」って言うんだろうな。とりあえず声だけでもと電話をしたら逆効果だった。いつもなら「声を聞きたかった」とそのまま言えるのに、今夜はそれを口にすることさえ憚られるような有り様で。胸の奥、肉の下、肋骨の中をひどく蚊に刺されたみたいに、手の届かないもどかしさに震えるほか手だては無く。ああそうか、これが「遠い」ってことなんだな。追伸；愛しい人が、どうにかすれば今夜中に会いに行ける距離にいる人へ。私が今までなおざりにしてきたその「距離」の貴重さと有難さと幸運さを、ぜひ愛情という形で、あなたの愛しい人に還元してあげてください。

  2009/01/29

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• 宿題型人間

  以下、散らかった本題。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝私は今パジャマの上に、ジグソーパズル模様にキルティングされた、無地で真っ赤な膝まであるガウンを羽織っている。実家に暮らすと、自分で選んだもの以外のものを身につけることがある。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝そしてどうしても「あの店で美味しいパンが売っている」等の文の、「が」の使い方に納得がいかない。その普及にももっと合点がいかない。言葉は生きているからこそ変化するのであり、変化しなくなったらそれは死んだ言語なのだという主張は最もだと思う。でも、肌に合わないものは肌に合わない。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝宿題型人間、というか推敲型人間を否が応でも自覚する私。同時通訳よりも練りに練って翻訳を仕上げるのが好きだし、向いているとも思う。即興型人間も面白いだろうなとは思えど、やはり推敲型、宿題型人間であるが故の自分だなと最近とみに感じている。だから、レースやギャンブルではなくて、ボードゲームのほうが好きだ。ボードゲームみたいに、何手先までもを読んだり推察したりする会話が好きだ。でも今のところ、家族と教え子の他にそういう話し相手は居ない。形の無い、ストラテジックな会話が恋しいと思う。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝ブログのトップページをいじりました。自分用の記録も兼ね、今まで手がけた仕事／作品の中からクレジット（名前）が出ているものをリストにしてみました。携帯からでは見られないと思うので、ぜひPCにてどうぞ。…以上、宣伝でした。

  2009/01/28

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• TDL

  ブログやメールだと、改行が手軽だ。改パラグラフもスペースの多用によって手軽になった。人が口頭で会話するのが下手糞になった元凶として、これらの普及も関与しているんだろうなと思いつつ、わたしも気軽にエンターボタンをクリックする。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝薬を貰うと、種類ごとに別の袋に入ってくる。同じ種類の薬でも、夕食後用と就眠前用だと、これが別々の袋に入って出されてくる。そのジップロックみたいな袋には薬の名前や服用時の指示がプリントされた、白い紙がぺらっと同封されている。これが、結構たまる。なので、この紙たちを裏返して重ねて机に置き、有効活用すべくタスクリスト兼メモ用に使っている。タスクリスト、という言葉は嫌いだ。なんとなくプレッシャーがある。なので私はずっとこれをTO DO LISTと呼び、TDLと略している。そうするとすこし楽しい。東京ディズニーランドと同じ頭文字になるからだ。でもディズニーランドがそれほど好きなわけでもない。遊園地は、富士急ハイランドに限る。つまり、絶叫マシンの充実度に限るのである。まあいい。家でもTDLをつけるようになってから、なんとなく楽になった。ような気がする。すべきことが頭の中でぐちゃぐちゃしている状態よりも、それがどんなに数多く混み入ったことであっても、文字となって目の前にあるほうが爽快だ。明日のためのTDLには、面倒なことが八つ並んでいる。それぞれの項目の左に付された「□」を塗りつぶすのは、いかにも「やっつけた」感があってこれまた爽快なのだ。「□」は私にとってチェックボックスではない。名付けて「塗りつぶしボックス」だ。しっかり済ませたらぐりぐりと塗りつぶしてやる。前職からの癖だというのは気に入らないが、まあ佳しとしよう。今でこそA5の紙に八つ、という可愛いものだが、前の仕事ではスケジュール帳などでは間に合わず、A4の裏紙びっしりに毎日TDLを書き込んでいた。私ひとりが辞めてから三人を雇ったという会社。今頃どうしているんだろうか。

  2009/01/27

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• 電灯と街路樹

  夜、自転車を押しながら家に繋がる坂を登っていた。ふと、この道はこんなに明るかったかな、と思った。見上げると夜空に、街灯の光がくっきりと姿を見せている。そうか、あれが照らしているせいか、と明るさの元は知れたものの、どうも判然としない。すっきりとしない。街灯はずっと前からこの道にあったのに、今夜はやけに明るいのだ。少し考えてからもう一度見上げてみて、街路樹の枝という枝がすっかり切り落とされているのに気がついた。幹と、太い枝元だけを残して寒々と立つ木々に、もはや電灯を邪魔する葉のあろう筈がない。この寒空に、あんなに裸になって、と街路樹を不憫に思った。その反面、明るく照らされた歩道に安心感を覚える自分が居る。これは矛盾だとも思った。街路樹は、暑い日向に影を落とすために植えられたもの。街灯は、暗い夜道の足下を照らすために建てられたもの。おそらく新参者であろう街灯の、灯りを妨げるからと言って枝を落とされる古参の木々は、やはり可哀相な気がした。まず、街灯と街路樹とがくっついて立っているのがいけない。それぞれを均等に離して建ててやっていれば、どちらもうまくやっていけただろうにと思う。ただ、街灯と街路樹をくっつけて建ててしまうと、今度は人間が家から車道に出る隙間が減ってしまう。幾重にもなる人間の都合によって、毎年、切り落とされると分かっている枝葉を茂らせる街路樹が、何だか不憫で、私は偽善的にもそこに自分を重ねてしまった。次の春もめげずにいっぱい繁れよ、と念じて家に向かった。自分への激励も、ちゃっかりと混ぜての祈りである。見様によってはなかなかに、裸の幹も心頼もしいものだ。

  2009/01/26

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• たとえ話

  まずは朝の疑問を整理してから進む。準備／用意／支度の意味の違いについて。【準備】　用意すること。支度すること。【用意】　(1)ある行為・行動をする前に、あらかじめ必要なものをとりそろえること。　　 準備。したく。 　(2)意を用いること。深い心づかいのあること。 【支度／仕度】　(1)準備すること。用意すること。 　(2)外出などのために服装を整えること。身支度。 　(3)食事をすること。 　(4)あらかじめ見積もること。計算すること。 国語辞典おなじみの堂々巡りに、見事はまったようだ。敢えて云うなら「仕度」という響きが一番好きだ。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝心が擦り傷だらけになったり、落下し続けていたり、古いゴムボールのように感じたり、張り切れそうなとき、私は「心」そのものをまず形としてイメージした。そしてそのイメージを壊す。傷だらけだと感じたときは、そんな皮膚めいたものなど無いと。落ち続けていると感じたら、そんな重力など心の周りに無いと。弾力を失ったと感じたなら、そんな明確な輪郭など心に無いと。張り切れそうだと感じたら、そんな物理的限界は存在し無いと。闇と感じた部分は、どこか他と繋がる、ただの穴だと考えた。濃淡の差はあれど限りのない粘液の宇宙のようなものが心。そして、粘度の高い部分でじっとおとなしくしていることも、粘度の低い部分でさらさらと自由に飛び回ることも、何だって可能なのだ、交わることも拒絶することも、と考えた。心は自分の中にあり、同時に自分の外にあるものだとした。ただ、心など無いとは決して考えなかった。世界の全てが「心」で出来ている可能性はあっても、私を含む世界に「心」が存在しない可能性は無条件に却下した。そうやって、私は淵にたどり着いた。行き止まりも、底も、ただの穴だった。どこか別のところへ通じる穴だった。ぽっかりと何かを失うのではなくて、ただ何となく、無限が更に無限になったような風に思った。目の前に壁があると感じたからといって、体当たりする必要は無い。追われていると感じたら、追ってくる者に向き直って座って見据えてやる。それでも圧迫感が拭えなかったら、少し、流されて待つ。それでも無力感が拭えなかったら、少し、諦めて泣く。それでも不安感が拭えなかったら、少し、何かを抱きしめる。私は、心に関しては今、けっこう楽だ。私ぬきでは存在できないくせに、手に負えない困った子だと思って、よしよしと面倒を見たり放置したり、出来るようになったのかもしれない。心に振り回されて何も見えなかった時期から、心に振り回されることも含めて客観視できる時期へ。誰かはこれを、離人症の重度化と笑うかもしれないけど。少なくとも数年前よりは、私は心の扱いをものにしつつある。心が言うことを聞かないときは、「ふうん」と言って横目で眺めておけばいいのだ。

  2009/01/25

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• 傷への同調

  準備と支度と用意って、どう意味が違うのだろう。実のない疑問からまた、今日が始まった。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝眺めていると、とかく傷ついた人々が多い。というよりも、目に見えて傷つき始めた人が多い。傷が目に見え始めた人、それを自覚し始めた人、と言った方が正しいか。心が鉛のようになっていたり、心から血を流していたりする。私はそれらに見覚えがあるから、懐かしさを覚えたりする。個々の事情はどうあれど、その痛み或は麻痺が、どれだけの深刻さを以て心から体を蝕むかも容易に想像がつく。こうして思い返せば、私の、心の部分の闇は底を打った。そして今、彼らのために何か出来ないかと考える自分がいる。傷に同調するのは比較的簡単な行為だ。痛い、辛い、死にたい、どうでもいい、苦しい、先が見えない、いつまでこれが続くのか、自分ばかりが空回りか、何もかもが手遅れか、誤った選択だったのではないか。「そうだね」と云う代わりにもっと具体的な言葉で痛点を描写して安堵させてやることもできなくはない。でも、できることならそれは避けたい。私だってまだ淵にいる人間だから、少し危険なのだ。だから私が見つけられただけの希望なり安心なりを、遠くないいつか、言葉に紡げたらいいと思う。救うなんておこがましいものじゃなく、癒すなんて月並みなものじゃなく、ようやく淵まで這い上がれた一個人の事実として。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝今日、私の街では、風は冷たいけど南から吹いている。

  2009/01/25

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• 随筆の時代を偲んで

  ロングピースの買い置きが底をついたから、非常用の缶ピースに手を伸ばす。慣れてきたから、唇に付く葉も減った。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝睡眠導入剤５種、計９錠。サプリメント２種、計４錠。漢方カプセル２種、計10錠。解熱鎮痛剤１種、計1錠。しめて24錠を飲むのが晩酌代わりの夜の習慣。従って今、私は薬学的に言うと素面ではない。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝ニュートラルでいる為に、私はいつも血眼だ。凪いでいる為に、平らでいる為に。次の時代はいつから始まるのだろう。この四半世紀は、どう記憶されるのだろう。そうだった、そうだったと頷きながら、結局は自分も大流の中に有った、或いはそうではなかったと知る。その時わたしは笑うかな、それとも泣いてしまうかな。或いは珍しく腹を立てるかな、そうして見なかったことにしようとするのかもしれない。感じた安堵なり孤独なりから遠慮がちに立ちのぼる過去の、まだ生きている半端な過去特有のにおいを。生きたさに胸を焼かすこともない。ただ、昨日も明日も生きている。まんべんなく心臓を打たせて、真の沈黙はまだまだ来ない。書くことへの失望が、街に並ぶ「書かれたもの」への失望が、今夜も私を苛立たせ、そしてまた投げやりにさせる。あんなに紙を無駄遣いして、人は何を求めているのか。知識か、流行か、話題か、感動か、核を揺るがす強烈な美か。随筆が生きていた時代に、私も生まれたかった。読み返した寺田寅彦に私は、羨望と感銘を混ぜた溜め息と涙を捧げた。浪漫と情緒と余韻と夢をはなから与えない、という点でのみ、現代社会は確実に成功している。企図していないとは言わせない。それだけが、美しかった日本の、無形資源だった筈なのに。

  2009/01/24

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• 会いに来てとは言わないよ

  大好きなんだから困るよね。ダントツ過ぎて他の人なんかと比べられない。同じご飯を何回食べたかな。レコードを何枚聴いたかな。洗濯も掃除も、手慣れたもんだよ。眠りの最中にうなされているときは、額を撫でると落ち着いてまた安眠に戻るんだね。あなたはいつも裸だ。ひとりで入っている風呂に、ひょいと参加してくる。「そこ、泡残ってるよ」とあなたは言ってくれる。「もっと強くて大丈夫」と言うあなたの背中をこする。小さな浴槽の中で、指で戯れたりする。上気した私は先にあがって、夕食を整える。ご飯は２ストロークでよそうこと。という日本人じみたあなたの諭し。乾杯するときは目を合わせないと。というチカーノマニアのあなたの教え。ベランダから見える小学校のプールに昼間は目が釘付けで、夜になると首都高の夜景の素晴しさに溜め息だけで感想を述べる。安物の赤ワインで上等。朝は豆乳入りのコーヒー。レーズンパンにチーズを乗せるとおいしい。広げた新聞の上で、せわしない朝食が楽しい。眠りの浅い私が寝返りを繰り返すと、自然に私の形に窪んだ肩に、私の頭を乗せてくれたりしてね。失恋したわけでもないのに泣けてくるのはなぜだ。会いにくれば良いのに、とか、遊びに行くよ、とか、私もあなたもそんなことを冗談混じりで言う。会いたいとか、欲しいだとか、恋しいだとか、そういうことを言えない私の冗談には、いつも喉からの血が混じってる。私が、自発的に、100％自己中心的に欲している人は、今、彼を置いて他にはいないのです。そんなラブレターじみた直截的な言葉はまた、あなたが私を持て余すか子ども扱いするかの格好の材料になるので、今の所はまだ、このささやかな吐露スペイスに留めておきます。私は、あなたが年を経て弱るのを虎視眈々と待っているの。そう電話で伝えたら、大笑いして「そりゃいいな」と返すあなた。限りなくアクシデントに近い一夜から始まった関係は、いつの間にか異常に家庭的なエロチシズムを保ったまま、両者の、明言化されないたゆまぬ努力と欲望によって、今のところは保たれているわけで。これを愛情と呼ばすして何と呼ぶか、と詰め寄りたい自分を、いさめるまた別の自分。現実なんて、糞でも召し上がれ、だ。会いたいと思ったときに会える場所に恋人を持つ人が、今宵はどんな大金持ちよりも羨ましいんです。

  2009/01/23

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• 夢と計画の再整理

  夢。　　今月中から、さっそく自動車学校に通う。　　３月の試験で、TOEICで860点以上を出す。　　地元の、目をつけている企業にアタックする。　　４月ごろ、正社員として働きだす。　　翻訳のPh.Dは順調に事を運ぶ。　　来年３月の卒業に向け、怠らず勉強と仕事のW草蛙。　　蓄えつつ、遊びつつ、家族の様子を見つつ、　　蓄えが貯まったら恋人の元へ移り、近くで生きる。　　このころには、「その後はその後」と割り切れたらいい。　　40になる頃には、滅私の精神も自然に身につけ、　　それまでに甘えるということを覚える。具体的すぎる。具体的な夢は、けっこうプレッシャーなのだ。

  2009/01/22

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• この街

  もはや熱を出す力も体に残っていないのだろうか、と思うくらいにただぐったりと重力の一部になる他に手の打ちようのない日がある。　　　　このままこの街に私は生きるのだろうか。ニュートラルなニュアンスで始まった問いが、徐々に、個人的な政治的様相を帯びてくる。　　　　このまま私はここに居た方が良いのだろうか。歳をとってゆく家族が、こんな体とは言えど私が戻ってきたことで降りかかる災難に鷹揚に立ち向かう力を付けた。ともすれば過剰に弱気に、過剰にヒステリックになりがちな老年期の始まりを、私の存在が少しでも和らげられるのなら。遠い街で仕事に就きそうだという弟からの報せに、喜ばしくも寂しげな空気を醸し出した居間の中で、私は身の置き所が、身の置き所を、考えざるを得なくなる。　　　　私はここに居た方が良いのかもしれない。そんな風に思いが傾きかけてくる。自分の欲望や夢が、言い訳混じりの思いやりで脱線したのは何も今に始まったことではない。始まりは14の時だ。あれから12年経つが、私の根本は変わらないらしい。人は私の家族を、仲が良い仲が良いと目を細めて口々に。けれどそこにはそれぞれの努力があることを、実感として認めながら彼らは、そういった言葉を口にしているのか。私はここで学業に一区切りを付け、恋人のいる懐かしい街に戻りたい。その気持ちは今も変わらない。これからしばらくも変わらないだろう。でも、刻々と家族は老いていくのは事実だ。自分に向けられた期待の読み取りにばかり奔走してきた。そうしてそれを叶えては、自己満足と、深い安堵に包まれてきた。ひとつ乗り切った、それを幾度こなせば私は自由に選べるのか。自由とは何だろう。ここにいろ、この街で生きろ。そうやって是が非でもと足下を掴む手を探している。ここに来い、俺の傍で生きろ。そうやって是が非でもと体を包む腕を探している。今の私には決められない。決める前に、片付けるべき事務的な学業が山積している。その間にも、時間は過ぎてゆく。私は、焦っている。順調に落ちてゆく体力は別として、波はあれどゆっくりと下降しはじめた熱。熱の下りきったところから、新しい方向を考えるのでは遅いのか。その頃にはもう、既に決めておいた道に進むのが筋なのか。ああもう、後先もわからないよ。恩とはなんだ。「誰かのため」という誘惑的な影を振り払って、そこに残る私の本音とは一体なんなのだ。

  2009/01/21

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• 世のならひ

  　おもしろき　こともなき世と　詠ませしぞ　げにおもしろき　世のならひかな＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝日本の総理大臣は漢字の読み間違いで注目を集め、アメリカの大統領は就任演説の内容で注目を集めている。前者は好奇心による注目、後者は期待による注目。近所にて同日同刻、二人が別々の場所で話をするというなら、私だって大統領の話のほうを聞きにゆきたい。日本の総理大臣は、自分で書いたという原稿を、まるまる目を落としながら読んでもきちんと読めない。アメリカの大統領は、プロのライターが居ると公言しつつも、その言葉を芯から自分のものにして、人の目を見て堂々と話す。うちの国の使えない官僚達をまとめてイラクなりどこなりへと差し出すから、ゴア氏かパウエル氏かを、こっちにトレードしてもらえないだろうかと、半ば本気で願う始末である。でも麻生さんがちょっと不憫なので、オバマさんの就任演説は生で見るのをよしておく。国会中継は、かなりバラエティ番組化している。でもNHKで放送するには、ちょっとぐだぐだすぎる。NHK番組の中でかなり、クオリティが低い類に属するんじゃないかな。うん。

  2009/01/20

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• 婦人と呼ばれる日

  婦人、と呼ばれる日が遂に来た。「婦人科」にかかり、「基礎体温計」なるものを渡される。私の熱が下がらないのは、といつもとは違う医師が言う。ホルモンバランスの異常か、悪性細胞（腫瘍ね）か、呼吸器系の炎症か、尿道系の炎症か、考えられるのはそのくらいかも、と。最後のひとつである可能性は、久々の尿検査で消えた。PETとか、受けた方がいいのかなあ。それにしても、「婦人用体温計」と明記された体温計のパッケージをしげしげと眺めていると、「婦人」という字面ばかりが気になって仕方ない。どっちかというと、「夫人」に早くなりたいんだけど。

  2009/01/19

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• 英語の点数

  センター試験の英語、大人なので規定の半分の時間で解いたら188／200点。TOEICの模試、時間ないので3/4の時間で解いたら855／980点。＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝教え子は、いつもの160点台がたたき出せず、140点台だったそうだ。私はこれを「甘んじて」とは言わない。点数を聞いた瞬間、ああ、がっかりしているのかなと思ったが、「英語に関してはやることはやったと感じてるから、　何にも思い残すことは無いんですよ」との彼女の言葉が頼もしかった。思い残すことがないほどの努力、というのは何にも、時には結果よりも得難い貴重な実感であり、経験である。達成感の質の高さ、密度の濃さこそが、その後の人生のバロメーターとなる。そして私は、過去の自分がたたき出したバロメーターに、脆くもひれ伏してしまいそうな感じがしている。

  2009/01/18

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• ブレードランナー

  読んでおこうという本や、観ておこうという映画があります。前者のランキング１位は現在、サルトルの「嘔吐」ですが、後者のランキング１位だった「ブレードランナー」やっと観ました。私の生まれた年に公開された、いわば同い年の映画。…途中で寝ました。音楽が妙に気持ちよかったので。目が覚めたら、テリーマンみたいな人が半裸になっていました。ハリソン・フォードの若々しさや女優さん連の奇抜なファッション、ビルの巨大電光掲示板に輝く「わかもと」のコマーシャルが気になりつつ、原作との違いと字幕の変さへの違和感が拭えないままエンドロール。「アリー・マイ・ラヴ」にハマる　　↓ロバート・ダウニー・Jrが好きになる　　↓「スキャナー・ダークリー」を観てみる　　↓フィリップ・K・ディックが気になる　　↓原作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」を読む　　↓映画化された「ブレードランナー」を観てみたいという流れだったので、仕方ないといえば仕方ないかな。ある映画なり本なりを手に取る過程を振り返って辿ると面白いですね。うーん、途中をかなり飛ばしてしまったので、もっかい観てみます。にしても音楽は好きでした。「パリテキサス」「ベニスに死す」は好みじゃなかった私ですが、これ観たら面白いんじゃない？という古めの映画があればぜひおすすめを教えてください。次点繰り上げで気になっているのは「大脱走」です。その次は「タクシードライバー」に再挑戦の予定。「俺たちに明日は無い」も、見直してみたいです。「エレファントマン」「道」「真夜中のカウボーイ」「スモーク」「シャイニング」「カッコーの巣の上で」「サウンド・オブ・ミュージック」「マイ・フェア・レディ」「スティング」「グッドモーニング・ベトナム」「ゴッド・ファーザー１」は好き。

  2009/01/17

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• 香水の思い出

  加湿器用の水に、あまり使わない香水を垂らしたら、思いのほか濃い芳香が部屋を満たして、女の部屋みたいになった。無音、は好きだ。無臭、は苦手だ。某かの香りがある空間なり時間なりを私は佳しとする。それが香水であっても、沈丁花であっても、花火であっても、木々の香りであっても、リビングに残った前夜の焼き肉の匂いであっても、愛しい人の髭の香りであっても、柔軟剤の香りであっても。ちなみに、加湿器に垂らしたのはGUCCIのENVYだ。失敗だ。爽やか過ぎる。かといってDiorのDUNEは甘いし。ここにCHANELの５番なんかを落とす日が来たら、私は確実に老けるな。油性じゃないアロマエッセンスなんて、どっかに売ってないもんかな。

  2009/01/16

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• トリートメント大作戦

  髪の枝毛を丹念に排除して、挑むは月１の自前トリートメント大作戦。柘植の大櫛でざっくりと流れを整理してから、ブロッキング。枝毛とその予備軍を、大胆かつ仔細に取り除いてゆく。それが済んだら、オリジナルのヘアパック作り。卵一個、オリーブオイルと蜂蜜をかき混ぜる。お風呂場で全部脱いでから、髪の毛全体に行き渡るようになじませる。浴槽に浸かりながら数分蒸らし、ざっと流してシャンプー＆コンディショナー。タオルドライした後にウェラのケラチンを吹きかけ、熱めのイオンドライヤでざっくり乾かす。もういちど、大目の櫛で毛先から解きほぐした後、椿油を髪の下半分に馴染ませて仕上げの感想。最後は冷風できりっと引き締める。そうしたら、髪をふたつにわけてインディアン風の三つ編みお下げ。お風呂に入ってる時間より、あがってからの髪の手入れが時間を取る。さて、甦るか私のスーパーロング。

  2009/01/15

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• 男たち

  お土産、というひと言で、ひょいと香水をくれた男の子が居た。花火大会から戻った瞬間、袷から手を差し入れて裸の背中越しに私を求めた人が居た。女の髪はずるいな、と言って、背中に流した私の髪を梳き続けた男がいた。キッチンでもソファでも床でも関係なく、私を優しく強引にいじった人も居た。口づけかと思ったら、ぬるくなった赤ワインが流し込まれたこともあった。まるで子どもみたいに、気がついたら私の脇の下に丸くなっていた子もいた。アクチュアリな性的関係は、結局似たり寄ったりだけど、それ以外の手法のオリジナリティは、性格を表すのか、おもしろいな男って、と思う。

  2009/01/14

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• 大きな月

  昇り様の大きな月がこわい。そう話したら笑われた。大きな月は、丸ければ丸いほど、赤ければ赤いほどこわい。嫌いなものは多々あれど、とりたてて理由も無くこわいものは、私の弟にとっては「まっくらもりの歌」である。さて私にそういうものがあるかと考えてみても浮かばなかった。ただ昨晩、ぬっと出しなの赤い月を見たら、なんとも形容できぬ不気味さが体を包んだ。久しく見ることがなかったが、そういえばこれが苦手だった、と思い出した。のっぺりと、どうしても球体とは思えない、空の穴のような、あるいは画用紙を貼り付けたような、大きな丸い、低い月は、「わたしのこわいもの」だ。

  2009/01/13

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