第七話『チロの姉妹は「チビ」。「チロ」の姉妹だから「チビ」。 あの灰色猫によく似た丸顔で、上がしましまで下が白い毛の猫。 目尻がきりっとした美猫で、ふかふかの毛はしっとりとビロードの様に指にまとわりつき、あの子はいつまでも撫でていたんだって。 魚箱の詰まった小屋で生まれた2匹を、羽衣音はきちんと見つけてね。 あなたくらいに小さい頃から育てていたの。 あの子の新しいスニーカーにじゃれついて、噛みついたりひっかいたりしても、あの子は嫌な顔ひとつせずに見守っていたんだって。 特に「チビ」は、抱き上げたあの子の洗い立てのカーディガンに吐いてしまったり、いろいろやったらしいわ。 そんな「チビ」はとってもヤキモチやき。 あたしたち猫族はもともと気位が高い上にちょっぴりやきもちやきだけれど。 「チロ」はあの子の父親が可愛がり、「チビ」はあの子が可愛がっていたのもだから。 あの子の出勤前に木登りして、下りられなくなったふりをして、あの子を遅刻させかけたり。 会社から帰ってきたあの子の車に1番に飛び込んでひかれそうになったり。 チロが風邪をいて、鼻水で鼻がふさがり苦しそうなので、蒸しタオルで顔を拭いているあの子に飛びかかってひっかいたりもしていたんだって。 その内、あの子のアレルギーもひどくなってきて、あんまりあたしたちには近寄れなくなってしまったの。 冬の始まりに入れてもらっていた玄関で、「チロ」はあの子の父親の膝にのったりしていたものだから、「チビ」もあの子を追いかけてね。 居間にまで追いかけて、飛びかかって、とうとうあの子の胸元にまで昇ってしまったの。 「チビ」の重みで思わずソファに座り込んだあの子の胸元にチビはしっかりとしがみついてね。 思い切り爪をたてた四肢をぎゅっと引き寄せてうずくまり、顎をすりつけたまま決して離すものかと目をつぶり、眉間に深々としわを寄せるその姿に、あの子も動けなくなってしまったの。 左手で口と鼻を抑えたあの子の右手は、そんな「チビ」の首筋を優しく撫でていたんだって。 5分ほどであの子の父親に後ろから捕まえられたチビは案外簡単に離れたのだけれど。 アレルギーの発症したあの子の苦しげな咳は一晩中続いたそうよ。 それから「チビ」はあの子との上手な距離の取り方が判ったみたいだけれど。 それは「チビ」もあの子も少しだけ寂しいことだったって。 その次の秋、南瓜と一緒にトラックに乗って出荷されてしまった「チビ」だけど、あの子が今でも1番可愛がった猫は「チビ」なのよ。』 バカな猫ほど可愛いって言うからね。 ちょっぴりイヤミに言うとはいね親分はそのコワイ顔を少ししかめて『あなたは有能すぎるわね』と言った。 |