第十八話川の側のせいか、うっすらと霧がかった朝。おおきな道路からの枝道を黒い軽乗用車がやって来た。 車の中なのに、運転手は目深に野球帽を被ってる。 こんな時だから、あたしは妖しいモノはとことん疑うわよ。 羽衣音農場入口、そこから私有道路に入る真ん中にあたしは4つ足を踏みしめて立ちはだかった。 右ウインカーを出して静かに私有道路に入った軽はそこに現れたあたしに驚いたのかブレーキを掛ける。 あたしはウインドウ越しに睨みつける。 何の用?羽衣音農場に何の用事なの? 軽はそのままバックして、元の大きな道路に向かって行った。 小さく溜息を吐いたあたしは、くるりと向きを変えて羽衣音邸に戻る。 ちょうど朝ご飯を抱えた羽衣音が玄関から出てきた。 道路から走って駆けつけるあたしの姿を見た羽衣音は 「こにゃん、こんな朝っぱらからどこに行ってたの。」 なんて言う。 「今日はちょっとお買い物に行くからね。きちんとお留守番しててね。」 ブーツカットのジーンズに紫のサンダル。 ラベンダー色のカットソーにデニム地の小さなバッグ。 くるくるした頭で案外、人間って変わるもの。 去年から見たら、羽衣音は本当に変わったわ。 1時間ほどで帰って来た羽衣音は、ケンタッキーのそそられる匂いをしていて、しつこく迫ると 「きちんとこにゃんにもお土産買って来たからね。お留守番と見廻りのご褒美。」 って美味しいササミを取り出した。 「お天気が悪いから、なかなか洗濯物が乾かないの。」 そう言うけど、羽衣音。 暑くて不用意に1階の窓を開けないから、あたしは安心よ。 この後の羽衣音は大量のゴミを出しに行ったり、羽衣音農場のゴミ拾いをしたり、空き缶を出しに行って空き缶の元を買って来たり、洗濯物を干しすぎて洗濯物に襲われたり、ちょっぴりドジなことをしていたけれど。 羽衣音の模様替え4日間はあっと言う間に最終日。 お天気が悪いために羽衣音ぱぱとままの帰郷は4時間ほど延びた真夜中になったりしたけれど、みんな無事で羽衣音邸に帰って来られた。 みんなが気付くのは、もっと後だね。 前の月からこの月にかけて、農村地帯で泥棒が頻発し、夜中に押し入られたり、お金や農機具を盗まれてたなんて。 気付かなくてもいい。 判らなくてもいい。 あたしは羽衣音を守ることが出来たから。 |