その3春休みも終わった4月の土曜日。学校から帰って、つまらないお昼のテレビを由記ちゃんはリビングのソファにこしかけて見ていました。 テレビの番組が1時ちょうどで切り替わった時、1台の4WDが家の前に止まります。 時間通り。 庭先で話し声が聞こえました。 そうして、 「犬が来たぞ。」 お父さんが玄関先から声をかけます。 その時、由記ちゃんが外へ出るのに、どれだけの勇気を必要としたことか想像出来るでしょうか。 今まで由記ちゃんの人生、及び家の周り半径十m以内に決して入り込むことはなかった犬が、今、家の庭先にいるのです。 深呼吸してそろりと玄関のドアを開けた由記ちゃんが目撃したのは、『みつ』と言う8歳になるオスの柴犬でした。 赤茶色の毛で、思ったより小柄でしまった身体つき。 胸からおなかにかけて白い毛がふわふわとしています。 毛並みの良さは、さすが血統証つきと言うところでしょうか。 車の中のオリから出され、新しい風景に落ち着かずに走り回っています。 そうっとお父さんの背に隠れるようにして外へ出ました。 どきどきと心臓が高鳴ります。 「わん。」 ぎゅっとお父さんのシャツをつかんだまま、ちらりと顔を出した由記ちゃんを見て吠えました。 『犬だ。恐い。』 それが由記ちゃんのみつへ対する記念すべき、第一印象だったのです。 |