ある時、実家に帰って来た姉が言いました
「はいちゃんって、あのはいちゃんなの?」
姉の言うあのはいちゃんとは、姉が嫁ぐ前からいたはいちゃんで
そのはいちゃんならば、少なくとも12歳は超えていることになります
そう気付いてからのはいちゃんは、まさにその年齢を感じさせるようになりました
毛並みは悪くなり、目は見えにくく耳も遠くなったせいか行動は鈍くなり
口が締まりなく、頻繁に風邪もひくようになりました
「あれは今年の冬は越せないだろう」 父が言いました
それならばと、はいちゃんのご飯を
かりかりから高齢猫用のウェットフードに替えました
食欲は良くなり、ゆっくりとけれど美味しそうに
はいちゃんはご飯を食べました
仏教において老いることは苦しみです
長生きをしたいとは思っても、老いることは望みません
羽衣音も自身や両親の老いを見、それを恐れました
老いることは苦しい
そしてその先には死がある
けれどもはいねは老いても変わりませんでした
身体は不自由になっても「何かね」の眼光はそのままに
自分の生活を守り、自分より幼いものを守っていました
老いは苦しい
けれどもはいねは決して負けずに
父が越せないだろうと言った厳しい冬を乗り越え
うららかに春と夏を過ごし
この秋、静かに死を受け入れました
はいちゃん
北の魔境を守ってくれてありがとう
はいちゃんが最期まで一生懸命生きてくれたから
羽衣音はもう何も恐くないよ