第3話 崩壊【 第3話 崩壊 】![]() 平成元年12月。 史上最高値を記録した東証平均株価は 翌年初頭から坂道を転がるように暴落を続ける。 世に言うバブルの崩壊の始まりである。 おかげで財産を失い、大変な思いをした人も 沢山いた。(実際、私も多くのお客さんに迷惑を かけたし、今でも顔向け出来ない人もいる) でも、ひとつ良い面をあげるとすれば これを機にそれまでノンストップで走り続けた 人達に考える時間を与えてくれたことだと思う。 何のために働いてきたのだろう? お金や財産とは何なのだろう? とことん大きな痛手を被り ショックを受けた人ほど真剣に考えたほずだ。 しかし私がその機会を得るのはもう少し先のことになる。 ![]() 私はまだまだ順調に走り続けていた。 昇進、妻との結婚、そして平成9年度には 全国のトップセールスに選ばれるなど まさに順風満帆そのものであった。 しかしバブルと同様に、最高潮と思った時は 既に崩壊の始まりだったのだ。 「この仕事、代わりに引受けてもらえないか。 君なら大丈夫、あっという間に出来るよ。」 「今回の運営企画は任せたよ。 将来のために今から覚えておかないとね。」 ~ああ、私はおだてに弱いのである。 上司に乗せられるがまま、どんどん仕事は溜まっていく。 でも更なる昇進への期待と、プライドと見栄と そんないろんな気持ちが重なり合って 自分をますます追い込んでいった。 「頑張らなくっちゃ!」 ![]() 毎日大きなリュックに、持ち帰り仕事を 詰め込んで社宅へ帰るのが日課になった。 食事の時間ももったいないと思い カロリーメィトと、ビタミンドリンクが主食になった。 大好きな海にも行きたいとも思わなかった。 なにしろ「24時間戦えますか~」という CMが流行っていた頃だ。 疲れてはいたけど、そんな自分を 「結構カッコイイ」とさえ思っていた。 でもその頃から、大切な会議になると のどに何かが詰まった感じがして ろれつが回らなくなることがあった。 少し気になっていた。 「すみません・・・午後からの予定・・・ キャンセルして・・・もらえませんか ・・・猛烈に頭が痛くて。」 7月の暑い日だった。 取引先とのハードなやりとりの後 会社に帰ろうとしていた時のことである。 突然、今まで感じたことのない 激しい頭痛と、めまいに襲われた。 ![]() すぐ病院で検査してもらったのだが 悪いものでも食べたのだろうということ。 とりあえずその日は早引きして タクシーで家まで送ってもらった。 しかし翌日になっても 一週間経っても激痛のため立つ事も出来ない。 大きな病院で精密検査を受けた結果 原因は解らないが、脊髄液の圧力が 急激に下がっているので頭が痛いのだと。 原因が解らないので、治療は出来ないけど 入院してさらに詳しい検査でもしましょうか? ということになった。 焦った。 治らないこともそうだし 抱えていた仕事が気になってしょうがなかった。 ~俺がいないと会社が回らないじゃないか~ ![]() 入院して2週間。 毎日検査するものの依然症状は変わらず。 会社の方はといえば 私の穴埋めで大変だったようだが それでも何とか仕事は回っている。 ~あれだけ必死で働いたのは何だったんだろう? ~ 今までの張り詰めていた気持ちが緩むと同時に さみしい様な、少しホットした様な複雑な気持ちがした。 ベットに横たわりながら、ふと見上げると 青い空にポッカリ白い雲が浮かんでいた。 ~長い間、空なんて見なかったな~ 病室の天井を見ながら 自問自答する日々が始まった。 (第4話へ続く) 第1話 → 「いまあなたは幸せですか?」 第2話 → 「バブルの中へ」 第3話 → 「崩壊」 第4話 → 「事を成す」 第5話 → 「キラッと生きる」 コラム → 「私には夢がある」 公式HP Body curiosity ジャンル別一覧
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