2022/08/31(水)09:20
立秋・処暑の連続講座 その14 ~安さを演出する価格付け
立秋・処暑の連続講座 その14
~過去の連載より
端数価格とぴったり価格を使い分けよう! ~安さを演出する価格付け
「うちの料理長が価格を端数にするのを嫌がるのですが・・」とある有名ホテル出身の料理長がいる郊外にあるカジュアルな洋食レストランで打ち合わせの席で、オーナーそう言った。
590円、690円、990円という半端な価格を料理長が歓迎しないというのだ。
1000円と言う価格も990円の価格も金額的にはそんな違いはない。
その料理長にしてみれば、「990円という半端な価格は品が良くない」と思っているかもしれない。
あるいは「税別なのだから、どうせ消費税を足せば1000円を超えるんだから・・」と思っているかも知れない。
ただ言えることは、この料理長は誇りをもっておいしい料理を提供しているのであるが、お客様に割安感を感じていただき、注文して「これはとてもリーズナブルね」と思っていただこうという姿勢はないのかもしれない。
価格の表現、すなわち値付けのちょっとした工夫で、割安感を演出できる。
そして、私は意図的に商品の出数をコントロールすることに成功して、お店の売上や利益を最大化できることを何度も目の当たりにしてきた。
今回は安さを演出する価格付けについて掘り下げたい。
端数価格
端数価格とは末尾を、480、490円、980円、990円、あるいは498円、988円のように、0にならない半端な価格に値付けすることを意味する。
「498円、998円など一円まで端数にすると日常的に買い出しをする食品スーパーのようだ」と思われる人もいるかもしれない。おそらく、先に紹介した料理人もそのような印象をいだいたのに違いない。
しかし、このような端数価格の設定が購買時に価格差以上の割安感を感じさせる。
これを行動心理学では“端数価格効果”と言う。端数価格効果のおかげで、盲目的に安いと思ってしまうのだ。
端数価格効果の背景には、「500円以上の商品、あるいは1000円以上の商品を努力して、努力してここまで価格を下げました」という売り手のメッセージを無意識のうちに伝える効果、逆の見方をすれあ「1010円あるいは1050円に値付けされた商品は安く売る努力はせず、仕入れ値そのまま値付けしております」というメッセージを伝える効果がある。
そのため、1050円や1010円より、1000円のほうが、1000円より999円のほうが消費行動はアクティブになるし、730円より700円のほうが、700円よりも680円のほうが消費行動はアクティブになる。
この値付けで出数をコントロールできるのである。
ぴったり価格
端数価格とは逆に、催事や特売で“〇〇ぽっきり”のように、キレのいい“00円”で終わる価格が意図的に割安感を演出するときに使われることがある。このような500円、1,000円、10,000円などの価格を“ぴったり価格”あるいはちょっきり価格と言うことがある。
このぴったり価格は硬貨や紙幣と合致させて設定する。
“500円ぽっきり”はワンコインという表現がされ、ワンコインランチという言葉はよく使われ、『ランチパスポート』のような冊子にもなるくらいだ。
“1,000円ぽっきり”も“500円ぽっきり”のように使われるが、少し価値あるものをディスカウントした場合に設定される。
例えば、以前は宴会の飲み放題が1500円くらいで設定されていたことが多かったが、ここ数年は1,000円の設定も増えた。さらに端数価格にして980円に設定している場合もある。
“10,000円ぽっきり”は日常にない“非日常感(いつもの生活と違うと感じること)”の要素のあるものに使われること多い。
例えば、“記念日プラン”、“クリスマスプラン”などだ。この場合は価格に相応な“非日常感”が重要だ。
したがって、この価格帯のプランを売るには有名店、有名シェフにはアドバンテージがある。そうでない場合は、プランの料理やドリンクに“非日常感”のある要素を組み込む必要がある。例えば、松阪牛、神戸牛のような銘柄牛やフォアグラ、キャビア、トリュフ、蟹、鱶鰭、雲丹、鮑などの高級食材を活用することである。
“5,000円ぽっきり”はポピュラーゾーンで宴会などの利用しやすさのボーダーに位置づけることができる。
リーズナブルさをウリにした店の場合は魅力ある5,000円のプランの用意も大切である。
ちなみに、“ぽっきり”という言葉を使う場合、まとめ買いなどでなんらかの割引をして紙幣一枚までがんばった(勉強させていただいた)という表現に使う場合が多い。
消費税込、サービス料込、ドリンク込などお客様の利用最大額を見える化することで威力を発揮する。
そして、忘れてはいけないのが、コース料理あるいはプランの5,000円、10,000円のぴったり価格は、利用動機の境目になることだ。うまく活用して、将来につなげるべきである。
例えば、客単価7,000円~10,000円の店から見れば、5,000円が、客単価15,000円~20,000円の店から見えれば10,000円が未来の“本当の”お客様の入口となる。未来の“本当の”お客様とは顧客教育ができればあなたの店のかけがえなのないお客様になる見込み客だ。
この価格で未来の“本当の”お客様になる見込み客をつかみ、数年後、あるいは十年後に“本当の”お客様にすればよい。
そのためには、その見込み客の弱い部分は目をつぶり、信頼を獲得して、補完していけばよい。
例えば、「クリスマスのお客様はアルコールを飲まない」とするなら、現状の事実と受け止め、食事やサービスで信頼を得て、その後の接触で顧客教育ワインの楽しさに気づいてもらい、ワインとともに食事を楽しんでいただけるようにすればいい。ぴったり価格で売れても一喜一憂せず、未来を創っていただきたい。
2015年3月号「日経レストラン」より