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風光る 脳腫瘍闘病記

車イスデビュー

1週間もすぎるとさすがに体も元気になり、ベットの上で24時間、過ごすのが退屈になってきた。

PTに「飽きてきたんだけど?」と相談したところ「じゃあ、主治医に聞いといてあげる」それでOKがでたら車イス乗っていいよ。と言ってくれた。

「ってゆうか明日シャワーの日?」そう、私は術後1週間して傷口がよければ明日入れる事になっていたのだ。久々のシャワーに私は胸を躍らせた。

K先生が傷口をチェックしてくれた。「大丈夫ですね、お風呂、OKですよ」

「うれしい~」さっそく入浴の準備をした。したと言っても私は相変わらず一人では動けなかったので、準備は看護婦さんが全部セッティングしてくれた。起き上がる事もできないのでアミアミのストレッチャーに寝たまま移動して寝たままのシャワー浴となった。

まな板の鯉状態だ。二人がかりで体を洗ってくれた。久しぶりのお湯に私ははしゃいだ。お湯ってこんなに気持ちのいいもんだったんだねぇ~と感動した。

数日後、主治医から車イスのお許しがでた。「やっとベット周りからの景色から開放される」

「おまたせ~」PTのO先生だ。黒い車イスを持ってきた。
「かっこい~じゃん」
「さてと、とりあえず、コルセットしなきゃね」私は起き上がるときはコルセットをしなくてはならなかった。胸の上から腰まであるコルセットだ。

ベッドの上にぶら下がっているワッカの手すりにつかまって体を少し浮かして、その間に先生が素早くコルセットを私の下に敷く。それでマジックテープでしっかり固定して、私は初めて起き上がる事が出来るのだ。

術後、初めての起き上がり。慎重に事を進めた。自動ベットで自分で操作してベットアップしていく。90度までベットアップするのが今回が初めてだ。

「先生、このまま行って大丈夫?」

「うん。足こっち持ってきて座って」すごい感覚だった。下半身が麻痺している為、座っていても宙に浮いてる感じがして、「うわっ何コレ?」
と言ったぐらいだ。

おもむろに先生が私の肩をポンッと押した。バランスがとれなくて後ろに倒れそうになった。先生はニヤニヤしながら「バランスとれないでしょ?」と
言った。

「気分は大丈夫?ずっと寝たきりの状態でいきなり座ると貧血起こすから、具合悪くなったら言ってね」

周りの患者さんは私の歴史的瞬間を見逃すまいとこっちをずっと見ていた。
なにしろ初めての車イスなのでどう乗るかも分からなかった。

「右手はそこ持って、左手はベットのサク持って、いい?いくよ」と先生は私の両脇をしっかり持ってうまい具合に車イスに乗っけてくれた。

久しぶりに病室をでた。みんなが驚いていた。「愛さんが動いてる」

「車イスになったんだぁ・・よかったね」と言ってくれた。15分も過ぎる頃、気分が悪くなり始めた。かなりヤバイ・・。変な汗がでてきた。

「先生、ちょっとやばいかも・・」私の車イスデビューはたったの15分だった。ベットに戻った私は悔しくて涙がでた。「あたし、駄目じゃん、車イスすら乗れない・・」しばらく涙が止まらなかった。

先生はその間、何も言わず側にいてくれた。

「はい」渡してくれた物はティッシュだった。「落ち着いた?」

「うん・・」

「じゃあ、また明日ね」と言って、先生は病室を後にした。

「ちくしょ~かっこいいじゃん、先生」先生の優しさにまた泣かされた。


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