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昔、夏の夜頼りなげにふわふわ灯火を目指してうすばかげろうは飛んできて、窓の桟やすだれの陰によくとまっていた。
トンボによく似た姿をしているのだが、トンボではない。 華奢な透き通った羽、そこに細かい脈があっていかにも、見るからにはかなげな様子をしていた。体長も5センチあるかないか。 その姿がいたいけで、父から「決して捕まえてはならない。そっとしおいててやれよ」といわれていた。 どこから飛んで来るのか、そのあとどこへ行くのか知らなかった。 一夜のはかない命しかないと教えらていた。 そのウスバカゲロウの幼虫が「アリジゴク」であると知った時の驚き。 アリジゴクは家の縁の下に家を作っていた。 乾いた砂地に漏斗状の穴を掘ってその下で落ちてくるありなどの虫を食べる獰猛な醜い虫であった。 一度その穴に落ちた蟻がその穴から這い出てこれる可能性は低い。 這い上がりそうになるとアリジゴクは尻尾で砂をふって、這いあがれなくさせ、底に落ちてきた蟻を獰猛な口にくわえて引っ張り込んでしまうのである。 わたしはこのアリジゴクの行動を観察するのも好きだった。 蟻さんをつかまえてきてはアリジゴクの穴に放り込んでみる。 その後は蟻とアリジゴクのサバイバルショー。これは見ごたえがあった。 暫くするとアリジゴクは砂の中で丸い蛹になることも知っていた。 そういう家に蟻さんを放り込んでも反応がないので、あ、この家はもう遊べないのね。と子ども心に虫の成長を感じていた。 この獰猛なアリジゴクが羽化するとあの美しいはかないウスバカゲロウに・・・ 神様はなんといういたずらをなさるのかと心から思った。 ひと夏の大半を砂の穴の底で身を潜め、たった一夜あの姿を表して死んでしまうウスバカゲロウ。 あなたは何のために??と問いかけて見る。 そういう、生き方しか知らないから。という答えが返って来そうである。 自分の与えられた人生をまっとうするのも生き方。 この何年もウスバカゲロウの姿を見ていない。 古い家が取り壊されたとき、縁の下の彼らの家も壊されてしまたのだろう。 彼らがゆっくり蟻を待って暮らせる環境も少なくなったろうし。 これも夏の思い出。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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