夢の楽延

●吸血鬼のイメ・・(アル×エド小説)

 H・18・2・19(日)11:30UPっ!;





 とある司令室内の会話。

 「黒いマント」

 「翼が生えてる。ゴツイの」

 「夜行性」

 「犬歯」

 「人型」

 「・・蚊。」

 「・・別の生き物になってるぞ。・・女好き」

 「僕に振りながら言わないで下さいよ; えーっ・・と、軟派?」

 「じゃあ、ヘタレ」

 「無能。」


 「燃やされたいのか?」

 コンマ単位で自分に向けて発された言葉に、この室内で一番地位の高い人間がすっくと立ち上がった・・。







 ● 吸血鬼と言うイメージ。





 「あのなぁー大佐何やってんだよ、大人げねぇな」

 自慢の発火布完全装備で立ち上がる上司。 金髪の子供の影に隠れた部下。 そして盾にされている子供。

 一般的には妙だが、実際この上司の怒りを抑えるには一番の配置であった。


 「お前ら鋼のの後ろに隠れるな!卑怯だろうっ」

 「他愛も無ぇ話に『発火布』持ち出すアンタが言えることじゃないっすよ!;」

 そうだそうだ!と、発言した男の後ろに並んで隠れている数人の部下も一斉に声をあげる。


 「大体、オレは標的の話を聞きに来ただけだっつうのになんでこんな事態になってんだよ・・」

 はぁ・・っと、耐え切れず大きな溜め息を吐く子供。エドワードは棒立ちのまま、今日真っ先にこの司令室に立ち寄ってしまった自身の行動を悔いた。

 (吸血鬼の基本的種族情報なんか誰だって普通に知ってるっつうの・・)

 『十字架・ニンニクが苦手』とか『生き血が大好物』とか・・と、研究の合間にたまに読む娯楽小説の内容を思い出しながら、エドワードは軽めに目の前の現実から逃避を試みてみる。が、


 「わあぁっ!!?;大佐っ!いきなり横に廻らんで下さいよ!!;;」

 「せめて発火布しまってください!発火布っ!!;」

 「やかましい!!」


 無駄だった。


 ついに自分の周りを芋虫みたいにぐるぐると旋回し出した上司と部下の、未だ続く生死をかけたかのような必死の攻防に巻き込まれ、エドワードの小柄な身も中心でぐるぐる回される。


 「もう本当諦めてくださいよ大佐ー~っ!!;」

 「大体僕らは事実を述べただけじゃないですかぁー!;;」

 「上司を無能呼ばわりする部下なんぞ燃えてしまえーーっ!!」

 更に移動速度が速くなる大人達に、とばっちりをくって段々具合がヤバくなってきた子供は遂に、堪らず叫んだ。


 「中尉いぃーーーっ!!!;」



 ・・一秒もせずに扉が開き、銃声が室内に鳴り響いた・・。









 「全く。仕事もせずに何を遊んでいるのですか、もっとしっかりなさって下さいっ。 ・・エドワード君、大丈夫?御免なさいね、私がちょっと出ていたせいでこんなことになってしまって・・」

 「すまんな、鋼の。・・考え無しの部下ばかりで」

 「悪ぃ、大将。・・どっかのサボリ症で雨の日とか雪の日とか無能な上司で」

 「・・・」

 キシゃぁあーっ

 ・・両者の何か、威嚇的な奇声とほぼ同時にがちゃり。という、外された安全装置の鈍い金属音が響き、空気がピタリと止む。


 「・・・もういい・・。ってか、オレは今回の仕事の詳細聞きに来たんだ、・・何か常識と外れたような単語ばっかで正直、かなり困ってんだけど。」

 吐き気でソファにもたれていた背を少し手前へ起こして、エドワードは本来の話題を切り出す。



 「そのままの意味だよ、鋼の。・・最近、イーストシティに出没している『吸血鬼』を捕らえたまえ。」

 自分の上司でもあり、後見人でもある大佐。ロイ・マスタングの、自分宛に送られてきた指令書そのままの言葉にエドワードは本日何度目かの大きな溜め息を吐いた。

 「あのなぁ大佐。『吸血鬼』っつったら小説とか漫画とか映画とか空想的なもんだろ。」

 つうか、錬金術師がそんな非科学的なこと言ったら駄目だろ。と呆れながら続ける子供は、例の指令書を読んですぐに、それは『吸血鬼』の名を語る『愉快犯』のことなのだろうと考えていたため、その人物の顔や体格など特徴的なモノを聞くためにこの東方司令部に立ち寄ったのだ。 ところが、いざその質問をした途端。先程の連想ゲームのような会話が始まってしまい、何故か収拾のつかない事態に発展してしまった・・。


 「いや、それがマジに出てるんだわ。『そいつ』が」

 さっき先陣きって上司と攻防戦を繰り広げていた、ジャン・ハボック少尉がトレードマークである咥え煙草を、窓際でふかしながら答える。

 「へ・・?;」

 「被害者は今月中で4人。・・一応死者は出ていないのだけど、全員体内から大量の血液を抜かれていたわ」

 加えて現状を報告したのは、金髪を大きめの髪止めで後ろにきっちり束ねている凛々しい女性、先程は見事な射撃を実演してくれたリザ・ホークアイ中尉である。


 「・・マジ?;」

 漫画仕様の大きな汗を後ろ頭に飾りながら、エドワードは問い。 眼前の、東方司令部内どころか軍内部でもかなり個性的な面々は揃って首を縦に振った。



 「まぁ今のところ死者は出ていない。安心して行ってきたまえ」

 1、2週間ほど院内生活になるかもしれんが。と御丁寧に付け加えて、大佐はマザーキラースマイルで見送るように手を振った。

 「ちょっ待て!んな深刻な問題になんでオレ一人が駆り出されんだよっ!普通、危機感持ってもっと人数出すべきだろ?!」

 戦争・内部抗争など何かといって争いごとの多い国だが、最近では軍人が足りなくなるほどの事件は起きていない筈だ。

 いつ本当に死者が出るかもわからない事件が今正に此処では起こっているというのに、目の前の軍人達はその状況をまるで理解できていないかのように緊張感など欠片もなく茶をすすったり、談笑をしたりしている。

 エドワードはその中をただ一人で焦り、周りの大人達に怒りを露わにしようとしていた・・


 「・・実はそれほど深刻でもないのよ。」

 「?」

 「毎回、軍に通報してくれてんのはその『吸血鬼本人』だしなぁ・・」

 「・・・・・・・はぁっ?;」

 更に付足された意外過ぎる事実に、エドワードは数秒言葉を失った。


 「声は毎回ヘリウムで変えているらしいんですが、被害者が被害にあった直後に近くの電話ボックスへ駆け込んで軍に救助を求めてくるんですよ。」

 ヘリウム・・。『ヘリウム』ってあれですよね?吸い込むとかなり声が甲高くなって、詳しく言えばカラオケの変声機能の女性verを使用した(元々高い声質の)女みたいな声になる、ガス・・。

 「オレ、ちょっと電話番代わってやってた時に偶然かかってきてな・・。・・・あれはかなり笑えるぞ」

 思い出し笑いを必死に堪えながら言うハイマンス・ブレダ少尉は、同時に出そうになる涙にも耐えていた・・。

 「・・まぁそんなわけで、君一人で十分だということになったわけだ・・」

 コホンと一つ咳をして「気楽にやりたまえ」と続けた大佐は、被害現場とその付近の電話ボックスに印の描かれた地図をエドワードによこし、他の面子と同様に書類仕事へと精を出し始めた。











 「けど、いざ捜せっつわれてもな・・」

 歩き慣れた街道を適当に散策しながら、エドワードは大佐からもらった地図を見ていた。が、その被害現場にも電話ボックスにも全く共通したものがない・・。

 「・・腹減ったらそこら辺の女捕まえて・・ってとこか? ・・・被害現場が路地裏っつうのは当然だしな・・」

 いくらなんでもそのまま街道で襲うわけはない。そんなことをすれば獲物の血を吸うより前に軍に通報されてしまう・・、いくら腹減って切羽詰った状況でもそれを実行してしまうのはただの馬鹿だ。

 「・・・聞き込み、か。」

 それしかないだろうと割り切って、エドワードはとりあえず道行く人に声をかけてみることにした・・。



 「すみません。あぁー・・っと、この辺で・・・・・・・・黒いマント羽織った男、見かけてません、か?;」

 阿呆かーーーーっ!!!?;;

 ・・エドワードは心の奥で、そう叫ばずにはいられなかった・・。 だが、通行の邪魔をするように足止めさせてしまったその人に、(決めていなかった質問内容を確定するまでの)長い間待っていてもらうのは申し訳ないと考えたエドワードはただ、『怪しい人見ませんでしたか?』と同義のような質問をしてしまっていた。

 今更だがその『吸血鬼』の特徴すらわからなかったことに気付き、思わず頭を抱える・・。

 「あぁ、見たよ?」

 ・・・・ ・・・・・・・・・・・はい?;


 「マント、というよりは真っ黒いフード付のコートって感じだったけどねぇ。首元のフードしっかり押さえて顔も見えないくらい深く被ってて、しかもそのコート、見事なくらい綺麗な真っ黒でさぁ・・あーゆうのもあるんだねぇ・・って思ってたところさ」

 「・・・・・あの、その男はどこに・・?」

 「向こうの方歩いてったよ?なんだい、知り合いかい?」

 「・・まぁ、そんなところで、・・・・・有難う御座いました・・」

 エドワードは一つ礼をして、教えてもらった方へと走った。

 凄く走った・・。


  それは『吸血鬼』じゃなくても犯罪者の可能性が(かなり)あるだろう、と。

 東方司令部面々同様、危機感が無いためか或いはあからさまに怪し過ぎるためか、軍に全く通報しない民間人もそうだが、自分からそんな怪しい格好をして人目につくような表街道を堂々(ではないが)歩いている・・

  そんなアホを見てみたい、そして一発殴りたいっ!という思いが、今のエドワードを駆り立てた・・。








 そしてそれは呆気なく見つかった。

 情報源であるおばさんの指差した道をただ真っ直ぐ走っていると、確かに黒いフード付のコートを深く被った男が歩いている。

 「・・・」

 エドワードはそのまま気付かれないくらいの距離を測りながら後を尾けた。


 今すぐその肩を叩いて捕まえたい衝動もあったが、もしもただの一般人だったら後々あの上司からネチネチ嫌味を言われ続けるに違いない。 ・・それだけは御免だったエドワードはなんとか現行犯で捕まえようと考え、様子を見ていた・・。が、相手は挙動不審な行動も見せず、獲物を見つけようとする素振りも見せず、ただ真っ直ぐ前だけを見て歩いていく。


 もう既に獲物が視界に入っているのか、今日は何も行動を起こす気がないのか、本当にただの一般人なのか。


 思ったよりも行き交う人の多い正午前の街道で、同じ方向へ歩く人間などいくらでもいる。それ故に相手が狙う標的も見当がつかなかった・・。


 (やばい、曲がる・・っ)

 暫くそのまま尾行していると、曲がり道に差し掛かって一旦その後姿を見失う。

 慌てて追いかけて曲がり角の壁に隠れ、次の街道を覗き込むとなびいたその黒いコートがすぐ脇の路地裏に入って行くのが見えた。

 「っ、やっぱ標的見つけてやがったのか・・っ」

 走ってその路地裏に飛び込み、直線に続く細く暗い道を抜けると、周りの建物の影で陽の光もあまり届いていない小さな広場のような所へ出た。 が、そこには黒コート男の姿もなく、その男が通れるような幅のある道も他には見当たらない。おまけにこの広場には、少し木箱や木片が散っているだけで隠れられるような場所も無かった。


 「やべぇっ、見間違った!?」

 すぐに元の表街道へ戻ろうと後ろを振り返る、と



 「・・間違ってませんよ」


 目の前にはさっきエドワードが入って来た道を塞ぐように、その男が立っていた。

 「・・・・なるほど」

 気付いてたわけか、と。あえてその言葉を口にせず、エドワードは一歩後ろへ下がる


 「・・すみませんけど、逃がしてしまう気はありません。」

 それに誘われるように一歩、相手が道から広場へと抜けた瞬間。エドワードは待ってました、とばかりに両手の平を打ち鳴らす。

 「オレも、逃がすつもりは無ぇよ!」

 打ち鳴らしたその手をすぐ下の地面に押し付け、エドワードは得意の錬金術で道を塞ぎ、頭上に即席の天井を作った。


 「・・・・錬金術師・・」

 小さく呟いたその言葉には、感情が無い・・


 「・・一つ聞く。お前、本当に『吸血鬼』か?」

 エドワードはやはり半信半疑でそう問いかけた。

 次の瞬間


 「それは貴方の身をもって知れる」

 「!」

 突然目の前から姿を消したその男は、エドワードの真横に姿を現し、笑った。



  まるで今から始まる狩りを心底楽しんでいるかのように・・



 「せぇ・・っ!」

 エドワードは姿を視覚で確認して、考えるよりも先に蹴りを繰り出す。

 それに対して相手は片腕で難なく受け流し、更に獲物との距離を縮める・・が


 「これでも食らえ!!」

 エドワードは突如ズボンのポケットから『にんにく』と銀(紙)で出来た『十字架』を取り出し、その眼前へ晒した。

 「・・・ ・・・・・・あはははっ!」

 「!」

 途端、上半身をかがめて大変愉快そうに笑いながら、吸血鬼(?)はエドワードの片腕を捕らえ、すぐ後方の壁へ押さえ付ける。


 「悪いけど、きかないよ。ニンニクは普通に食べれるし、・・神サマに興味は無い。」

 「・・それは同感だ。」

 そう言ってすぐ脇に、持っていたニンニクと十字架を放ったエドワードは、更に余った片腕でごそごそと自身のポケットをまさぐる。


 「今度は何?」

 「いや、こっちはオレのただの興味だ」

 と、即座に取り出されたのはスプレー缶。 途端、しまった!と焦り後ろへ距離を取って逃げようとした男は、間に合わず噴出された大量のガスを吸ってしまった。・・が、眠くもならないし、これといって具合が悪くなった気もしない。 ・・男は困惑した。

 「さっきの、・・・っ!!」

 声を出してみて初めて知る。にんにくと十字架と同様に放られたスプレー缶にでかでかと表記された名前。・・そして自分の目の前で必死に口を押さえながら笑いを抑えている獲物の姿・・。


 ガスの正体は『ヘリウム』だった。


 「~~笑える・・っ」

 「そういうあなたも声変わってますよね」

 ほぼ密室状態にされていた場所で、ノズルも使用せず至近距離でガスを噴出したせいか、わずかではあるがエドワードの声も少し甲高くなっている。


 「・・ですが、実際こんな物(ヘリウム)で状況を打開するような効果は得られないと思いますよ?」

 力の差は歴然だ。と語る男は、余裕の表れからか今まで深くかぶっていたフードを外す。

 それでもエドワードが最初に練成していた天井が手伝って、かなり暗くなっているこの場所では顔もあまり見えないが・・


 「言ったろ?『ただの興味』だって。・・それに効果はあったさ、あんたがオレから距離を取った時点でなっ!」

 言葉が終わると同時に、また両手を打ち鳴らし、壁に手を押し付けた。 同時にガラガラと崩れる天井と、姿を現す(最初の練成で)変形されていた壁・・


 「・・っ!!」

 それは上手く正午の強い太陽光を真っ直ぐ男の頭上から当てるように働いた。


   吸血鬼のもう一つのイメージ。 『太陽光が苦手』 に基づいてエドワードが考えていた作戦だったが、どうやら今度は上手くいったようで、男はがくんとその場で膝をついて倒れこんだ。


 「しかもフード取ってくれたのはかなり有り難かった・・」

 もしもそのフードが男の頭に深く被られたままであったなら、きっとこの作戦も上手くはいかなかっただろう。


 どこからどうみても怪しいと思えるのに、その男が用心深くその黒いフードを首元で押さえて放さないのは、真昼の太陽を遮るための仕方が無い防護策だったのだ・・。


 「話の中では灰になっちまう吸血鬼が多いけど、あんたは大丈夫みたいだな・・」

 ほ、と少し安心したように吐き出す息を少し抑えて、エドワードは男に近づき、その顔を覗き込む と。

 そこには金の髪・金の瞳の『少年』がじぃ・・っとエドワードを驚いたように見つめていた・・。


 「・・・にい、さん・・?」

 「・・ハイ?;」


 「兄さんーっ!!」

 がばあっ!とそのまま凄い勢いで抱きつかれてしまったエドはただ混乱し、困惑した。


 さっき目の前にいて、戦っていたはずの人物とは 明らかに違う『背丈』・『声質』・『雰囲気』。 しかもいきなり兄と呼ばれて抱きつかれている。

 混乱させておいて隙を狙うつもりなのだろうかとも思ったが、一向に敵意すら感じさせない相手に、エドワードはすっかり拍子抜けしてしまった・・。

 「兄さん兄さん兄さんっ」

 ぎゅうううううっと痛いぐらい一方的に抱きつかれ続けて、遂に・・



 「・・・・・・・・とりあえず・・。捕獲完了?;;」

 自身も、その胸の中に一生懸命納まろうとしてしまっている物体の背に手を回し、


    任務完了。・・と、とりあえずは小声でほざいてみたりした・・。






 結果: 『金髪金目黒コートの吸血鬼に、捕獲された・・(?)』






  ↓直後。


 エド:「大佐ー。この『小動物みたいな弟らしい少し縦に長ぇ黒いコートのパツ金吸血鬼』どうすればいいんだぁ・・?;」

 ロイ:「・・私には今の君の甲高いアメストリス語が理解できないよ、鋼の」

  ヘリウムの効果残ったまま、抱きつかれたまま、近くの電話ボックスで救助の要求・・。(笑)




 次回への会話。(更にその後)↓


 ロイ:「いいから明日にでも状況・状態を明確に記した書類(レポート)と一緒に『持ってこい』。以上っ」

 エド:「はぁ!?;明日っ?!! ちょっ、待て大佐っ!今まだ昼だぞ?!何で明日なんだ・・って受話器を置くなぁ!!!人でなしーーーっ!!!!;;」


   ・・・続く(?;)。





 ☆結局のところ一番「人でなし」なのはコレ書いてるオレなんですがね?;・・すまん。

 ついでにコレ『アルエド』か?;・・色んな意味で二つのCP一気にクリアしちゃった気がせんでもない・・(ヲイ)

 赤いコートでよかったんじゃねぇの?とかもありますが、これは・・・一身上の都合で?(は?;)


  あと、これって『連載』じゃないかい・・?(・・・)



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