カテゴリ:エッセー
父は杖をついて寡黙になって見ていた
数十年のあいだ苦を共にした家を離れる日 窓を一枚一枚錆びたトタンで塞いでいった トタンに釘を打ち込む時父がもらした呟き 「あぁ・・」 聞こえないふりをして窓を塞いでゆく 釘を打ち損ねた金づちが指を叩いた 雪が舞って冷たいのに指先はジンジンと熱い あと一枚父はずっとついてくる 父の身体に打ち込むような思いが走る 「父さんごめんね」 最後の一枚を閉ざした時父はいなかった すこし離れた場所で あらぬ方向を長い間見ていた お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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