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ベビーカーを押して集まってきた母親34人が車座になった。子供たちは板張りの床を元気に転げ回る。東京都足立区の団地にある児童館で今月12日に開かれた0~1歳児の新米ママの交流会。区の保健所の保健師による「地区活動」だ。
「11カ月の男の子の母です。夜中の授乳が、ひどいときは1時間ごと。寝不足で困っています」「娘は2カ月半。最近やっと笑顔を見せたり声が出たりするところがうれしいかな」…。 進行役を務めた矢作淳子保健師(40)は「保健所で待っているだけでは、本当に問題を抱えている人はやってこないことが多い。交流会へ来るママの情報から悩みを持つ母親の存在を知ることもある」と話す。 交流会のあと、矢作さんは保健所の自転車に乗って、認知症の高齢者宅へ「家庭訪問」に向かった。北風の中、ペダルをこぐ足に力がこもった。 家庭へ飛び込む 「保健師はその職能として、どんな家庭にでも飛び込んでいける唯一の職業ではないか」 足立区衛生部参事の井元浩平医師(54)は全国の自治体で3万1千人が働く保健師についてこう指摘する。 虐待は、孤立した家庭の密室で起きる。支援を拒む親は児童相談所の職員にさえドアを開けない。警察官も原則として「有事」にしか踏み込めない。 ところが保健師は、地区活動、中でも家庭訪問という手法で、子供のいる家庭から障害者が暮らす家、認知症のお年寄り宅、独居世帯…と、担当地区のあらゆる人々とかかわることができる。保健師出身で国立保健医療科学院の主任研究官、中板育美さん(46)は「成人検診で『ちょっと血圧を測らせて』と家の中へ入っていく。商店街の店主から『あそこの家の子供が食べ物を万引した』と聞き、育児放棄している家庭を発見することもある」と話す。 かつては各保健師が担当地区の住民を丸ごとカバーする「地区担当制」だったが、15年ほど前から母子や成人、精神保健など業務ごとに分担する「業務担当制」へとシフトしてきた。背景には業務量の増大や行財政改革がある。中板さんらが平成20年、全国の保健所へ調査したところ地区担当制は全体の47%まで減っていた。自治体によって姿勢が異なり、足立区は地区担当制を堅持している。 中板さんは「業務担当制では地区活動が弱体化する懸念があり、地域住民の情報から虐待を見つけ出すことも難しくなってしまう」と話す。 地域を巻き込む 中板さんが以前担当した都内の地区に小さな2階建てアパートがあった。1階に暮らす母親が産んだ女児に障害があり、落ち込む母親に2年間かかわった。 その後、2階に若い夫婦が引っ越してきて、女児をもうけた。夫は朝4時から夜8時まで仕事。女児と2人きりの部屋から母親の怒鳴り声、女児をたたく音が聞こえるようになった。 「早く飲め」「お前なんかいらねー」 1階の母親が心配して中板さんへ電話した。中板さんは「ご出産おめでとうございます」といって家庭訪問し、女児の体重を量って、体調を確かめた。「産後はどう?」との問いかけに母親は「子供なんか嫌い」と訴えた。ヘルパーの派遣を検討していると、1階の母親がこう申し出た。 「私も娘の障害を受け入れられるまで、周りに支えられて育ててこられた。私のような者でも、ママの話し相手になれますか」 彼女たちの支えで、母親は無事に女児を育てていったという。 http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/101126/crm1011261850026-n1.htm お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010年11月27日 11時33分39秒
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