税理士の本音

2007/02/14(水)12:01

非居住者の税務・・・第5回

所得税(28)

   5 その他留意事項 (1)退職所得の選択課税  非居住者が受け取った退職手当等の金額のうち、居住者であった期間の勤務に対応する部分の金額は、国内源泉所得に該当し、本邦の所得税が課されることになります。  国内に恒久的施設を有しない非居住者については、退職所得について、20%の税率による源泉分離課税が適用されますが、非居住者の選択により、退職手当等を居住者して受けたものとみなして課税されることを選択することができます。 【計算例】 退職時点において非居住者である甲は、本年3月31日をもって株式会社乙を退職した。 株式会社乙から支払われた退職金の額は3000万円であり、勤続年数(退職金の計算期間)30年のうち20年間は居住者として株式会社乙に勤務した。 株式会社乙は、甲の退職金支払いに際して、400万円の所得税を源泉徴収している。 1.甲の国内源泉所得及び源泉徴収税額 3000万円×20年/30年=2000万円(国内源泉所得) 2000万円×20%=400万円(源泉徴収税額) 2.居住者として退職金の総額を受け取ったものとみなした場合の還付税額(3000万円-1500万円※)×1/2=750万円(退職所得の金額)※ 800万円+70万円×(30年-20年)=1500万円(退職所得控除額) 750万円×20%-33万円=117万円(課税退職所得金額に対する所得税額) 400万円-117万円=283万円(還付税額)  上記計算例のように、居住者としての課税を選択した方が有利となる場合もあります。  (2)年の中途で出国した場合の確定申告  1.納税管理人を定めた場合と2.納税管理人を定めなかった場合とでは、申告の仕方が異なります。 1. 納税管理人を定めた場合 居住者の場合と同様に、出国した年の翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告を行うことになります。 2.納税管理人を定めなかった場合 納税管理人を定めなかった場合には、出国の時までに、居住者であった期間の所得について、申告及び納税を行う必要があります。さらに翌年の2月16日から3月15日までの間に、居住者であった期間の所得と出国後の国内源泉所得で総合課税とされるものについて確定申告を行う必要があります。出国の際に納付した所得税は、その際に精算されます。  (3)非居住者への青色申告及び純損失の繰越控除の適用の可否 1. 青色申告の適用 所得税法143条に「不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務を行う居住者は、納税地の所轄税務署長の承認を受けた場合には、青色の申告書により提出することができる」と規定されています。 国内において上記業務を行う非居住者についても、所得税法166条の読み替え規定により、青色申告の適用が認められています。 2.純損失の繰越控除の適用  所得税法70条において、「確定申告書を提出する居住者のその年の前年以前3年内の各年(その年分の所得税につき、青色申告書を提出している場合に限る。)において生じた純損失の金額がある場合には、その年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算上控除する。」と規定しております。  非居住者についても、所得税法165条において、非居住者の課税標準の計算上、上記規定を準用する旨の規定が設けられていることから、所定の要件(損失発生年における青色申告書の期限内提出及びその後の連続した確定申告書の提出)を満たしている場合には、純損失の繰越控除の適用があります。  (4)租税条約との関係  日本は各国との間において租税条約を締結しております。非居住者に対する源泉徴収税率は、国内源泉所得の種類ごとに定められていますが、租税条約に定められている最高税率(限度税率)が国内法の源泉徴収税率を下回る場合には、租税条約が国内法に優先(国内法の効力が一部減殺)することとなります。  例えば著作権の使用料に係る国内源泉所得の源泉徴収税率は20%となっておりますが、日米租税条約においては源泉地国免税となっております。(平成16年7月1日改正前日米租税条約においては、使用料の限度税率は10%でした。)  この場合においては、日米租税条約が国内法(所得税法)の規定に優先することになります。  但し当該租税条約の特例の適用を受けるためには、一定の届出書の提出などが必要となります。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 今回で、非居住者の税務に係る取り扱いの説明はお終いです。今まで説明してきた内容だけで、非居住者の税務に係る実務をこなせるかと言えば?ですが、取り敢えず制度の概要だけでも理解して頂ければと考え、日記に掲載してみました。 私自身も非居住者の税務の実務をこなせるかと言えば?ですが、時間をかけて丹念に法令等を調べれば何とかなる?と考えております。(笑)仮に非居住者の税務に係る案件が舞い込んだ場合、自分の不慣れ(知識不足)に伴う作業時間の超過を報酬に転嫁するわけにはいきませんので、時間単価で考えると割りの合わない仕事になるかも知れませんが、知的好奇心はくすぐられると思います。両者を合算すると「割りのいい面白い仕事」になるかもしれません。(笑)基本的に税法は一つの税目をとってみても内容が多岐にわたります。受験では法人・所得・消費に合格し、実務でも法人・所得・消費(相続税もほんの少し。笑)に日常的に接してきましたが、一番ボリュームの少ない消費税一つとってみても、私自身そのすべての内容に精通しているとはとても言えません。せいぜい難しい内容が一杯含まれているということを理解できたということくらいでしょうか。(笑)まあ、だからこそ、それなりに面白い仕事なんだと思います。単に申告書の記載方法の形式を覚えるだけの仕事だとしたらつまらないですよね。(笑) 

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