ひーくんとおじいちゃん。
東京から妹と ひーくんがやって来た。ユウも一緒に帰って来た。それで、おじいちゃん、おばあちゃんの家に行ったんだけど、おじいちゃんおもろすぎ。おじいちゃんはボケている。厳格だったおじいちゃんはすっかりボケていて、しかし時折、昔の厳格さを以って不必要に威圧的に物を言う。私と妹の前にお茶が出た瞬間、「ワシのはないのかッ!」と言い、おばあちゃんが「この二人はお客さんですから先に出しましたよ」と答えると、「あんたらはお客さんかッ!」と。ていうか、もうこの家に来て挨拶して、結構時間経ってますけど・・・昔の私たちなら怖くて何も言い返せないでいたのだけど、今は全く怖くはない。しかし、とにかく早く納得させないと面倒な方向に妄想が暴走するので、「そやで。私らお客さん」と、とりあえずは堂々と答えてみた。あまりの堂々さに怯むおじいちゃん。そして間髪入れずに、「おじいちゃんのお茶は今入れてもらってる。けど、あまり熱いと火傷するから少し冷ましてから持って来てもらうつもり。今すぐ熱々のお茶持って来た方が良かったやろか?」と、逆に詰め寄ってみると、「いやいや、あまり熱いのはかなん。冷ましてくれてるのか?ワシの。そうか、そうか」と、納得した様子。おじいちゃんはボケて急にとんでもない事を言い出すのだけど、それに対して一瞬たりとも怯まず堂々と、少し先回りしたような答えを出す。すると、これまた急に納得して大人しくなったりする。しかし、一旦妄想が走り出すともうどうしようもない。のだと思う。私は普段おじいちゃんに接してないから簡単に言ってる。でも母はいつもこのボケたおじいちゃんと、そのおじいちゃんに振り回されイライラしてるおばあちゃん(て、この流れも勝手な想像やけど)と一緒にいる。仕事から帰って来ると・・・毎日がこんなん。なかなかすごい環境やな。がんばれ、お母ちゃん。と思う。ひーくんは電車大好き、トーマス大好き。おじいちゃんも機関車大好き。おじいちゃんはボケてからは丸くなって、子供が好きになった。なので、合間合間に ひーくんが、「おじいちゃん!じょうききかんしゃ、つくったの?みせてー!!」(ひーくんからすると、ひぃおじいちゃんだけど)などと、かわいらしい声で叫ぶと、二つの心が同時に満たされ(子供かわいい&機関車話が出来る)ニコニコして、平和が訪れる。ひーくんが機関車のマネをして、シュポシュポ と両手を脇で回しながら、おじいちゃんの前で足踏みをすると、おじいちゃんも負けじと両手を脇に構え、真剣な表情で、「シュッ!ポッ!シュッ!ポッ!」と、やって見せる。(座ったまま)その蒸気の音をリアルに再現しようとしてる様が笑える。ひーくんはそれに応えるように、「がたごとーん、がたごとーん」と、両手を回し、足踏み。かわいすぎるし!おもしろすぎるし!平和すぎるし!!その後、昔おじいちゃんが造った蒸気機関車(定年後、趣味で造ってた)を見て、大興奮のひーくん。そして、その興奮した声を聞き、何度も、「あのボンは、何を見て喜んでいるんや?」と、確認しては満足気にニコニコ笑っているおじいちゃん。おじいちゃんには私を含めて7人の孫がいたけれど、誰もおじいちゃんの機関車に興味を持つ者はいなかった。おじいちゃんの家に行くと、やたら長々と説明されるのが面倒だったし、自作の設計図なんか広げられても意味わからんし、それはとにかく苦痛なセレモニーであった。しかしおじいちゃんの家で寛ぐには、まず最初におじいちゃんの機関車と対面し、一通りの自慢話と苦労話に耳を傾け、時々「へー!」だの「ああ!」だの、感銘を受けている風な相槌を打たなくてはならなかった。今から思うと、なんて嫌な孫達だろう、って思うけど、でも本当に苦痛だった。その頃のおじいちゃんは厳格で威圧的で、どちらかといえば孫よりもまだ自分に興味があるタイプだった。だから、孫達がおじいちゃんに懐く要因は一つもなかった。たぶん。(7分の1の孫の意見として)でも、ボケてからのおじいちゃんはかわいらしい。面倒に思う時もあるけど、おもしろいし、なんか、人間みを感じる。おじいちゃん。やっと、おじいちゃんの機関車に興味津々の子が登場したわ。ボケてへんかったら良かったのに、と思うけど、やっぱりボケてて良かったのかもしれないと思う。ひーくんがもう少し大きくなるまで、まだ元気でいてな。あんまり威圧的にならんと。元気でいてな。って。ひーくんのおかげで心から思えた。