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時差ボケ仕事日記

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やまさん-1号

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2006年07月02日
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 別冊太陽編集部では、「禅」のあと、
「夏目漱石」「俳画歳時記」「名筆百選」
「江戸の粋」を作った。

 このうち、「俳画歳時記」は100%ぼくの
企画。平凡社の経営が危うくなってきて、
編集部門のてこ入れのために社長が編集局長を
兼任したが、その前で企画案を説明し、
承認してもらったのだった。

 しかし平凡社の経営状態は、病人で言うなら
「危篤状態」になっていた。
 会社全体が百科事典の売り上げに依存して
いて、世の中の景気が悪くなるとともに、
それがじり貧になっていたのだ。

 部会でも課会でも、労組の総会でも、
語られることは不景気なことばかり。
だれも窮状を打開する具体案を持ち合わせて
いないようだった。

 会社が大きくなってから入ってきた
社員というのは、言うことは格好がいいが、
守勢に回るとからきし駄目。先輩社員たちの
「そのうち誰かがどうにかしてくれるだろう」
という態度は、新米の目から見ても情けないの
一語だ。

 年配社員が「みんなで書店回りをしよう。
一部でも多く注文してもらおう」と意見を
言えば、「焼け石に水ですな。ついでに言えば
『年寄りの冷や水』」と、評論家然とした態度で
冷笑する始末。
「あんた、何様?」と詰め寄りたくなった。

 そんな中で、雑誌部のボスが首になった。
メインバンクの埼玉銀行と衝突したのだそうだ。
常務取締役兼雑誌部長で、太陽の中興の祖、
別冊太陽群の生みの親が更迭されたということで、
雑誌部全体に緊張が走った。
「雑誌は全部やめるみたいだよ」という噂が
飛び交った。

 ある日、旧上司の嵐山光三郎から声がかかった。
それも人づてにメモを渡し、社外での待ち合わせを
指定するという「訳あり」の雰囲気で。
 さっそく指定された喫茶店に行ってみると、
嵐山さんと更迭された馬場さんがいた。

「じつはな、俺たちは馬場さんを中心に新会社を
作ろうと思っているんだ。メンバーは俺と筒井デスク
ほか『馬場ファミリー』の精鋭だけ。お前も来い」

 びっくり仰天して馬場さんの顔を見ると、
緊張感で目を光らせながらうなずいている。
平家ガニの風貌を持つ馬場さんが緊張していると、
こんな怖い顔はない。
 思えば平凡社の役員面接のとき、一番目立って
いたのはこの人だった。そのときは社長に違いないと
思ったほどだから。

「資本金や、取次ルートはどうするのですか。
営業のメンバーは連れて行くのですか」
そう質問すると、嵐山さんが「さる大手出版社で、
われわれが得意とする雑誌をほしがっている
ところがあるんだ。そこに資本金を出してもらう」
と答えた。

 ひと晩の猶予をもらい、生まれて初めてでは
ないかと思うくらい真剣に考えた。
 会社に残った場合の未来、冒険に踏み出した
ときの未来。
 そして、頭の中に「残る人」と「出る人」の
リストを作ったとき、答えが出た。
 世話になったと思う人、尊敬できる人は圧倒的に
出る側に多い。冒険するなら二十代のうちだろう。
新会社の設立に加われるチャンスなんて、一生に
何度もあるはずがない。

 嵐山さんに結論を告げて数日後、T編集長に
呼ばれた。「聞いたよ。行くんだってな。俺も
誘われたが、俺はここが三社めだ。もう転職は
したくない。家のローンもあるし、子供に金もかかる
からな。残念ながら一緒には行けないが、がんばれよ。
仕事は外すから、辞めるまでそっちの準備をしていろ」
 そして、ぼくの代わりに編集プロダクションの
人がやってきた。

 まもなく会社から希望退職の詳細が告げられた。
規模は120人。割増退職金は14か月。
 受付期間の初日、ぼくは退職願を手に総務課に行った。
わざと大声で「希望退職の受付はここですかあ?」と
聞いたので、“最年少社員がトップバッター”という
ニュースはその日のうちに全社に知れ渡った。

 辞めてほしい年寄りの代わりに、給料の一番安い
社員が辞表を出すというのは、あまり聞こえのよい
ものではないらしい。
 専務、総務部長、労組の役員、雑誌部の先輩など、
いろいろな人が入れ代わり立ち代わり慰留に来た。
なんだか急に人気者になった気分だった。






最終更新日  2006年07月02日 10時37分45秒
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