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「毒の入ったリサイクル品が売られる?」
そんなことはないと思われることでしょう。実際、日本の工業はとても発達していて粗悪品を作ったり、売ったりすることは希になりました。そして役所などの指導や監視体制も諸外国に比較して極めて優れています。役所の指導や監視がいきすぎているという理由で「規制緩和」などといわれていますが、現在の日本の安全な生活にはこのような役所の仕事がとても大きな貢献をしているのです。 だから、日本人には確信があります。 「もしリサイクル品に毒物が入るようだったら、役所がそれを禁止するはずだ。なんといっても日本の役所はしっかりしている」 日頃、役所を非難していても案外、役所を信頼しているものです。もちろん、その通りであって、日本の役所はそんなに杜撰(ずさん)ではありません。ときどきミスはありますが、国民の健康に悪影響を与えることは未然に防ごうとします。 しかし、リサイクル品の場合は防ぐことができません。それはプラスチックの中に環境ホルモンやダイオキシン、そして発ガン物質などの毒物が入っているか、残念ながらどんなに優れた分析能力を持った機械を使ってもわからないからです。 理由の一つはプラスチックが「固体」であることです。現代のように科学が進歩した時代でも、材料が「液体」や「ガス」のときは比較的簡単な分析でその中に含まれているものがわかりますが「固体」の場合は分析が容易ではありません。 固体の中に何が含まれているかを調べるためには、固体をものすごく細かく砕くか、何かに溶かしてしまうほかに方法がないからです。そして現実問題としてプラスチックを細かく砕くことはできませんし、もしリサイクルで回収したプラスチックを溶媒などに溶かしてしまったら、リサイクルをする意味がなくなってしまいます。 ただ、もし、リサイクル品の品質が一定であれば、「抜き取り検査」という方法も考えられます。大量のプラスチックを全部検査することができなくても、その一部を抜き取って検査することはできます。事実、現在の製造工程でも固体のものを検査するときにはこの方法が使われています。確かに、石油などの天然原料から新製品を作るときには、大量の原料を一度に使用しますので 、もし毒物が製造の途中で入ったらかなりの量の製品にまとまって毒物が入るので、「抜き取り検査」が成立するわけです。 こういった新製品に対して、リサイクル品では使用される原料が種々雑多です。研究室で使われ毒物が付着している冷蔵庫もあれば、一般家庭できれいに使用されたものもあるという具合です。それらの冷蔵庫が隣り合わせになって回収されてきます。結局、リサイクルで回収されたプラスチックは洗浄してペレットにするしか方法がないですし、その過程で毒物が混入しているかどうかの測定は無理なのです。 毒物の検査ができないもう一つの理由は現在の私たちの身の回りにある「毒物」というものの種類があまりに多いということです。ヒ素や水銀といった昔からの「元素系の毒物」は数が限られていますが、ダイオキシン、環境ホルモン、発ガン物質などの最近の「化合物系の毒物」は種類が多く、環境ホルモンの疑いのある物質が約六〇種類、ダイオキシン類だけで約八〇種類、発ガン物質にいたってはその数もはっきりしないほどです。 もちろんそれ以外の伝統的な毒物やまだ未知のものを加えますと、無限といってもよいほど種類が多いことを意識する必要があります。参考のために環境ホルモンとして疑われている物質を次にあげてみましたが、こうやって整理をしてみると毒物の知識のある人でも、改ためて私たちの身の回りには本当に多くの毒物があることに驚かれると思います。 ダイオキシン類、ポリ塩化ビフェニール類(PCB)、ポリ臭化ビフェニール類(PBB)、ヘキサクロロベンゼン(HCB)、ペンククロロフェノール(PCP)、二・四・五-トリクロロフェノキシ酢酸、二・四-ジクロロフェノキシ酢酸、アミトロール、アトラジン、アラクロール、シマジン、ヘキサクロロシクロヘキサン、エチルパラチオン、カルバリル、クロルデン、オキシクロルデン、trans-ノナクロル、一・ニ-ジブロモ-三-クロロプロパン、DDT、DDE、ケルセン、アルドリン、エンドリン、ディルドリン、エンドスルファン(ベンゾエピン)、ヘプククロル、ヘプククロルエボキサイド、マラチオン、メソミル、メトキシクロル、マイレックス、ニトロフェン、トキサフェン、トリブチルスズ、トリフェニルスズ、トリフ ルラリン、アルキルフェノール、ノニルフェノール、四-オクチルフェノール、ビスフェノールA、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジエチル、ベンゾピレン、二・四-ジクロロフェノール、アジピン酸ジ-二-エチルヘキシル、ベンゾフェノン、四-ニトロトルエン、オクタクロロスチレン、アディカーブ、ベノミル、キーボン(クロルデコン)、マンゼブ(マン●ゼブ)、マンネブ、メチラム、メトリブジン、ジネブ、フタル酸ジベンチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジプロビル、スチレンの二及び三量体、n-プチルベンゼン……………………………………………… そもそも、ものの中に入っている物質を調べるには「化学分析」や「機器分析」という方法が使われますが、調べようとするものの中におおよそ何が入っているかがわかることが分析の前提条件です。その理由は、分析するものによって使う機器が違い、分析条件も選ばなければならないからです。 「どんなものも同じ条件で分析できる」という機械はまだ世の中にはありませんし、たとえばダイオキシンだけを疑っても、それを調べるだけで数十万円の費用と多くの時間を必要とします。 それに加えて、毒物の分析は「微量なものを分析する」のですから、分析としてはもともとかなり大変な作業になります。リサイクルするプラスチックそのものですら、いちいち分析しているわけにはいかないので、そこに使われているプラスチックの種類が表示されるくらいです。工業的に使われているプラスチックの種類はたった二〇種類ほどであり、毒物の種類に比べれば種類は少ないのに、それでも表示がないとわからないのです。 まして膨大な種類のある毒物の場合には、どんな毒物が入っているかが予想できなければ、すべての分析手段を使い、何度も条件を変えて測定しなければそこに毒物があるかどうかもわかりません。そしてリサイクル品は過去の履歴、それがどのように使われたものかその条件がわかりませんから、見当がつかず、大変な作業になるわけです。 また、ここで例にあげた大学で使っている実験室の冷蔵庫のようなものは全体の冷蔵庫に比べれば数が少なく、現実問題として問題ないと考える人もいるかもしれません。 しかし、毒物混入についてより厳密に考えると、毒物は単に大学の冷蔵庫などの特別の冷蔵庫に限らず、一般的なものの中にも含まれてくるのです。そして、社会全体に「冷蔵庫や整理棚に汚いものをいっさい入れないで下さい」と呼びかけても、複雑な現実の社会の中で、しかも日常生活においてそれを徹底することは不可能だといえます。 かくして、リサイクル製品の中に知らず知らずのうちに毒物が蓄積し、それを私たちは知らずに使うことになるのです。「それは役所が悪い。安全かどうか検査をして下さい!」と叫んでも、現実的な解決策にはなりません。お役所が悪いのではなく、学問的にできない。そのことを最初におさえておく必要があります。 『リサイクル汚染列島』(青春出版社)武田邦彦著より お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022.06.09 00:00:20
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