「善玉」「悪玉」の呼称は見当違い
「善玉」「悪玉」の呼称は見当違いその後、コレステロールには2種類あるということが知られるようになります。一つは本当に必要なコレステロールで、これはどんどん血液に流して各細胞へ送らなければならないものです。コレステロールは玉状になって血中を流れていくのですが、このとき血管の成分と似ているために血管の壁にくっつきます。しかし、どうしてもコレステロールは末端の細胞にまで届けられなければいけないので、それが血管壁につくとそれを掃除する掃除用のコレステロールが後から行って血管壁にひっついている必要なコレステロールを剥がして、もう一度肝臓に戻してつくり直します。コレステロールをつくるのは結構大変なので、何回も何回も使いたいものですから血管の壁にくっついているコレステロールを回収しているのです。つまり、コレステロールには「必要なコレステロール」と「回収用のコレステロール」の2種類があるのです(本当はコレステロールという言い方自体が間違っていますが、それば専門的になるので、本書では一般的に使われるコレステロールという呼び名を使っています)。しかしそのときに、またテレビは「コレステロールは血管の壁につくから悪いのだ」と間違ったことを言い出しました。そして、血管の壁についているコレステロールを引き剥がす回収用のコレステロールに「善玉コレステロール」と名前をつけたのです。 対して、本当に必要なコレステロールのほうを「悪玉コレステロール」と呼び始めました。これはNHKが命名したというように言われています。そして、繰り返し繰り返し「善玉コレステロール」「悪玉コレステロール」と呼んだので、現在でもそのように 思っている人は多くいます。「自分は善玉コレステロールが多くて、悪玉コレステロールが少ないからいいんだ」などと言うのですが、実はその人は「必要なコレステロールが少ない」ということなのです。人間というのは一度方向性がついてしまうとそういうふうになってしまうものですそれでその「善玉コレステロールが多い」と言っている人がどうなるかというと、細胞膜に必要なコレステロールが不足しますからやっぱり細胞がやられやすい。これはいろいろな病気の原因にもなりかねません。それから脳にはコレステロールが35%も必要なのにそちらも少なくなってくる。善玉コレステロールだけがあっても必要なコレステロールがなければそれを必要とする場所へは運ばれません。回収して肝臓へ持って帰ってしまいますから、必要なコレステロール、つまりNHKが命名した悪玉コレステロールが不足してしまうわけです。悪玉コレステロールと命名したこと自体がおかしいのです。コレステロールというのは必要だから人間の身体の中で必要量の80%をつくる。それだけ人間の身体の中でつくられるものが悪玉であるはずがありません。人間は必要のないものをつくっているほど悠々たる生活をしているものではなく、自分の身体に必要なものだからつくっているのです。こうしたことの積み重ねによってコレステロールが本当は必要なのに不足する人がとても多く出てきたというのが現実です。『フェイクニュースを見破る 武器としての理系思考』武田邦彦 (ビジネス社刊) R060621 P138