法律相談のコツ
先日、今年から当事務所に加わったばかりの新人弁護士を連れて、外部の法律相談に行ってきた。ガチガチの彼に、「私には、10分残してくれれば、どんなに漂流しても、必ずリカバリーします。だから、最初は、1人でやってみてください。こればかりは、体験しないことには、感覚が身につかないから」と言い渡して、傍らで相談を見守りながら、法律相談って、本当に難しくて奥が深いよなあとつくづく思った。外部の法律相談では、事前に、相談者の属性や相談内容が分からないにもかかわらず、多くの場合、30分の時間制限がある。この制限時間内に、相談者に、わざわざ相談に来た甲斐があったと思って頂けるだけのサービスを提供しなければならない。相談者が相談室の扉を開けて入ってきたその瞬間から、心を研ぎ澄まして情報収集につとめなければならない。お話の内容は、当然として、性別、年齢、服装、醸し出す雰囲気すべてが、事前情報がないこちらにとっては、有益な情報になる。お話を傾聴しつつも、こちらからもお聞きして、事案の把握に必要な情報を入手し、法令を頭で検索して、その方にとって「今」必要な情報を、取捨選択し、その方に伝わる言葉でお話する。...書くと簡単そうだが、頭はフル回転である。それでも、法律相談は、弁護士と市民との最初の窓口。できないことには仕事にならない。私は、新人時代、法律相談には、本当に苦労した。文字通り、「お聞きする」だけで30分が経過してしまったこともあるし、お話はお聞きしたものの対処方法が分からず、相談室を飛び出し、たまたまいらした先輩弁護士にSOSを出して叱られたことも多々ある。何とか自分のスタイルを確立できたと感じたのは、相馬時代、千本ノックのように沢山の相談を受けてからである。法律相談には、弁護士のキャラクターが如実に出るので一般化するのは難しいが、敢えてコツを言葉にすれば、私の場合は、次の二点に集約されるだろうか。1,目の前の相談者に集中する離婚、借金、相続といった相談分類はあれど、相手は、生身の相談者であって、抽象的な相談分類ではない。相談者の数だけ相談内容が異なる前提で、虚心坦懐に耳を傾ける姿勢が必須である。それには、とにかく集中あるのみ。相談者が必ずしも言葉にされない部分まで想像力を駆使して、その方が一番欲しい情報は何かを一生懸命に考える。30分を、目の前の相談者のために使い切る姿勢が不可欠である。2,魚の目、鳥の目を持つ私は、比喩的にいえば、相談者が泳いでいる海に一緒に飛び込んで、相談者が見ている風景を一緒に見たいと思っている。相談者の心の海は、自分が知っている温度や明度でないかもしれない。荒れ狂う冷たい海では、小さな魚が突いてくるだけでも、血が流れてしまうこともあるだろう。暗い海では、貝殻をナイフと誤解することもあるだろう。一見不合理に聞こえる訴えでも、一緒に飛び込むことで、腑に落ちること、よくある。これが魚の目。一方で、その海を空から見下ろすことも、必須である。魚の目で見えた風景は、裁判所をはじめとする第三者には客観的にどう映っているのか、この視点がないと、大事な事実を見落としたり、当然あるはずの証拠がないことに気付かなかったりして、手続きの選択を含め、大きな判断ミスにつながることがある。これが鳥の目。魚の目、鳥の目、両方あって初めて相談者に寄り添った的確なアドバイスにつながると思う。普段、法律相談のコツを言葉にする機会はないので、書き留めておきます。とはいえ、ああ、もっとこういう言い方をすれば良かったなあ、あの情報もお伝えすべきだったと、後悔することは多々あり、まだまだ、私の法律相談技術は、発展途上。1人でも多くの方に、弁護士に相談して本当に良かったと思って頂けるように、日々、精進していきたいものです。