オピノイド訴訟:製薬会社&大手販売会社と大半の州との間で約260億ドル規模の和解成立見込み
以前にも、NY州と製薬会社(Johnson and Johnson, J.&J.)との間の和解成立をお伝えしたオピノイド訴訟ですが、この程、製薬会社(J.&J.)及び大手販売会社3社(Cardinal Health,AmerisourceBrrgan,McKesson)と大半の州との間で、総額260億ドル規模の和解が成立間近な情勢になりました。https://www.nytimes.com/2021/07/21/health/opioids-distributors-settlement.html?referringSource=articleShare鎮痛薬オピノイドは、中毒性が強く、過剰摂取が社会問題化しており、連邦政府のデータによれば、1999年以降の約20年で、合計50万人以上が過剰摂取や違法取引による摂取で死亡しているとのことです。製薬会社は、鎮痛剤オピノイドの原料を供給し製品の中毒性を過小評価していた責任、販売会社は、処方薬の出荷量を監視すべき責任があったのに、野放図に蔓延させたことの責任が、それぞれ問われている訴訟です。原告は州であり、公害(public nuisance)によるコミュニティ破壊を訴えていたため、和解金は、オピノイドを服用して依存症になる等した直接の被害者ではなく、薬物使用の教育システムや啓発教育、患者の治療等、州の薬物対策政策に使われることが予定されている他、製薬会社や販売業者とは独立した情報収集機関を設立し、流通量を監視するという政策が盛り込まれているそうです。また、この和解が成立するのは、一定の割合以上の州が和解に合意した場合という条件付きで、その割合に達しない場合は、和解不成立で訴訟が続行します。大半の州が賛成するのではないかと見られていますが、ワシントン州は、生じた被害に見合う金額ではないと今回の和解には応じない姿勢を表明している他、Tribal Govermentというネイティブアメリカンの自治政府や複数の部族も今回の和解とは別枠組での交渉を継続中のようです。和解に応じる州も、州内の自治体の参加率によって、和解金額の変動がある内容ということで、なるべく多くの自治体の同意をもらえないと、州に入る和解金も減少するという事情がある他、州によっては和解金がオピノイド対策に適切に使われるよう州法を制定することが必要だとのことです。原告の多さ(州内の自治体も原告になっているため)、和解内容の複雑さ、和解金支払システムの複雑さ等から、合意は、数百頁にも及んでいるとのことで、「和解」という言葉で一般に想定する分量をはるかに超えています。原告代理人らの報酬も、和解内容に含まれ、その複雑な内容を主導した評価なのでしょうか、総額20億ドル!だそうです。とはいえ、和解が成立しないと、この支払もなくなってしまうので、原告代理人としても何としても依頼者である州や自治体を説得するために必死に頑張ることになりそうです。いつもながら、このような大規模不法行為における、和解のスケールの大きさ、ダイナミックさ、内容の複雑さには、本当に驚きます。裁判所が、司法権にとどまらず、立法権や行政権の機能まで果たしているような感覚がありますね。司法の役割、裁判所の役割、弁護士の役割、こういうニュースを目にすると、頭も心も沢山刺激されます。実は、以前は、刺激された結果を、すぐに「じゃあ、日本はどうあるべきなの」とか具体化することまでできないと、実務家として駄目なのかなー、だからどうなの?どうしたいの?って聞かれたときに答えられないと意味がないのかなーって発信をためらうことがありました。日々立ち向かうべきことが溢れている即時即断していかなければならない日常の実務に関係ないことは、私の中に留めておけば良いことで、社会の役には立たないことかもしれないと。でも、だんだん、そんなことはないんじゃないか、って何故か思うようになっている自分がいます。何か明確な転機があったわけではないですが、そう考えると発信が楽になりました。感じたこと、考えたことをなるべく新鮮なうちに言葉にしていくことは、私の人生の根幹です。今後も、自分の興味関心のアンテナを鋭く活き活きと発動させ、また、それを言葉にしていきたいと思います。