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弁護士YA日記

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日出町法律事務所
2019年6月より1年間、日本弁護士連合会客員研究員としてイリノイ大学アーバナシャンペーン校に留学後、弁護士業務を再開しました。
弁護士葦名ゆき(あしな・ゆき)
2012.02.29
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カテゴリ:弁護士業務
先日、敬愛する木谷明先生が、法政大学法科大学院の定年退官に伴い、「強すぎる検察(「検察官司法」)と裁判員制度」という演題で、最終講義をされた。

木谷先生は、多くの無罪判決を、検察官の控訴を許さない程、精緻に書き込んで確定させた名裁判官でいらしたと同時に、退官後、公証人として悠々自適の余生をお過ごしになろうとしていたところを、法政大学法科大学院に三顧の礼を尽くして迎えられ、8年もの間、多くの法律家の卵を世に送り出した優れた教育者でもある。

400人収容できるという大教室は、補助椅子も含め、満席。
ぱっと見回しただけでも私でも一方的に存じ上げている著名な刑事弁護人が何人もいらしていたし、おそらく木谷先生の教え子さんたちだろうか、若い学生も沢山詰めかけており、老若男女の熱気で、むせかえるようだった。

400人もの視線を一心に集めた木谷先生は、熱気に気圧される様子もなく、90分間、すくっと背筋を伸ばされたまま、張りのある、でも、柔らかい語り口で、日本の刑事裁判の現状と未来をお話された。私は、そんな木谷先生を拝見しているだけで、うっとりしてしまい、メモをとるどころではなく、ひたすら「最後の教壇」に立つ先生を見つめていた。

講義の最後を、「老いたりとはいえ、私もまだ多少は働けます。皆さん、一緒に頑張りましょう」と結ばれると、万雷の拍手。ああ、この会場には、木谷先生のファンばかりが集まっているのだ・・・としみじみ想った。なんと多くの方々に敬愛されている方なのだろうと、目頭が熱くなってしまった。

その後の質疑応答時間では、聴衆の手が挙がること、挙がること。
木谷先生らしく、どんな質問にも誠実にお答えになっていらっしゃったが、会場が大盛り上がりとなったのは、次のやりとり。

質問者
「木谷先生のお話された通り、検察官が強すぎる司法であることは大きな問題だと思います。ただ、検察官が強すぎるということは、その検察官の主張に迎合してきた裁判所の問題も大きいように思います。裁判所は、今まで真摯に反省したことはあるのでしょうか。課題に向き合う仕組みはあるのでしょうか」

木谷先生
「これは、なかなか面白い質問ですね。今日はこの会場に、沢山の元最高裁判事や長官がいらしています。私などが答えるより、良いお答えができることでしょう。島田元長官、私の代わりにお答えいただけませんか、突然ですみませんね。」


・・・「島田元長官」とは、島田仁郎第16代最高裁長官。
最高裁長官とは、三権分立の一翼の「司法権」のトップであり、変な言い方になるけれど、とてつもなく「偉い人」である。
ひゃあ、この会場にいらしているんだ!
しかも、木谷先生、島田元長官に、この難しい質問を突然、振っちゃうんだ!

聴衆の大拍手に迎えられて立ち上がった島田元長官、苦笑しながら、お答えになっていました。なんだかすごいやりとりを目の当たりにしちゃいました~。

あと、もう一つびっくりしたのは、「偉い人」がごろごろいて、小心者の私は、「うわ、あそこには有名なA弁護士、一番前ってB教授?」等とどきどきしているのに、法政大学の学生、法科大学院生が、ものすごく積極的に手を挙げているのですよ。

どんな環境でも物怖じしないで自分が知りたいと思うことについては積極的に手を挙げる探求心旺盛な姿勢、素晴らしいなあと思いました。

最後の質問は、木谷ゼミの学生さん。
「木谷先生は、いつもエネルギーに満ちていて、確固とした信念をずっと持っていらっしゃる。その秘訣がどこにあるかを知りたいと思っていました。最後の機会ですので教えてください!」

木谷先生
「いやあ、秘訣といわれても、私、自然にやってきただけなので・・・難しいなあ。まあ、敢えていうなら、体力ですよね。腰痛が酷いときには頑張る気力も起きませんでしたから。あなたも体力をつけて、そして一日も早く試験に合格して、頑張ってください」


・・・あはは、木谷先生は、やっぱり自然体。
仰るとおり、本当に「自然に」自分の心に嘘をつかずに日々を送られてきた「だけ」なのだろう。日々の積み重ねなので、一朝一夕に真似できる「秘訣」なんてないのでしょうね。

木谷先生が、生い立ちを振り返ってご自身の人格形成過程を語っておられる「求められる裁判官の資質などについて」(2008年、季刊刑事弁護53号、108頁)を講義後、再度、拝読して、改めて「弱い者の気持ちを理解できる人」として日々を生きてこられたのだなあとしみじみ想いました。

花束贈呈後も沢山の方々に囲まれている木谷先生、せっかくだから、一言だけでもご挨拶したいとお待ちしていたのですが、みんな熱烈な木谷ファン、割り込めないよなあ・・・と遠慮。

それでも、このために静岡から来たんだから!と自分を励まして、執念深く(笑)人影がなくなるまで見張っていて、会場の横の小部屋に花束を抱えて移動されようとしていた木谷先生に、「あの、静岡の弁護士の葦名です。今日は先生にお会いしたくて来ました」とうわずった声で駆け寄ると、木谷先生は、顔一杯の笑顔で「ああ、葦名さん、よく来てくださいました。ご活躍ですね」と暖かく迎えてくださった。
お疲れのところ、すみません。

・・・ここで、木谷先生との出会いを振り返ってみます。
木谷先生は、刑事訴訟法ゼミの学生にとっては、雲の上のような存在で、学生時代からお名前は一方的に存じ上げていた。司法研修所にも講演に来てくださったので、遠くから憧れていた。

そんな木谷先生と個人的にお話できる機会に恵まれたのが、雑誌「季刊刑事弁護」の10周年祈念パーティーでのこと。このパーティーの際、第2回季刊刑事弁護新人賞の授賞式が併せて行われ、どういうわけか拙稿を最優秀賞に選んで頂き、受賞スピーチを行う羽目になったのだ。

ちなみに!!!
「最優秀賞」といっても、創設されたばかりの賞で、応募者も8人しかいませんでしたし、また、肝心の内容も、私にとっては大切な事件ではあったけれど、刑事弁護の技術的な部分ではまったく特筆する部分はなく悲惨な生い立ちながら一生懸命生きてきた被疑者に感情移入してしまい泣きながら弁護していました・・・というもので、今でも、謙遜ではなく、何で評価いただいたのかなあ、と思っています。
特に昨今の素晴らしい受賞作品をみていると、本当にすごいなあと心底感動しています。

ともかく、このパーティーに木谷先生もいらしていて、名刺を交換させていただいたことがきっかけ。後日、木谷先生が、拙稿についての感想をメールで送ってくださったときの驚きときたら・・・。パソコンの前で、何度も何度も「木谷」って書いてあるけど、あの木谷明先生だよねえ?と、見直し、嬉しくて子どものように、ほっぺが真っ赤になったことを覚えている。20代も半ばになって、あんなに純粋に嬉しかったことってなかった気がします(笑)。
このメールをきっかけに、時折、近況報告をさせて頂くようになった。

授賞式の翌年、私は、相馬に赴任したのだが、赴任後半年ほど経ったったろうか、木谷先生から分厚い封筒が届き、なんだろう?と開けてみると、「お元気ですか。葦名さんの新人賞受賞作品、勝手ながら私の講演で触れさせて頂きました。活字になりましたのでお送りしますね」と手書きのお手紙が添えられた冊子が届いた。

この講演、木谷先生が、求められる刑事弁護人の資質について、様々な具体例や下村忠利弁護士作成の「刑事弁護語録」を引きつつ語った大変興味深く勉強になる内容。

立派な弁護活動が次々と紹介される中、「どこに私が出てくる余地があるのかな?」と読み進めていると、最後の最後で「弁護人が新米でまだ力量的には不足しているという事実を理解しながらも、被疑者が弁護人の真摯な姿勢から絶大な信頼を寄せるようになった事例」として紹介されていた!!!
このときもほっぺが真っ赤になりましたね(笑)。

なお、この講演録は、ダイジェスト版となって、「隘路の中の刑事弁護 現状を打開する方策はあるか」(2006年、季刊刑事弁護46号、183頁)に収録されています。本当に読み応えのある内容なので、一読お勧めします。

・・・あの当時、やればやるほど仕事が増えるという毎日に先が見えず、ただただ疲労困憊しており、自分の理想とする刑事弁護活動とは程遠い活動しかできていなかった。木谷先生の講演録を拝読して、はっとしたというか、背中をバンと叩かれたというか、叱咤激励されたというか、もうとにかくすごいカンフル剤になった。
心を入れ替える大きな転機になったと思う。
木谷先生、本当にありがとうございます。

私が、伝えたいことは、ほめられて嬉しかったんです!ではなく(笑)、木谷先生がどれほど日々を情熱を持って感性豊かに、どんな人にも丁寧に誠実に接する方であるかということです。
実務家として教え子として、木谷先生に関わった多くの人々が、私と同じ感想を持たれるのではないでしょうか。

木谷先生は、今後は弁護士に転身され、なお、刑事司法の未来のために、ご尽力されるそうです。
木谷先生、長い間、お疲れ様でした。
これからも、どうぞお元気で、そして、多くの方々に影響を与え続け、ご活躍ください。
またお会いできる機会を心待ちにしております。






Last updated  2012.02.29 10:14:05



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