弁護士YA日記

2012/03/29(木)23:26

【相馬写真日記 Vol.2】 カニ!カニ!カニ!

相馬写真日記(3)

相馬写真日記、第一弾が好評だったので、調子に乗って第二弾! 今日は、受付に山と積まれたカニ写真のご紹介です。 相馬市は、漁業の街。市内から車で10分も行けば、風光明媚な松川浦にたどり着き、「小松島」と呼ぶにふさわしい穏やかな浦に何とも風情のある岩が波に洗われながら立っているのが見える。 海辺には、釣り客、観光客のための民宿、ホテルが並び、店先には、イカや魚を丸ごと串に刺して焼いている香ばしい香りが漂っている。 併設された魚市場には、百戦錬磨の売り子さんが揃っていて、うっかり足を踏み入れると、「お姉さん、味見していって」「今なら、これだけ全部で1000円にしとくよ」「ワカメもつけちゃうよ」と相槌を打つ暇もない位話しかけられる。 実際、売り場に並んだ魚介類は、ぴちぴちと跳ね出しそうな新鮮さで、見るからに新鮮であることがよく分かる。それに安いのですよ、魚市場だけじゃなくて、近所の魚屋さんやスーパーでも。 ちなみにですね、富山育ちの私は、こと、お魚の味には容赦なく点が辛いので、はっきりいって大学上京以降の東京時代は、魚に関しては、まったく満足できなかった。 たとえば、イカとかエビの刺身は半透明と思って育ってきたので、白い刺身を見たときは「これ茹でてあるんですか?」と無邪気に質問して、板前さんを凍り付かせたこともあるし、大変お世話になっている先輩弁護士の事務所開所パーティーでは、出された店屋物の寿司にまったく手をつけないでいたのを、同行した兄弁に見咎められ、「あんなに電車の中でお腹すいた、お腹すいたって騒いでたくせに何で食べないんだよ」等と問いただされ、「だって、私、寿司にはうるさいんですよ」と堂々と答え、兄弁が先輩弁護士に青くなって平謝りなんてこともありました。 ひゃあ、今から思い返すと大変失礼ですね・・・本当に本当に、その節は大変申し訳ありませんでした。 はい、話がそれました。 そんな点が辛い私から見ても相馬の魚介類は、最高だったってことを言いたかったわけですね。お魚が美味しいこと、大相撲が盛んであること、これだけで、相馬のこと、好きになれるなあって思ったくらいですもん(大相撲のことは、書かなくていいといわれても、書きますのでお楽しみに)。 この私が太鼓判を5つくらい押したい相馬の魚介類を獲ってきてくださるのは、漁師さん。彼らの絆は、ものすごく強い。命を懸ける場所である海で、お互い助け合って仕事しているわけだから当然といえば当然なのだけど、家族にはいえない秘密も漁師仲間には打ち明けている節があり(これは、漁師の奥さん仲間も同様)、法律相談に、家族でも親戚でもない「漁師仲間」がついてくる、なんてことは驚くことではなかった。 私も最初びっくりしたんですよ。 相談室に入ると、2人~3人と座っていらっしゃる。そのこと自体は、東京でも静岡でもあることだけど(やっぱり法律相談は一人で来るのは心細いですよね~)、「付添」の方に「ご親族ですか」「お父様ですか」などとお声かけすると、「いや、近所の者です」とか「ずっと相談にのっている者です」とかお答えになるのですよ。 私からすれば、親族でもない第三者にプライベートな話を聞かれちゃっても相談者の方は平気なんだろうか、と心配になって、最初のうちは、相談者の方に「一緒にお話しをお聞きされるということで構わないのでしょうか」と声をかけていました。 そのうち、だんだん、この地域の人たちの気質を飲み込んで、雰囲気で判断できるようになってきましたけどね。 写真のカニを下さったまだお若い漁師さんも、仲間の先輩漁師さんと二人連れでいらした。 詳しいことは書けないけれど、ちょっと込み入った債務整理案件。 相談者ご本人よりも、付き添いの方の方が雄弁で、「こいつ口下手だから」と言いながら一生懸命お話される。 そんな様子を見ていて、相馬ひまわりの事務局さんたちが彼につけたあだ名は、アニキ。なるほどね(笑)。 ところで、また話がそれちゃいますが、「込み入った」債務整理案件、相馬時代はとても多かった。人間関係が濃いということは勿論一つの原因だが、最大の根本原因は、弁護士がいなかったから、だと私は確信している。 声を大にして言いたいのだけど、「多重債務者」になりたいと思って、お金を借り始める人はこの世に誰もいない。みんな、最初は困りに困った結果、これくらいなら返せるだろうと思っておそるおそる一社から借り始める。 金融会社だって、最初から怖い会社なんてないですよ、CMだって電話応対だって優しいでしょう?みんな、門戸を広げて笑顔で待ってくれている、法律事務所とは比べものにならないくらい敷居が低いんです。 だけど、私が赴任した当時、いわゆるグレーゾーン金利が堂々と存在した時代(この解説を書き始めると別記事が必要になるので割愛します)、年間30%近い高金利は、元々「困りに困った」人を確実に圧迫、「困りに困った」人が、困りに困って、今度は別の金融会社に手を出す、こうして、望んでいない多重債務者への道を歩き出してしまう・・・こういう展開が普通だった。 この道は、恐ろしいことに、ひたすら、ひたすら下り坂です。どこまでいっても下り坂、下り坂の終点は・・・人によっては夜逃げ、犯罪。そして一番悲しい自殺。 弁護士が沢山いる都会では、この下り坂の途中に「多重債務者110番」の電話案内があったり、法律事務所の広告があったりする。そう、最悪のどん詰まりまで行く前に、何本も救命ロープがぶらさがっている。そのロープを掴むには勇気がいるし、困っている人が掴みやすい場所に下がっているのか、ロープの本数は足りているのか、色々と問題はあるにせよ、とにかく下り坂から脱出できる可能性が広がっている。 でも、弁護士過疎地域は違う。そもそもロープ自体がない。 そうなるとどうなるか。多重債務者は、家族、親戚、知人までをも道連れにして、ひたすらに下り続ける・・・。「借金で悩んでいる」というと、一般的にはせいぜい「お金」の問題と軽く考えられがちだけど、弁護士過疎地域における多重債務問題は、人々の生命、身体を脅かす生存権侵害と隣り合わせの深刻な問題だった。 あの当時、相馬ひまわりにいらっしゃる多重債務の相談を抱えた方は、皆、何日も寝ていない、何日もご飯をのどを通らない、というご様子の土気色の顔をされていた。 「借金は、必ず何とかなりますから大丈夫。良く来てくださいましたね」とお声かけしたときの頬をつたった沢山の涙、私の身体にも沁みていくような気がした。 さて、話を戻しますね。 アニキと一緒に来た漁師さんも、そんな土気色の顔をした方だった。 口下手というよりも、疲れ切って話ができないご様子、おそらくアニキもそんな彼をみかねたのではないかしら。 とりあえず、すぐに彼とご家族を悩ませている貸金業者に弁護士が受任しましたよ、ということを告知する文書を出して督促をストップし、法律上認められている利息に計算し直し、ということをしていくと、借金が残るどころか、過払いといって、高い利息を払いすぎた状態であり、むしろ、「お金を返せ」といえることが分かった。勿論、すぐに訴訟提起、そんなに大きな金額ではなかったけど、とにかくお金が戻ってきて、事件処理は終了した。 ・・・正直なところ、弁護士としてはごく一般的なオーソドックスな処理をしただけで、特筆すべき素晴らしい事件処理をしたわけではない。 しかし、相談者とアニキは、この結果には本当に驚かれたようだった。正確にいうと、驚きすぎて、「よく飲み込めない」という感じだった。 借金がなくなったってどういうこと?何でお金が返ってくるの?もう返さなくていいの? 何度かかみ砕いてご説明をしているうちに、ようやく腑に落ちたようで、「ありがとうございました」と二人とも腰を折るようにくの字に頭を下げて事務所を後にされ、私としては、当たり前のことをしただけなのに喜んでいただけて良かったなあ、と思いつつ、さあ、別の事件に取りかからなくては・・・と山積みの仕事に頭を切り換えていた。 それから、数週間程経った頃だろうか、突然、相談者とアニキが事務所を訪れた。 私の席は、敢えて受付から見えないように工夫して設置してあったので、私は、彼らの来訪を声で知りつつも、机で仕事を続け、事務局さんに対応を任せていた。 しかし、「あ、あの、すみません、ちょっと弁護士を呼んできますので」と事務局さんの焦った声が聞こえてきたので、なんだろうと思って顔を出したところ、びっくり仰天。 そう、アニキと彼は、受付台の上に、黙々とカニを積み上げていたのだ。しかも、そのカニは、まだ生きていて、がさがさごそごそ脚が触れあう音がしている。 飛び出してきた私は、「ちょっと、ストップ!何で?これどうしたの?」と叫んで事態を把握しようとした。 二人がこもごも語るところでは、カニ漁が解禁される季節になったので、先生にも食べて欲しいと思って持ってきた、獲れ立てのカニは最高に美味しいのだ、今晩中に茹でてほしいとのことだった。 ・・・なんだか、心がじわっと熱くなってきてしまった。 でも感動している場合ではない。二人が持ってきているカニは、尋常の量ではなく、受付台を占拠するどころか落ちてしまいそう、それなのに、二人は、積み上げるのをやめない。 こみ上げてくる何かを大きく深呼吸して飲み込んで、「ちょっと待って。うちは、私と事務局2人の3人なんだよ。こんなにいただいても食べきれない。お気持ちはとても嬉しくてとてもありがたいのだけど、一人一杯位しか食べられない」と交渉し始めると、アニキが言い返す。 「こんけ小さなカニ、食べるとこ、いくらもないんだよ。カニ味噌は、いくら食べたって飽きることないし、多すぎるってことはないって。」 その後も少々笑える押し問答を続け、最終的に、受け取ることになったのが、この写真のカニさんたち。これを3人で山分けですよ、やっぱり多いですよねえ(笑)? その晩、アニキに教えてもらった通りのやり方でカニの甲羅が下になるようにして、次々と茹でて、食べてみたところ、もうね、この世にこんなに美味しいものがあるのかという程美味しかった。 熱々の甲羅に入っているカニ味噌に、カニの身を落として食べてみると、確かに、余りにも美味しくて手が止まらない(お酒好きな人はここに日本酒入れて火であぶって甲羅酒にして飲むんですよ~)。 私、こんな夜中に何やっているんだろうと思いながら、カニの汁でべったべたになってカニを食べ続けた時間、本当に掛け値なく幸せだった。 ・・・どうしてもどうしてもどうしても考えてしまう。 今頃、アニキたちは、どうしているだろうかって。職場の海は汚されてしまった。これからは、年間の売り上げの多くをしめるはずのコウナゴ漁の季節なのに、毎日、海に出かけることもできないで、いったい、日々をどう過ごしているのだろうって。 直近の記事にも書いたけど仕事は人間の尊厳を守るもの、生き甲斐そのもの。 お金で買えるものではないんです。 相馬写真日記第二弾、一番伝えたいことは、海からの恵みを糧に生活と人生を成り立たせていた人たちの、3.11前の様子です。 傷ついたかわいそうな相馬ばかり、クローズアップされるのは今は仕方ないことだけど、相馬はとてもとても素敵な土地でした。そのことを、みんなに分かってほしい、そんな切なる想いで一気に書いてしまいました。

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