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弁護士YA日記

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静岡市葵区日出町5-3
TEL 054-269-4590
FAX 054-269-4591
http://hinodecho-law.jp/
日出町法律事務所
2019年6月より1年間、日本弁護士連合会客員研究員としてイリノイ大学アーバナシャンペーン校に留学後、弁護士業務を再開しました。
弁護士葦名ゆき(あしな・ゆき)
2012.05.08
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カテゴリ:弁護士業務

【第1 弁護士過疎地域の実態~相馬ひまわり基金法律事務所での執務経験から~】
 
さて、いよいよ本題に入りましょう。

 まず、3・11後の法律家の使命を考える前提として、そもそも法律家は、全国どんな地域にもちゃんといるのでしょうか。この中には、もしかすると「弁護士過疎地域」という言葉をご存知の方もいらっしゃるかもしれません。この言葉が存在することから明らかなように、残念ながら、法律家、弁護士は、全国にまんべんなく存在するわけではないのです。

 不幸なことに、東日本大震災の被災地は、軒並み、「弁護士過疎地域」でした。原発事故の直撃を受けた福島県浜通りも、典型的な弁護士過疎地域です。このような弁護士がいない地域で原発震災が起きてしまった結果、今、何が起きているのだろうか、法律家の役割は何だろうか、そういう流れでお話ができればと思っています。
 
 ここからは、私の赴任体験に基づくお話です。ただいま、スライドで、福島県の地図を出していただきましたけれども、私の赴任先は、福島県の浜通の一番北側にある相馬市というところでした。とても風光明媚な場所です。後ほどお見せしますが、おそらくは、相馬の悲惨な写真しか見ていない皆さんに、こんなにも素晴らしい場所だったんだよということを証明する写真も今日は持ってきているのですが、とにかくとても良い地域です。

 ただやっぱり東北地方は、どこもそうなんですけれども、東北新幹線が通ってないと、途端に交通の便が悪くなります。たとえば、相馬に行くためにはどうしたらいいのかというと、新幹線で福島まで来るでしょ、そして福島から、ここが山道なんですけど、狭い急カーブなんですよ。そこを1時間半ぐらい車を運転してくる、こういう手段しかないのです。電車やバス等の公共交通機関は、一応あるにはあるんだけれども、本数が少な過ぎて、日常の足とするには不便すぎる、そういう地域です。

 福島県のチベットと呼ばれる陸の孤島、この地域、つまり、新地町、相馬市、南相馬市全域に、私の赴任当時で、約12万人の方が住んでいました。この広い地域に、赴任当時に、実働できる弁護士は、私を含めて2名しかいませんでした。数年前に、多くの方から惜しまれて亡くなられたもうお一方の小畑祐悌先生は、何年もの間、たったひとりで、この地域を支えておられたのです。

 ちなみに、原発事故がなければ、全国の人に名前すら知られることなかったのかもしれなかった南相馬市以南の、浪江町、双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町、広野町、ここにも、ひとりも弁護士がいませんでした。いわき市まで南下すれば、赴任当時で、ようやく弁護士20人位に出会える、そういう状態です。すごいことでしょう、新地町から広野町までの浜通り全域、ここまでで、実働する弁護士はたったの1人、そういう状態の地域に赴任しました。

【1 弁護士がいない=法律がない】

 こういう地域に赴任した私としてはですね、赴任当初のイメージとしては、きっと法律相談が山ほどあるだろうなと、きっとみんなとても困っていて、弁護士に相談することが山積みなんだろうなあ、そう思いますよね。なにしろ、さっき話したような人口比なんですから。でも、実際には、赴任当初、いわゆる「法律問題」ではない嫁姑問題とか、農家の跡継ぎ問題とかの相談予約が結構な数入る。多重債務とか離婚とかの典型的な法律相談がさほど来ないわけです。

 今から考えると、皆さん、弁護士に何を相談したらいいかどうかもわからなかったんじゃないかと思いますね。弁護士が、これだけいないとなると、相談をしにいく以前に「弁護士を見た」という人が誰もいないわけですね。

 皆さん、身近にお医者さんを見たこともないという人いないと思います。だから想像するのは難しいかもしれないけど、もしもですよ、今までの一生で一度もお医者さんを見たことないとしたら、その人に何を相談したらいいかさっぱりわからないですよね。それと同じで、弁護士が来たよって言われても何相談したらいいのって、最初は、そういう感じでした。だから後から言いますけれども、本当に深刻な問題が起こったときに、それを弁護士に相談するという選択肢がそもそも出てこないわけです。

 私は、赴任して早々に、つくづくしみじみ思ったのですが、弁護士がいないということは、要は法律がないってことと一緒なんだ、と感じました。弁護士がいない=法律がない、これ、今までいろんな場所で話してきたんですけどね、偽らざる実感です。
 
 当たり前のことを言うようですが、法律は、日本全国に適用されますよね。國學院大學にしか適用されない法律はないし、東京都でしか適用されない法律はないし、相馬にしか適用されない法律はない。日本国であれば、憲法があり、民法があり、刑法があり、利息制限法があり、破産法があり、労働基準法があり、人事訴訟法があり・・・いずれも皆さんにこれから勉強してもらう法律ですけれども、とにかく全国各地に同じ法律が適用される、これが法の下の平等、憲法14条でいう法の下の平等なんです。

 ところが、弁護士がいないとなると、全国に適用されているはずの法律を使う手段がないわけです。法律の知識がないということは、形式的に法律が適用されてても使い方が分からないわけですから、最早ないのと一緒だったわけですね。このことを、3つの具体例を挙げて、ご説明したいと思います。

【例1:夜逃げ、自殺、犯罪が弁護士より身近な選択肢、利息制限法はない】

 利息制限法というのは、今は、皆さんご存じないかもしれないですけど、少なくとも実務に入ったら絶対勉強しなきゃいけない法律なんですが、大雑把にいうと、文字通り、利息の上限を制限している法律です。年間約18%以上は利息を取っちゃいけないよという法律ですね。しつこいですけど、この法律、もちろん全国で適用されていたわけです。ちなみに、利息制限法が、その後、色々と改正があったんですけど、本筋と関係ないので省きます。

 利息制限法には当時、刑事罰と連動していなかったので、その法律に違反したとしても、いきなり業務停止になるとか、警察が乗り込んでくるとかはありませんでした。その結果、大手貸金業者も、利息制限法の定める上限金利を大幅に超えたとっても高い利息で貸してました。地元の貸金業者なんて、もっと凄まじい利息で貸し付けをしていました。
 
 都会であれば、弁護士がいます。「あんたの取っている利息は、利息制限法違反じゃないか、取りすぎた利息は返しなさい」極めてシンプル、しかしこれ以上ないほど強烈な反撃ができる。けれども、弁護士がいない地域はどうか、もう貸金業者のやりたい放題です。取り立ても家だろうと職場だろうと家族だろうと無制限、一度借り始めたらいくら返しても利息に回されて元金なんて減らない。

 皆さん、いくら高い利息取られても、それが法律違反だということは一般の市民は誰も知りませんから、ひたすら払い続けます。日本人は皆まじめですが、特に農村や漁村の人の真面目さは、都会の人には想像もつかないでしょう。一度借りたら払わなきゃいけない、利息が高すぎるなんて誰も言わないんです、払わなきゃいけない、それだけです。
 
 返しても返しても返しきれない利息を今度は別の業者から借りて返そうとする、最悪の道を選んでしまう。もう坂を転がる丸い石です。転がる坂を止めてくれるものが何もないです。ひたすらひたすら転がっていく。その先にあるものは、夜逃げであったり、犯罪であったり、自殺であったりする。弁護士なんかよりも、夜逃げ、犯罪、自殺のほうが余程身近な選択肢なんですよ。
 
 当時、それでも相馬ひまわりに何とかたどり着いて下さった多重債務の相談者の方は、ほとんど土色の顔してました。何日も食べてない、何日も寝ていないからです。
 
【例2:「自己破産しても債権は5年で復活」説の蔓延】

 2つ目の例を挙げましょう。

 弁護士がいないために、悪質なデマ情報が地域に氾濫してました。今から挙げる例は、自己破産という制度に関するデマです。自己破産は、大雑把にいうと、自分の財産を処分する代わりに借金も帳消しにしてくれるという制度です。しかし、この地域では何と、「自己破産をしたとしても、その一回チャラになったはずの借金は5年で復活する」という説がもう住民に浸透しているわけです。市役所の職員ですらそう言ってました。

 何しろ自己破産をお勧めした際の、皆さんの抵抗が尋常ではない。よくよく理由を聞き出してみると、皆さん口を揃えて、「先生、一回チャラにしても5年で復活するんでは」と仰る。いや、まあ、確かに、仮に5年で復活するのであれば、本当に意味がない(笑)。

 だけど、皆さん、その説に確信を持っているんですよ。これはもう大変な事態だ、一人一人対処してもとても間に合わないということで、市役所の生活保護課とかね、民生委員の方とかの前で一生懸命講演をさせて頂くわけです。講演の冒頭で必ず「自己破産をしても借金は5年で復活する、○か×かどちらでしょう」というクイズを出すのですけど、会場全体の人が、○って、力強く手が上がるんですよ。頭抱えましたね。コントみたいですが、現実の話です。

【例3:一般市民が「債権譲渡」】

 3つ目の例を挙げましょう。赴任してびっくりしたのですが、法律の知識がない筈の一般市民が「このお金、いくら催促してももらえないから、ちょっと債権譲渡するわ」とか普通に仰るのです。「債権譲渡」ですよ。皆さんだってこれから勉強するという人もいるかもしれない言葉ですよね。

 どういうことかというと、要は、やくざさんが、弁護士の代わりしてくれているわけですよ。弁護士なんていないから、貸したお金を返してもらえないですというときに、みんなどうしてきたかというと、例えば10万貸していたとしてもやくざさんに8万円ぐらいで債権を売って、そのやくざさんにその債権を回収する権利を与えちゃう。やくざさんが実際10万しか取らないかどうかは、まあご想像のとおりということですね(笑)。もうそういうことに普通の人がやるんですよ、これはすごい世界だなと、そういうことを思いました。

 そういう凄まじい現実の中で、事務所に来て下さった方に地道に伝えるだけじゃだめだから、市役所とか民生委員とか消費者生活センターとか、そういうところを巻き込んで地域全体を変えていかないといけない、そういうことを思って、少しでもできることを、とあがいた2年半でした。

続きは下記!


http://plaza.rakuten.co.jp/yyy0801/diary/201205080002/





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Last updated  2012.05.09 01:24:13
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