弁護士YA日記

結果を自分で左右できない仕事であるのはよく分かっている。
でも、そう分かっていても、時折、ものすごく悔しくて悲しい気持ちになる。
苦しんでいる依頼者の気持ちを何とか代弁したいと思っているのに、どうしてこんな結果になるのか・・・。怒りと悲しみと悔しさと不甲斐なさと情けなさが入り交じったような気持ち、何度味わっても本当に辛いものだ。この気持ちに慣れることは一生できないと思う。

でも、そんな時に、必死に自分に言い聞かせる。
「怒っている暇に、悲しんでいる暇に、何ができるか考えなくては」と。

これは、私が弁護士に成り立ての時に、養成事務所の先輩弁護士に繰り返し繰り返し言われたことだ。

10年前、新米弁護士の私は、訪れる人たちが抱えている不条理な現実や無罪を訴えている被疑者に対する不当な身柄拘束等を初めて身近に肌で感じ、毎日、驚くと同時に、感情的になり、しょっちゅう怒ったり悲しんだり悔しがったりして、時には涙まで流し、しかも、その想いを自分の中にしまっておけなくて、「先生、今、暇ですか」等と暇なはずがない居合わせた先輩弁護士をつかまえては、話を聞いていただいていた。

・・・ああ、振り返ると恥ずかしすぎて当時の自分を消したくなる。そう、私は、恐ろしく迷惑かつ手のかかる新人だったのである。

それにもかかわらず、先輩弁護士たちは、本当に辛抱強く話を聞いて下さった。
自分は10年目に入っているのに、あのような忍耐力を持ち合わせていないことに恥じ入るばかりだ。

ただ、話をさんざん聞いていただいた上で、様々な表現で、必ずきっちりと釘を刺された。

「許せない、そう思うのはよく分かった。じゃあ、どうする？何をする？何ができる？どんな手段を使う？」

「おかしいよね、その通りだ。でも、あなたは弁護士だ。おかしいと一緒に怒ることが仕事ではない。おかしいと思うことを変えていくために努力することが仕事でしょ」

「相談者の人は友達に愚痴りにきたんじゃないんだよ。弁護士に相談しにきたんだ」

「怒っている暇、悲しんでいる暇があるなら、今できることを考えるべき。私なら、怒っている暇があるなら準抗告申立書をすぐに書きます。ひどいと言っている間に、どうやったら解放してあげられるのかを考えます。それがプロとしての役割だから」

・・・10年経ってもこんなにすらすらと書けるほど思い出せるのは、当時の私が、毎日といって良いほど、この手のことを先輩たちに言わせてしまうような駄目な弁護士だったからに他ならない。本来の業務を踏まえずに感情の海に漕ぎ出していってしまう私に、皆、正面から向き合って、弁護士の仕事とは何かを全身で教えて下さった。感謝しても感謝しても感謝しきれない。

先輩方のご指導のお陰で、辛いときには、反射的に「じゃあ、この局面で何ができるか」ということを考える癖がついた。元々の私の性格に任せていたらこんな癖がつくことは一生なかったと思う。先輩方からの目には見えないけれど何より大切な贈り物だ。

悔しい、悲しいと思うときに、心も頭も沸騰しそうになることは、今も昔も一緒で、ひとしきりその思いに浸ってしまうときも勿論あるし、信頼できる人にやるせない気持ちを吐露してしまうのも変わらないのだけど、浸ったままで終わるわけにはいかないと必死に言い聞かせている自分がどこかにいる。

何ができるか、すぐに思いつかないこともあるし、思いついたことが正解とも限らないわけだけど、少なくとも、何ができるかを考える姿勢がないと、現実を変えることはできないし、そもそも弁護士の仕事として成り立たない。

自分の力不足だとか自分が悪かったとか抽象的な反省をしても次につながらない。

現実を踏まえて、原因を具体的に分析して、何ができるか、次にどんな手を打つか、最後まで諦めずに一生懸命考えて、心を折ることなく日々を過ごしていきたいと思う。

今の自分に言い聞かせたいことを書いてみました。
頑張ります。