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弁護士YA日記

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2019年6月より1年間、日本弁護士連合会客員研究員としてイリノイ大学アーバナシャンペーン校に留学後、弁護士業務を再開しました。
弁護士葦名ゆき(あしな・ゆき)
2017.07.02
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カテゴリ:読書日記

 心も体も疲れてきたとき、色んな元気の出し方があると思いますが、私は、自分の想いを自分の言葉で表現することで、とても心が軽くなります。

 「書く」ということだけでいえば、お仕事上、朝から晩まで、といっても過言でない程、書いていますが、当然のことながら、お仕事でお引き受けしている「書く」の場合は、ご依頼頂いている方の主張や想いを正確、的確に代弁することにありますので、自分の想いを自分の言葉でフリーに書いているわけではありません。

 お仕事での、いわば、誰かのための「書く」は、私にとって最早、私の人生の一部に揺るぎなく結合している、大変やり甲斐を感じると共に、学ぶことも多いかけがえのない大切な作業ですが、それでも、こうして自分の想いを自分の言葉で表現するためにパソコンに向かっている時間、そう、自分のために「書く」時間、私は誰にも何にもとらわれていない、心を解き放たれている幸せを感じます。言葉は、私の人生の翼です。本当にそう思います。

 さて、先日、遠方での調停があり、往復時間だけではなく、調停待ち時間も利用して(諸事情で依頼者が来られなかったため)、前から読みたかった本、森千香子氏著「排除と抵抗の郊外 フランス(移民)集住地域の形成と変容」(2016年、東京大学出版会)に一通り目を通すことができました。

 この本は、題名の通り、フランスにおけるマイノリティの方々が集中して暮らす地域が、歴史的に、政策的にどのように形成され、そのことがどのような現象をもたらしているかを詳細に分析するというテーマで書かれているのですが、根底に次の普遍的な問題意識が流れていることが冒頭で宣言されているため、私は、フランスのことではなく「我がこと」という意識を持って、興味深く集中して読み進めることができました。

「本書はフランスの事例を対象としているが、考察の根底にはひとつの普遍的な問題意識がある。それは『異なる人びとが、どのようにしてともに暮らし、社会を構築できるのか』という問いである」(本書26頁)

 このあまりにも壮大な問いは確かに一貫して根底に流れているものの、著者は、一足飛びにこの課題に飛びついて答えを出そうとしていません。
 著者は、著者の考えを押しつけようとしているのではなく、読者にこの壮大な課題に向き合う材料を提供し、読者の心に沸き上がってくる想いを尊重しているように感じました。一定の視点から歴史を丁寧に検証していく中で、じわじわと読者の心に浮かび上がってくる風景から、読者自身が自分で答えを出すことを求められているような、時折、はっと顔を上げて、心に浮かび上がってくる風景から自分の心が感じたことに向き合うために物思いにふけるような時間が何度もあるような、丁寧に綿密に言葉が選び抜かれ重ねられている本です。

 社会学の基本的な手法なのかもしれませんが、「移民」「エスニック・マイノリティ」「差別」「排除」「レイシズム」等の一つ一つの言葉を誠実に定義していく冒頭から引き込まれました。
 フランスの「郊外」に対する政策とその理念の歴史を追いつつ、一連の政策が「郊外」に住む(住まざるを得なかった)住民の方々に与えた影響が、「客観的な事実の指摘」と「マイノリティとされる人々の視点」を行き来しながら展開されていきます。

 名高い人権宣言発祥の地、フランスでは、同国憲法第1条で、同国が「一にして不可分」であり、市民は「出自、人種、宗教」の違いにかかわらず法の下での平等が保障されると定められています。このことは、公式には、あらゆる法律や政策において、人種、宗教などの集団間の差違を一切認識せずに平等に扱うという「建前」が徹底して公言されるという現象に繋がります。

 ただ、当該法律や政策が生まれてきた背景事情と実際の運用においては、明らかに特定の集団を意識し、その集団に何らかの対応をするために存在するという「本音」があるのです。

 そして、本書を読んでいて、フランスの場合、この「本音」が公式に出ることが、歴史的経緯から、他の国以上にタブーなのだろうと感じました。フランスの人々は、自分たちの国の歴史をとても良い意味で誇りに思っているのでしょう。日本の一部政治家の述べている浅薄で偏狭な「自国万歳・愛国主義」とは根本的に異なる印象を持ちました。

 この本音と建て前のずれがもっとも顕著に表れている分野の一つが、フランスの郊外政策で、結果的に、「『問題は移民・外国人といったエスニシティではなく、社会経済的困難なのです』という公的言説を掲げ、現実の人種差別の実態を否定することは,差別の問題を隠蔽することにもつなが」ってしまっているのです(本書137頁)。

 この結果、しわ寄せがいくのは、著者が「エスニック・マイノリティ」と定義する非ヨーロッパ出身者、かつ、支配-被支配構造における被支配者を構成する人々です。

 公然と差別されているわけではないのに、生活の拠点となる住宅政策においては、余りにも高くて、もう生まれついた時から(移民二世、三世の場合は、フランスで生まれているのに!だからフランス国民なのに!)超えることができないのだと思い知るしかないような(誰も「超えられない」とは公式には言わないけれど、何をしたってどんな努力をしたって「超えられない」と自分で悟っていかざるを得ないところが、かえって残酷だと私は思うのです)歴然とした壁が、マジョリティとの間にそびえ立っている現実の中で暮らすことで、どんな感情が生まれ、どんな言動に繋がっていくのか、他人事では到底いられないような危機感、臨場感が沸き上がってきました。

 「エスニック・マイノリティ」のやるせない悲しみと、行き先がない怒りと絶望を心で感じました。
 
 読了して、この本は、実は、マイノリティのための本ではなく、マジョリティ、ないしは、マジョリティだと思い込んでいる人のための本であるような気がしてきました。
 著者も、特に終章で、繰り返し、マイノリティの問題を他人事としてとらえるべきではないと述べています(本書284~287頁)。

「『マイノリティ研究』とは、『少数派だけにかかわる問題』を扱うのではなく『多数派にかかわる問題』を理解するための研究でもある」
「マイノリティが受ける差別や排除はマジョリティに属する人々にも及び得る」
「社会でもっとも周辺化され、弱い立場に置かれた層のみを排除するような施策が次第に別の層にも展開されることは・・・何度も繰り返されてきたのである」
「・・・私たちが暮らす社会の客観的な理解に到達する上で『マイノリティ』の視点について考察することが非常に助けになる」
「『よそ者』や『移民』、マイノリティの視座を志向し、それを通して『知っているつもりの社会』を見つめ直し、反省的な洞察を重ねることこそ、『客観性』に近づくための数少ない道ではないか、と筆者は考える」

 閉塞的な空気が私たちの社会を覆いつつある、息苦しい今日この頃です。
 でもこんな時だからこそ、一生懸命に考えること、真摯に学ぶことを、絶対に手放したくないと思います。
 そんな自分の中に沸き上がってきた想いを、自分に確認する機会を与えてくれた名著でした。
 お勧めです。






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Last updated  2017.07.02 04:44:22



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