2020.02.23

Nuclear ENGR& LAW Seminar:不法行為に基づく損害賠償基準の日米比較

カテゴリ:留学

昨日は、カレーパーティー、、、ではなく、Nuclear ENGR & LAW Seminarの勉強会がありました。






この勉強会は、専門分野の垣根を超えて、原発事故に向き合って意見交換しよう、それが福島を経験した日本の専門家の責任じゃないですかね、という趣旨で昨年10月から始まりました。
UIUCの原子力学部で博士研究員をされている櫻原達也さん、日本の研究所から客員研究員としてUIUCに留学されている嶋田和真さん、そこに、日本の官庁からPurdue大学に留学されている杉立大和さん、杉立さんとは異なる官庁からGeorge Washington大学に留学されている加畑晶規さん、プラス日弁連から私、という5人のコアメンバーで形成されています。
杉立さん、加畑さんは、UIUCではないので、スカイプで繋いでの参加になりますが、議論や意見交換にはまったく支障なく、世界は本当に近くなったなあと実感します。

第1回を昨年10月に開催してから、大体月1回のペースで、原子力事故に備える仕組みの日米比較、日本の官公庁の原子力行政の役割分担(経産省、文科省、原子力規制庁環境省、内閣官房、復興庁等々、余りにも沢山の役所が絡んでおり、どう役割分担しているのか常々不思議だったので、とてもすっきりしました!)、チェルノブイリ・スリーマイル・福島の賠償システムの比較などをテーマに活発に意見交換してきました。

今回は、本当は、前回に引き続き、私が、3事故の比較を深める報告をするはずだったのですが、Spring Semesterで米国の損害賠償システムを学び始め、日本の賠償基準について見えてきたものを一度まとめる機会が欲しく、この勉強会を利用させて頂くことにしました。
嶋田さんとも良くお話しするのですが、知識をインプットするだけではなくアウトプットするというのは理解を深める意味で非常に重要で、苦しいけれど楽しい作業です。
準備をしながら、自分が何を疑問に思っていたのか自分で気付くこともあり、はっとします。私の報告の概要は下記に貼り付けますが、日本とアメリカを比べることで初めて浮かび上がる日本の特徴に気付けたこと、大きな収穫だったと思います。良くも悪くも、日本の損害賠償実務が、赤本に支配されていること、私は今まで気付いていませんでした。




なお、今回は損害賠償基準という法律的な話題でもあるので、勉強会に、ロースクール仲間の、中島朋子さん(日弁連派遣・LLM在籍中)、上園遼さん(早稲田大学法科大学院在籍中)にも加わって頂き、議論がより深まりました。

報告後は、超美味しいカレーを皆で頂きながらディスカッションです。自分の備忘録も兼ねて、どんな議論が出ていたかご紹介しますね。思いつくまま順不同です。






・基準作りのプロセスが透明化されるべきだという話はその通りだと思うが、その分、時間をかけないといけないということを意味するので、スピードと丁寧な手続保障をどう両立するかは課題だ。少なくとも原発事故の場合は、スピードも非常に大事だった。
・たとえば、基準作成過程で、パブリックコメントを受け付けるのはどうだろうか。
・そもそも有識者委員ってどうやって選ばれているのか、そこから不透明。原賠審の委員の人選にしても、研究者や元裁判官が多いのは何故なのか。アメリカでも、専門家をアドバイザー的に参加させることはあるけれど、議会の承認を得る等、民主的なプロセスを経ているというのは一つの建前になっているのではないか。
・アメリカはケースローの国の筈なのに、何故、従前の例をほとんど参考にすることなく予測不可能な賠償システムを維持しているのだろう?そもそもケースになるのはどこまでなのか。また、Juryが最終的な金額を決めるのであれば、裁判官の役割はどのようなものだと認識されているのだろうか。
・アメリカの損害賠償における将来の被害には、物価の上昇なども加味されているのではないか?だからこんな金額になるのではないか?
・確かに、日本の赤本基準、微妙な改正はあるが、死亡慰謝料等はずっと金額が一定だ。一家の大黒柱基準など時代錯誤と言わざるを得ない項目もある。他の事故の際にも、赤本基準が幅広く使われていることを考えると、日本の損害賠償実務における赤本の役割を見直すことも必要ではないか。
・原発事故は起きないにこしたことはないとしても、次回起きた時に、確実に福島の賠償基準が参考になるはずだ。中間指針の決め方、内容含め、これで本当に良かったのか、という徹底的な検証をする機会が必要なのではないか。
・検証は是非すべきと考える。ただ、それをするのであれば、最終的には経産省や文科省が仕切るにしても、立地自治体から声が上がった方がやりやすい。
・基準にあてはまらない人をどう救うのか、基準に柔軟性を持たせるといっても、どこかで最終的に線を引かざるを得ない。そうすると、賠償でどこまで救うのか、という根源的な問題に向き合わざるを得ない。前回報告のチェルノブイリのように、医療費を無料にする等の社会保障的なアプローチもあり得ると思われる。

・・・まだ沢山話した気がしますが、思い出せません。でもとても充実した楽しい時間でした。またどんどん学んで成長したいと思います。

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Ⅰ 日本の損害賠償制度

一、損害賠償基準
1,交通事故
:自賠責保険基準
:任意保険基準
:裁判基準(通称 赤本基準)




  
2,原発事故(中間指針)
(1)中間指針の項目・内容
   ポンチ絵参照
(2)交通事故基準の影響
ア 避難慰謝料
:基準を決定した文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)は、避難住民への賠償金の算定に際し、「身体的損害を受けた自賠責保険の慰謝料」を参考にした。
:身体的損害を受けた自賠責保険の慰謝料月額12万6000円を元に、避難住民が身体的なけがをしていないため、この額よりも減らし、月額10万円と決定。
                    (以上:平成23年6月20日 第8会原賠審議事録より要旨抜粋)
イ:避難関連死慰謝料

3,成文法による給付金規定
(1)薬害C型肝炎
ア 慢性C型肝炎が進行して、肝硬変もしくは肝がんに罹患し、または死亡した者
  4000万円
イ 慢性C型肝炎に罹患した者 2000万円
ウ それ以外 1200万円 
・ 投与の事実、因果関係の有無、症状は裁判所が認定
・ 請求期限は5年以内、10年以内に症状が進行すれば追加給付金を支給
・ 給付金支給のため、独立行政法人医薬品医療機器総合機構に基金を設置

(2)その他
:水俣病(かなり複雑な歴史があるが、成文法としては、2009年「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法」)、
:ハンセン病(国家賠償請求訴訟を経て、2001年「ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給等に関する法律」)

4,上記類型に当てはまらない損害賠償類型
(1)故意、過失に基づく交通事故以外の傷害・死亡(医療事故等)
:ケースバイケースではあるが、実務上赤本基準の影響は大きい
(2)精神的損害
:不貞慰謝料、名誉毀損等は、実務の中で基準が形成されているが、特に名誉毀損等は、事案による振れ幅が大きい。

二、基準の作成方法
1,有識者会議
(1)赤本基準
   赤本自体は、公益財団法人日弁連交通事故センター東京支部の監修、年に1回改訂され、東京地裁交通部裁判官出席の有識者会議が主体?
(2)中間指針
      原賠審により決定。メンバーは、大学教授、放射線医学専門家、弁護士など。

2,訴訟
(1)政策形成訴訟
:特に国相手の集団訴訟において用いられる手法 cf)薬害肝炎
:訴訟→和解→立法化
(2)訴訟の積み重ねによる相場観の形成
:不貞慰謝料、名誉毀損慰謝料等

三、特徴
1,一律・公平・平等な賠償基準
:一般的に、一律・公平・平等な統一基準を作ろうとする傾向がある
:原則として訴訟内外でそれほど基準は変わらない。
:基準の存在や裁判官の心証開示があるため、予測可能性が大きい。
:すべての人に予測可能性がある一方、一度基準が作られると硬直化する傾向があり、個別事情に応じた増額が非常に困難。

2,履行可能性が期待できる
:自動車事故や医療事故に関しては保険金による支払が期待できるため、少なくとも基準の範囲内においては、賠償金を実際に得られる可能性が高い。
:成文法による基準、中間指針等国が関わる有識者会議で作られた基準に従った賠償は、履行可能性が期待できるため、賠償金を実際に得られる可能性が高い。


Ⅱ アメリカの損害賠償制度

一、損害賠償基準
1,総論
:州によって、法律が異なる前提のため、全米統一基準はない。
:また、州内であっても、少なくとも金額面における統一基準は存在しない
:JuryへのInstruction(説明内容)は裁判所のWeb siteに公開されているが、抽象的な内容で金額の表示はない。そのため、Juryがどんな判断を下すのか、誰にも予想がつかない。

2,一般的な損害項目
(1)Compensatory Damage
:「填補損害賠償」、実際に生じた損害の填補をするための賠償



(2)Punitive Damage
:「懲罰的損害賠償」、悪質な行為を行った被告に対する懲罰を課すための賠償

3,ある交通事故の例(Compensatory Damage)
(1)事案
 :2015年2月、60歳の女性Aが、道路横断中にバスにはねられ、両足切断の傷害を負った。A及び夫Bは、バス会社に対し、訴訟提起。2015年8月18日にJuryは、下記賠償を認める評決を出した。
*出典下記
https://www.news-gazette.com/news/updated-jury-awards-million-to-bus-victim-husband/article_dbeba8cf-cbb5-5712-be7d-0c0bedf4b982.html

(2)実際に支払われた損害賠償の金額
:別表の通り10億9,581万円!
:なお、Pain & sufferingとPast and future emotional distressは重なっているのではないかと被告が控訴したが控訴審で排斥された。
(参考)同じ事案を日本の赤本基準で計算した場合
  *便宜上 入院6ヶ月、通院1年と仮定、治療費、逸失利益、休業損害はアメリカの事例をそのままあてはめる前提でも、合計は3億8,000万円(2億8,000万円は治療費)




二、特徴
1,賠償金額の変動が非常に大きい
:同種事案でも、代理人の立証の仕方、Juryの広範な裁量等で、金額は大きく変わる
(例:1989年にテキサス州で発生し、21人の生徒が溺死したスクールバス事故において、高名な人身傷害の弁護士を雇ったケースでは$4.5million、そうでないケースで$1.5millionの和解が成立)
:そもそもケースが異なる以上、賠償金額も異なって当然という考え方が根底にあるように思われる(私見)
:なお、Juryトライアル(陪審裁判)に進む前のPretrial(裁判前準備手続き)の段階で、95%の和解が成立する要因の一つは、Juryの判断が余りにも予測不可能であると説明されている。

2,予測不可能性の弊害と不法行為改革(Tort Reform)
:このような予測不可能性の結果、経済活動が停滞してしまうという弊害が指摘されてきた。そのため、非経済的損害につき、上限を設けている州も多い。
:もっとも上限を設けている州でも、重傷者については上限を撤廃している州もある。
:ただ、非経済的損害が主要な損害となる高齢者や幼児、何らかの障害があって収入がない人にとって、非経済的損害に上限を設けるのは不公平だという批判が根強い。

3,履行可能性のばらつきがある
:予測不可能性故に保険料が高騰しており、たとえば対人無賠償の自動車保険は、デフォルトではなく保険料を上乗せしないと入れない=賠償を全くもしくは少ない金額しか得られない被害者も相当数存在する。
:実際に、保険会社が、保険金の支払いを渋ったために、訴訟に発展しているケースもある State Farm Mutual Automobile Insurance Co. vs Campbell, 538 U.S. 408 (2003)

Ⅲ、日本の賠償制度の課題

一,基準の作成過程の透明化
:仮に基準を作るのであれば、特に有識者会議で基準を作る際に、研究者のみならず、被害者側からも有識者が出ているのか等の人選、ヒアリングを多用する等の十分な手続保障、会議の公開、異議申立の受付、反映等を認め、密室で作られる状況を脱する必要あり。

二,個別柔軟な損害賠償を対応を可能にする損害賠償体制の構築
:一律、公平、平等性を追求する余り、基準に当てはまらない、もしくは、基準を超えた損害が発生していると訴える人の救済ハードルが非常に高い。
:基準を作るメリットのみならずデメリットに着目する必要がある。

 →アメリカの損害賠償基準の良いところをうまく取り入れていくために具体的にどのような改革が必要なのかは今後の研究課題。






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Last updated  2020.02.23 07:18:34