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カテゴリ:ほのぼの日記
「オーイ!リョウくーん!がんばれー!」 仲良し三人組の二人の友達は滑り台の上からにこにこしながら手を振っている。二人とも滑り台反対上がりに成功して得意満面だった。三人は同じ幼稚園に通う年中さんだった。 この滑り台反対上がりは子供達が一つ上のお兄ちゃんとして認められる大事な儀式だったのだ。勿論幼稚園でやるとけい子先生に目玉が飛び出るほど叱られるから、こうして幼稚園から帰った後、近所の公園で挑戦となったのだ。 友達二人は難無く成功したが、ちょっと太ってて運動が苦手な良君は何度やっても半分くらいまでしか行けなかった。早い子では年小さんでも登れる子がいるというのに。 良君はたっぷり助走をすると勢いよく真ん中まで駆け上がるのだが、その後は焦る気持ちから足は空回り、そのままずりずり後退りしてしまう。友達は滑り台の上からやんやの大応援をしてくれるにも関わらず、何度やってもどんなにやっても途中でずるずる。 良君はちょっと涙を浮かべながらもう一度挑戦した。 「えええーい!」 どうだ後一歩まで来たぞ。良君は後一歩を踏み出せばどうにかてっぺんに届きそうだったので、踏ん張る足を思い切り前に降り出した途端、足を滑らせ万歳をした姿勢でまたもや滑り台の一番下までずるずるずる。 こけたときに顎をしこたま打ったのと悔しいのと悲しいのと惨めなせいで、とうとうその場で涙が溢れ出て来て、ひれ伏したまま泣き出してしまった。 「ケンちゃーんそろそろ帰る時間よー。リョウちゃんも、ヤッくんもそろそろ帰らなくっちゃ。」 ケンちゃんのママが呼んだので、二人に背中を摩られながら、良君もとぼとぼ公園の出口までやって来て、それぞれの家路へと分かれた。 良君は50メートルばかり行くと公園を振り返り、しばらく考えた後、公園に向かって走り出した。 もう一度、もう一度、もう一度。何度も何度も滑り台反対上がりに挑戦し始めた。両手と両足の指を足した位の数は既に挑戦して、また後一歩までやって来た。今度は慎重に、 「えい!」 辛うじて引っ掛かった右足に力を込めて・・・・・
良君は遂に滑り台のてっぺんに立った。てっぺんに立って沈みかけた真っ赤な夕日をじっと見つめた。口の中ではさっき顎を打ったせいで歯が一本ぐらぐらしていたけれど、舌先でもぞもぞ動かしながら彼は思った。 「この歯は大人になるときに生え変わる歯なんだ。」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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