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カテゴリ:ニャン騒シャーとミー八犬伝
関東管領の領内に食い込む形で独自の勢力を築いた武蔵国穂北荘では、犬江親兵衛を除く七犬士が互いの再会を喜び合っていた。 そして彼らはここを取り仕切る氷垣残三(ひがき ざんぞう)を助けながら、密かな活動の場とすることにした。 また、八犬士とはふしぎな縁で結ばれる八人の猫族も徐々に集結しつつあった。 今はまだ雷、千代、連の三人だが、このあと続々と集結することとなる。
一方、関東管領扇谷定正の威を借りた各地の陣代が悪行を繰り返しその煽りを受けて、信乃と浜路、荘助たちにも幾多の災難が降りかかり、道節の犬山家の主家が滅ぼされて以来道節は定正を仇と狙うようになった。 定正の家臣となっていた竜山免太夫は、かつて籠山逸東太と名乗り千葉家の重臣馬加大記に操られ毛野の父であり同じく千葉家の重臣である粟飯原胤度を殺し、一族も馬加により根絶やしにされた。 その仇である籠山逸東太は毛野によって討ち果たされたが、家臣を殺害された定正の怒りは八犬士、また彼らが縁を結び、かつての結城合戦からの宿敵安房里見家への憎悪となり、山内顕定と足利成氏らを引き入れ里見家討伐を旗印とした関東大戦を引き起こすこととなった。
ここに扇谷定正たち連合軍と里見家との全面的な対決が繰り広げられることになった。 定正は手始めに里見家同様、定正に弓を引き結城に味方する氷垣残三が率いる穂北荘に向けて兵を進めていた。 そして文明十五年冬、ついに扇谷連合軍は穂北荘南部の三つの小高い丘の上にそれぞれ二千五百の兵を配置し陣を構え、氷垣残三率いる穂北荘二千五百の兵と対峙する形となった。 この戦が世にいう関東大戦の発端となったのである。 穂北荘の兵は扇谷連合軍の三分の一にも満たないが、士気は遥かに高く、この地は彼らが長年のあいだ智を巡らし、計を案じ、罠を仕掛けた場所。知らぬ者が容易に足を踏み入れること能わぬ場所だった。 そこへ集結した安房里見家のこれからを背負う精鋭八犬士のうち七犬士もそろい、彼らの存在は七千の味方を得たも同然の勇気を与えた。
とはいえ、数の上での兵力では圧倒的に扇谷連合軍側に利がある。 何度か扇谷連合軍が仕掛けて、それを穂北軍が押し返すという状況が続き、長期戦の様相を呈し始めていた。
そんなある日、犬士の下に二人の心強い味方が姿を現した。 義賊螺良猫団の中心となって生き抜いてきた佐飛と茶阿である。 「千代坊、元気か?お前、前よりもっと大きく逞しくなったようだなあ?」 従兄の茶阿はそう言って千代に駆け寄った。 「兄さんこそ、なんか前より一段と迫力が増したような感じじゃないか?」 千代の言葉に茶阿は得意そうに顔をほころばせ、くるりと背を向け一時は生死の果てをさまよった後、背中に残されたハートの模様を見せて言った。 「ほら、おれにも見事なハートの模様だ。」
佐飛は茶阿が大怪我をして死にかけたところを伏姫に救われ、彼女のお告げに導かれてここへやって来たことを話し、最後にこう結んだ。 「私たちは扇谷の権威をかたに横暴と略奪の限りを尽くす手下どもから富を奪い、苦しむ者たちを救済することに命を懸けてきたんだ。そして今、その使命を果たすためにここに来たのさ。今螺良猫団の仲間は各地に散らばり、様々な知らせをもたらす活動を始めたところさ。」 信乃の紹介を受けてこれを聞いていた氷垣は、大きな手で猫族の小さな佐飛の両手を包み込み、何度も何度もゆすった。
佐飛は一段高い場所に立ち、ぐっと胸を張りこう言った。 「土産にひとつ、いい話を持って来た。扇谷傘下のある役人のお方によると、扇谷家に属する者の中にも、最近の扇谷家に対して不信感を持つ者が増え始めているという事をお聞きした。つまり扇谷連合軍は一枚岩ではなく、扇谷家自体も決して一枚岩ではないという事さ。」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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