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カテゴリ:ニャン騒シャーとミー八犬伝
佐飛たちが穂北荘へやって来て十日経った。 穂北荘軍と扇谷連合軍とのにらみ合いは相変わらず一進一退を繰り返していた。 がその間も、螺良猫団の者たちからの知らせは続々と届いた。 彼らの活躍で扇谷連合軍の情報は穂北荘軍に筒抜けで、今や兵の頭数では劣っても、士気と情報量では遥かに勝っていた。 何せ八犬士たちの事は知られていても、その陰で彼らを支える猫族の者たちの事はまったく知られていなかったから、出入りが自由にできたのだ。 おまけに彼らは元々義賊として、屋敷に忍び込んだり、暗がりに身を隠したり、言葉巧みに情報を聞き出したり、まことしやかにたぶらかしたりはお手の物なのだから。
そんなとき、そんな彼らに混ざって連も忙しく立ち働いていた。 犬坂毛野の宿敵に奉公していたがある日追い出されたのち、雷、千代と出会い、毛野を導き、助けたのが縁ではるばるこの地までやって来た。 だが今まだ幼さが残る連と言えど、大義のために働くことの喜びは何事にも代えがたく、例え奉公時代よりも過酷なことがあろうと勇気と希望を持って乗り越えて行くうちに、また一歩と大人への階段を上る実感を味わっていた。
連は今日も佐飛から地図を受け取り次なる使命の説明を受けているとき、背中に何か不思議な視線を感じて仕方がなかった。 佐飛の説明も終わり、彼女にポンと背中を叩かれて励まされたあと、その不思議な視線の方にゆっくりゆっくり振り返った。 彼は視線を次第に遠くに伸ばし、伸ばした先の猫族の女性を見て、立ち尽くした。 手に持っていた大事な地図を落としてしまったことにも気づかなかった。
「連?連じゃないの?」 彼女の問いかけに連は次の瞬間猛烈に走り出し、彼女の胸に飛び込んだ。 「姉ちゃん!姉ちゃん!」 周りの者は驚いてこの光景を遠巻きに見つめていた。 「連!」 その白猫の女性はそう叫んで、黒猫の連をしっかり抱きしめた。 あの秋祭りの夜、人さらいに一緒にさらわれた連の姉である雛だった。 その後二人は引き裂かれ、連は毛野の宿敵の屋敷で奉公させられていた。 雛も最初はある商家で奉公させられていたが、そこを逃げ出して、ここ穂北荘にたどり着いた後は、ある神社の巫女として仕えていた。 彼女はそれまで気が付かなかったのだが、その神社の神主に彼女に強い霊力が備わっていることを見定められたからだ。
そんな二人を遠巻きに見ていた穂北荘の人々は次第に輪を詰め、身を寄せ合い、二人を囲んで我が事のように涙を流し、肩をさすって、喜んで祝ってくれた。 二人は穂北荘の人々の温かい心の中で、嬉しさの余り泣き続けていた。 やがて白猫の白い顔の真っ赤に泣きはらした目に光がさして、姉は未だにすすり上げる黒猫の弟の目の端の涙を優しく拭いながらやさしく微笑みかけた。
その時、連の肩をたたく者がいた。 連が振り向くとそれは佐飛だった。 「連、良かったじゃないか?お前の仕事は空にやらせるから、お前は姉さんとしばらく一緒に過ごしな。」 暖かい思いやりの満ちた言葉に、しばらく連は佐飛を見つめていたがきっぱりこう言った。 「いや、佐飛母さん・・・」 もちろん佐飛は連の本当の母親ではない。本当の母親は毛野が必ず見つけ出してくれると約束してくれた。 「いや、佐飛母さん。これは俺の仕事だ。ちゃんと俺がやり遂げてみせるよ。」 佐飛は目を丸くして、でも嬉しそうに連を見つめておどけて言った。 「おやこの子ったら。やっぱり私の息子だよ。」 次の瞬間、佐飛はさっき連が落とした地図で彼の頭をぽかりと叩いて言った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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実際のひなちゃんは、れん君をちょっと避けてるようですが、
物語の中では、仲良しのようで、実際もそうなるといいのになぁ~と思います。 (2020.06.07 20:41:21)
空夢zoneさんへ
冬の頃からこのシーンとひなちゃんが八犬士を安房へと導くシーンは考えていました。 でも八犬士がそろってからになるので、最後の方になってしまいました。 (2020.06.11 11:39:49)
パパゴリラ!さんへ
一生懸命相手をしてもらおうとれん君がひなちゃんにモーションを掛けるけど、もともとそれを好まないひなちゃんの性格でいつもヤキモキしてしまいます。 パパゴリラ!家もこれからどんどん出会い再会がやってきます。 (2020.06.11 11:43:34)
おり2002さんへ
ひなちゃんの登場は冬頃から考えていましたが、八犬士がそろい安房の国へと導く役どころなので今やっとご登場となりました。 れん君は若いのでエネルギーの発散を求めているんでしょうけど、ひなちゃんは孤高の猫ちゃんだから難しいのでしょうね。 うり太君はおっとりでひなちゃんも安心できたのだとおもいます。 (2020.06.11 11:47:18) |