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カテゴリ:ニャン騒シャーとミー八犬伝
ひと際大きく、重々しい鈴の響きと共に彼女は体を開き、両手を広げ、両足を広げ、胸を張った。
そして、そのとき・・・・
白猫の雛が大きく両手を広げ、両足を広げ、胸を張ったそのとき、伏姫たち一行の周りを濃い霧が立ち込め、それは次第に地上に降り立ち、地を這い、野を覆い、川を渡り、山を飲み込んだ。 扇谷連合軍が陣を張る丘も今はすっかり深い霧に追われ、一間先も見通せないほど辺りはすっかり白い雲に包み込まれてしまった。 扇谷連合軍の兵士たちは一歩も動くことが出来ず、その場に立ち尽くすのみで、指揮する者たちもなすすべがなかった。
雛の兄の織(おり)は八犬士たちの前に進み出て告げた。 「私の兄弟の瓜太が皆さんを安房の国までお連れします。背中の模様を頼りにお進みください。目を逸らしてはなりません。ひたすら前に進むのです。」
「だが私たちが去ったあと、穂北荘の人々はどうするのだ?」 信乃は織に尋ねた。 「今この雲は扇谷の陣の者たちを深く包み、一歩も進むことはできません。一日の間は。その間に兵や村人たちを引き連れ一先ず獅子落谷の砦まで退くのです。そこに籠城し、それを追って来た扇谷軍を八犬士が里見軍を引き連れ背後から挟み撃ちにするのです。」 織の言葉に大角は反論した。 「穂北荘の民を囮にせよと?」 「囮ではありません。これは策です。」 織はきっぱり言った。 「我々が里見軍を引き連れここに戻るまで、砦は持つのか?食料は?」 荘助の尋ねには今まで八房の傍に控えていた吾妻(あづま)が答えた。 「心配には及びません。それは私と徹、そして比瑪の犬族の者が日夜お運びいたします。」 「しかも、今砦には四か月分の食糧が蓄えられています。これで少なくとも半年は十分持つはずです。」 徹が言った。 「然らば、半年の間に我々は里見軍を引き連れて戻ればよいのだな?」 道節の言葉に毛野は言った。 「三か月で十分。知略を以って、必ずや私が導きます。」 「その間に扇谷軍が一気に攻め寄せたらいかがする。我が兵は一歩も退かぬが、いつまでも持つものではない。」 娘の重戸(おもと)の肩を抱いた残三の言葉には丶大が答えた。 「筑波よりこちらに参る途中、結城家に働き既に二千の兵がこちらに向かっております。」 残三はこれを聞き、希望の光を見るように丶大の横顔を見つめた。 里見義実も参戦した結城合戦での敗退を機に、衰退した結城家ながらこの機に巻き返しを図り、縁故の者や新たな兵を集め、この穂北荘に援軍を送ってくれているのだ。 恐らく持てる力のすべてを尽くして。 「ならば我らは扇谷の陣に忍び込みかく乱するとしよう。茶阿いいね?ほかのみんなも。」 佐飛は螺良猫団の手下に向かって固い決心を伝えた。 「じゃおいらと千代と連は、里見軍との間を行きかい伝令を務めよう。」 雷はそう言って千代と連とうなずき合った。 「私たちには戦うことはできないけれど、今までの様に負傷された方たちの介護をいたします。この蝦蟇の油は父のために手に入れたものですが、父もきっと分かってくれるはず。」 扇谷の命で民は往来を禁じられ、もはや帰る術を失った蘭と喜利は、ここで自分たちがなせることをなすと誓った。 「必ず三か月で里見を引き連れここへ戻る。」 現八も小文吾も親兵衛も覚悟の言葉を発した。
それまで皆の覚悟を推し量るように黙って聞いていた伏姫がついに口を開いた。 「里見八犬士よ、我が子らよ、そなたらの使命を果たしなさい。ここは私たちが必ず守り抜きます。」
「信乃様、私も父五里姉妹とここへ残り、皆様のお役に立ちとうございます。」 信乃は浜路の気丈な気持ちを察し、彼女の手をしっかり握ってうなずいた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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