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2020.06.21
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扇谷定正のもとに物見の家来が走り込んで来た。

「お知らせいたしまする。穂北荘に至る道が晴れましてござりまする。」

それまで突如の深い霧に、扇谷軍は進軍もままならず立ち往生していた。

地形を熟知した穂北荘の兵は、例え深い霧であっても、いやそれを利用して神出鬼没に振る舞うことが出来、いつ奇襲を仕掛けられるかと、防御を固めるしかなかったのである。

だが今や霧はようやく退き始め、穂北荘への道も再び姿を現したというのだ。

「よし、兵を勧めよ。一気に押しつぶせ。我が方の六千の兵をもってすれば、八百の兵など物の数ではない。他の陣にも伝えよ、かねてからの手はず通り三方から穂北荘を攻める。」

定正は一進一退を重ねながら、多勢を頼りに徐々に敵の兵を減らすに至り、今こそ打って出る好機と見ていた。

開戦当初扇谷定正と山内顕定と足利成氏の軍、合わせて七千五百と圧倒的な兵力を持つ連合軍が、二千五百の穂北荘の兵にてこずっているでは示しがつかない。

定正は苛立ち、焦りを感じていればこそである。

三つに分かれて陣を張る丘からはそれぞれ穂北荘の本拠へ至る道があるが、いずれも途中には両肩を小高い斜面で見下ろされる小道を抜ける必要がある。

散々に矢を射かけられることは必定。

だがここを抜けることが出来れば、あとは平地となり本拠までの道のりは隠す物もなく裸同然である。

しかも八百余りと数を減らした敵が三方に兵を配置するなら、それぞれ百程度という所だろう。

一気に駆け抜ければ活路は開ける。

「進め、全力で駆け抜けろ!」

隊長の号令の下、扇谷軍の各隊が三方から一斉に両肩を丘に挟まれたそれぞれの小道になだれ込んだ。

兵は駆ける、駆けにかけ続ける。まだ反撃はない。

そしていつまでも。

兵の列は長く引き伸ばされ、その先頭の五十ばかり兵が平地に躍り出たとき情勢が変わった。

途中の小道の脇に高くそびえる杉の木が、次々と倒れ積み重なり行く手を塞ぎ、あっという間に高々とそびえる城壁と化してしまった。

行く手を突然遮られた兵は、立ち往生した蟻の行列の様に一か所にひしめく形となった。

そしてそこに丸太落としや岩石落としが押し寄せてたくさんの兵士が圧死と重症の憂き目にあった。

先頭近くに分断された百ばかりの兵は前後からほんのわずかな手勢に挟み撃ちされあっけなく倒れた。

だがそのわずかな手勢も、後は構わず一斉に穂北荘の最後の砦へ向けて走り去って行った。

 

「みなよくやった。だがあの策は最後の策。二度と使えぬ。敵があの障害を取り除けばいずれここに押し寄せよう。しかし、ここは難攻不落。簡単に落とせるものではない。耐え抜くのだ。無駄死にするでない。最後まで生き延びた者が勝ちと思え。」

氷垣残三はこう言って兵たちを鼓舞した。

浜路も蘭も喜利も村の女たちもこの檄を聞きながら負傷した者たちの手当てに当たった。

村人も交えて立て籠もった砦は満杯の状態だったが、村人たちも手に手に車で運び込んだ自分たちの食い扶持を合わせれば、数か月は持つであろう。

ただその数か月が二か月か三か月か四か月か?

果たしてそれまでに里見や結城の援軍は到着するのか?

 

ここはまだ深く白い霧の中。

白い霧の中にふわふわと黒い模様が踊るように揺れながら進む。

かつて浜路が付き従った瓜太の背中のハートの模様だ。

二、三人がひと塊となり、決して目を逸らすなという織(おり)の言葉を守り、前へ前へ、ひたすら前へと進んでいた。

やがて先頭を行く信乃と大角の行く手には、何か黒い影が見え始めた。

影は横に長く、草原に横たわる木立の様に横に長く横たわっていた。

そしてその影が近付くにつれ、たくさんの影の集まりであることが分かった。

ひとつの影は目の高さより少し高く、更にその陰の上にもう一つの影が。

 

馬だ。馬にまたがる甲冑の武士の姿だ。

一気にはっきりした姿が八犬士と丶大の前に現れた。

それは壮大な兵を率いる一大武士団の姿と変わった。

先頭の信乃がふと足元に目を向けるとまだ二つの影が。

いやその影は元々真っ黒だった。

二人の黒猫の男たちだった。

黒猫の一人が前に進み出て信乃を見上げ、こくりと頭を下げた後言い始めた。

「伏姫様に仕える九一という者。こちらにおわすは伏姫様の弟君である里見義成様です。安房の国を治める君主様であります。」

それを聞き、八犬士と丶大は跪づき首を垂れた。

跪いた信乃の耳元にもう一人の黒猫が近付きそっと耳打ちをした。

「わしは山。わしらは蘭と喜利の伯父なのだ。彼女たちは元気にしておるかの?」

 

中央に立つ馬から武将が降り立ち、犬士の前に立ち言った。

「私がその里見義成だ。八犬士よ我が甥たちよ、よくぞ苦難の道を乗り越えてここまでたどり着いた。願わくば我らの力となり、安房の国が見舞われた苦難に共に立ち向かってもらいたい。」






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最終更新日  2020.06.21 00:00:21
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Re:ニャン騒シャーとミー八犬伝 ~ 霧晴るるときの巻き(06/21)   ララキャット さん
政治家に聞かせてやりたいです~ (2020.06.21 00:01:43)

Re:ニャン騒シャーとミー八犬伝 ~ 霧晴るるときの巻き(06/21)   パパゴリラ! さん
雄の黒猫族、結構巨大でした。
8キロ超と7キロ超のビッグコンビで、7キロ超のやまさんは、喧嘩もものすごく強かったです。

8キロ超のクーは、優しい猫でした。
まさか登場してくるとは思っていませんでした。
嬉しいなぁ~! (2020.06.21 08:11:54)

Re:ニャン騒シャーとミー八犬伝 ~ 霧晴るるときの巻き(06/21)   空夢zone さん
わが家のご先祖様の本家が、策にひっかかり、滅亡してしまった話を思い出しました。
戦い、戦い続きで、お正月も迎えられない。生きているか、確認していたらしいです。 (2020.06.21 21:09:59)

Re[1]:ニャン騒シャーとミー八犬伝 ~ 霧晴るるときの巻き(06/21)   Master P さん
パパゴリラ!さんへ
実は私が最初にパパゴリラ!さんの所へお邪魔したのは、もう6年くらい前になすこの親分さんの所からでした。
その頃は山さんもクーさんもお元気だったのでしょうか?
その頃は小説を始める頃くらいだったと思うので、その頃出ていたら腕っぷしの強い山さんと、心優しいクーさんとで何かコンビが出来たかも知れませんね。
(2020.06.25 00:23:29)

Re[1]:ニャン騒シャーとミー八犬伝 ~ 霧晴るるときの巻き(06/21)   Master P さん
空夢zoneさんへ
わが家のご先祖様の本家さんも九州の方だとして、策にひっかかり滅亡と聞くと、私としては宇都宮鎮房親子を思います。
策を弄したのは秀吉の命を受けた黒田長政ですが。
実は私の母親の紋は黒田の藤の紋なのです。
(2020.06.25 00:29:55)

Re[1]:ニャン騒シャーとミー八犬伝 ~ 霧晴るるときの巻き(06/21)   Master P さん
ララキャットさんへ
みな命を懸けてやっていることで、政治家(政治屋)さんたちのように次の選挙で保身を図ることに躍起になっているのとはわけが違います。
(2020.06.25 00:33:15)


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