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2020.06.25
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氷垣残三は砦の中ほどにあるわずかな空き地にみなを集めて最後の言葉を振り絞ろうとしていた。

みなと言っても残る兵士は三百に満たない。

しかも、手負いで疲れ果てて、空腹に気力を失いかけた兵ばかりであった。

八犬士が霧の中に消えてはや五か月を迎えようとしていた。

約束の三か月に大きく後れ、未だ里見からの援軍は来ない。

丶大が結城家に働きかけて向かわせた二千の兵も、これを察知して急行した扇谷の軍に足止めをくらい、市川のはずれでにらみ合いを続けていた。

猫族の雷、千代、連が手分けをして伝令の役を買って出てくれたが、どの知らせも日を追うごとに心が曇るものばかりであった。

一番の誤算は怨霊の玉梓がのりうつる安房の国の富山の古狸妙椿の妖術で、里見勢が散々混乱に陥れられ行軍が停滞していることだろう。

 

残三は砦の屋根に上りみなを見回した。

彼の目の先、砦の外一里に満たないところに扇谷軍の旗がそびえるのが見えた。

刻一刻とこの砦に押し寄せているのだろう。

もはや後三日、いや明日にでも押し寄せるかも知れない。

残三は大きく息を吸い込み、腹の底に力を込めた。

「うっ。」

その時、彼自身受けた脇腹の矢傷が百足に噛まれたときの様に鋭い痛みを走らせた。

彼はそれでももう一度腹に力を込めて声を振り絞った。

「みな、ここまでよく耐えた。未だ里見の援軍は姿を現わさぬ。私がかつて仕えた結城からの援軍も千代の報告によれば市川の先に留まったまま動けぬ状態であり、里見に至っては更に遠く、四十里先に留まっていると聞く。私の視線の先には扇谷軍の無数の旗が見える。おそらくこの砦を攻め落とすために、刃を研いでいるのであろう。この砦は最後の砦であり守りも固い。だがしかし、この砦の後ろにはもはや逃げ道はない。もはやみなを救うという約束は果たせぬかも知れぬ。だが私はそのために腹を切るつもりはない。私自身が先頭に立ち、戦い、みなの盾となる。援軍が到着する一縷の望みにつなげるために。」

 

その時荷車が空き地へと入って来た。

犬族の徹、吾妻、比瑪が運んできた食糧だ。

彼らは砦から扇谷軍の目をかいくぐり、扇谷の目の届かない遠く離れた山里から食料をかき集め運んできたのだ。

荷車を運び込んだ途端、比瑪がばたりと倒れてしまった。

見ると左足に深い傷を負っていた。

途中扇谷の兵士に見つかり襲われたものの、どうにか逃げおおせたのだという。

すぐさま浜路が駆け寄り手当てを始めた。

「かたじけない犬族の方々。みな彼らが命がけで運んでくれた食糧だ。ありがたくいただくのだ。」

集まった者たちは手に手に食糧を受け取り、見張りの兵士たちにも配り始めた。

だが一刻の後、ときの声が砦の外から沸き上がった。

遂に最後の総攻撃を仕掛けて来たに違いない。

残三は先頭に立ち、櫓の上から矢を放ち、石を投げおろし、それも尽きると他の兵士とともに門の前へと最後の戦いに備えた。

残って戦える兵士は百ばかり。

中には自ら農具を武器に集まった農民もいた。

火の矢が撃ち込まれていたが、そちらは女、子供が必死に消し止めていた。

 

ドン、ドン、ドン

 

門を突き破る音が響き始めた。

そして、再びときの声が上がった。

いよいよ氷垣残三最後の戦いの時を迎えようとしていた。

仕える結城家が滅亡の淵に立たされ、里見は安房の国に落ち延びるきっかけとなった結城合戦からはや四十年余り、遂にこの地で果てるときが来たのだ。

 

ドン、ドン、ドン

 

遂に門は突き破られ、一気に門を通って扇谷の兵がなだれ込んで来た。

遂にこの砦に扇谷の旗が掲げられる日が来たのだ。

 

しかし、一部の兵は門の外に向き直り武器を構えた。

既にこちらの兵とつばぜり合いは始まっていたが何か様子がおかしい。

すると門の外から扇谷の兵士を蹴散らして見慣れた男たちが飛び込んで来た。

道節だ、小文吾もいる、現八も、大角も。

彼らは扇谷の兵士たちを倒し、振り向き走り出て行った。

残三たちが後を追うと、道節たちが率いてきたと思われる百ばかりの里見の旗を掲げる兵士と、遠く山の麓から駆け上がる里見の旗が細い山道で身動きの取れない扇谷の兵士たちを挟み撃ちに戦っているではないか?

 

半日後には勝敗は決していた。

扇谷軍は散り散りとなり陣へと引き返したが、そこへ里見の別の部隊が駆けつけ挟まれることを恐れ、撤退して行った。

 
里見の旗が砦に高くそびえた。







最終更新日  2020.06.25 00:37:06
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Re:ニャン騒シャーとミー八犬伝 ~ 砦に掲ぐる旗の巻き(06/25)   空夢zone さん
遠くにいた、里見の隊が今、やってきているとは、嬉しいものですね。
これで、滅亡する事もないね。
猫族、犬族の活躍もすごいね。 (2020.06.25 21:41:03)

Re:ニャン騒シャーとミー八犬伝 ~ 砦に掲ぐる旗の巻き(06/25)   ララキャット さん
おちおちと、寝てられないですね~( ´∀` ) (2020.06.26 21:26:43)

Re[1]:ニャン騒シャーとミー八犬伝 ~ 砦に掲ぐる旗の巻き(06/25)   Master P さん
空夢zoneさんへ
どこかで書きましたが、八犬士が霧の中に消えて穂北荘に戻って来るまでに10程度あります。
それを挿入したものはAmazonキンドル出版のダウンロード販売で200円で売っています。
価格も100円以上という条件で自分で決めるのですが、一度買ってみようと自分で200円で買ってみましたが、後から考えると価格を一旦最低の100円に下げてから買って、また200円に戻せばよかった気づきました。
間抜けだなあ!!
(2020.06.27 20:47:44)

Re[1]:ニャン騒シャーとミー八犬伝 ~ 砦に掲ぐる旗の巻き(06/25)   Master P さん
ララキャットさんへ
アマゾンのキンドル無料出版版では八犬士が穂北荘にたどり着くまで10話程度間に入れているのですが、穂北荘では扇谷定正の間者により飲み水に毒薬を入れられてたくさんの人々が亡くなる悲劇も起きているのです。
(2020.06.27 20:51:08)


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