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カテゴリ:ニャン騒シャーとミー八犬伝
「氷垣様、お初にお目にかかりまする。里見義成であります。氷垣様はわが父義実とともに結城合戦を戦われた盟友とお聞きしております。この度は到着が遅れ、多大な苦難を与えてしまったことを私自らお詫び申し上げます。」 そう言って、里見義成は両手をついて深々と頭を下げた。 「おお、里見様。おやめくだされ。」 残三は慌てて義成のもとに走り寄り義成の手を取った。 「ここ穂北荘と安房の国の間には上総千葉家がおり、さぞ難儀をされたこととご察しいたします。よくここまで援軍を差し向けていただいた。感謝申し上げます。」
「氷垣様。悪いのは私にございます。三か月もあれば容易に戻れると言いながらこの体たらく、お許しください。」 毛野が深々と頭を下げて、ブルブルと床に付いた両腕を震わせた。 「毛野様、あなたの責ではりませぬ。我らすべてあの化け狸、妙椿めにまんまとたぶらかされた故にござりまする。我らすべての責でござりまする。」 そう言って親兵衛は毛野の肩に手を掛けた。 「だがその化け狸も、己が見事に討ち取ったと言いたいのであろう?」 道節がそう言って親兵衛に見得(みえ)を切りながらおどけて言った。 「いや、その・・・・」 親兵衛は頭を掻いた。 「がしかし、親兵衛の働き誠に見事だった。まだ五歳にも拘わらず。」 「あっ、それは・・・」 現八の言葉に親兵衛は顔を赤らめた。 「そのおかげで妙椿から抜け出た玉梓の怨霊は、八つの珠の力で退治することが出来た。」 信乃が庇った。 「そっ、そうですとも。」 親兵衛は少し安堵の表情を浮かべた。 一同は笑った。 織、瓜太、風、瓜太、山、九一の伏姫に仕える猫族も 雷、千代、連の三猫組も 佐飛、茶阿の螺良猫団も 蘭、喜利の父五里姉妹も
その時、蘭の目の前が真っ暗になった。 蘭はきゃっと思わず叫んだ。 誰かが彼女の目を塞いだのだ。 「母さん!」 喜利が大きな声で叫んだ。 蘭も目を覆った手を払い振り向いて喜びの声を上げた。 「母さん!妃(ひめ)母さん!」 二人の姉妹はそう叫ぶなり、がばっと妃に抱き着いた。 その勢いで妃ともども猫の親子はひっくり返ってしまった。 「ああ蘭、喜利、会いたかったよ。大きくなったね。あ、あ、あ。本当に会いたかった。すまなかったね、急に別れも告げずに逝っちまって。」 そう言って妃母さんは二人の娘をしっかり抱いて大粒の涙を流した。 妃は二人の乳母であり、二人を慈しみ、愛情込めて育ててくれたのだが、従姉の百合の兄である徹が亡くなった夜、後を追うように逝ってしまったのだ。。 そして今、彼らはみな伏姫様の所に集まっていたのである。
「蘭さん、喜利さん。私からもお礼を申し上げます。」 二人は名を呼ばれ、顔を上げ辺りを見回した。 すると一同が集まる部屋の片隅がぼんやりと明るく光りだし、そこに伏姫が現れた。 「あなた達がお父上のために買い求めた大事な蝦蟇の油もすっかり使い果たし、そのお陰でたくさんの人々が救われたのです。でもその薬も今はない。」 そう言うと彼女は懐から小さな小瓶を取り出して、傍に控えていたキジトラの猫族の女性に手渡した。 その女性は小瓶を大事そうにしっかりと胸に抱えてやって来て、蘭に手渡した。 「初めまして、蘭さん。私の事わかりますか?喜利さんには一度会いましたよね?」 蘭と喜利は怪訝な顔をして女性の顔を見つめたが、皆目見当もつかなかった。 「分かるはずないよね。お父さんと一度うちに遊びに来てくれただけだものね?」 そう言われて燃えるのが喜利である。 女性の顔をじっと見つめて、見つめて、見つめて・・・・ 「あっ!もしかしてあなた、ま・め・っ・ち?えーっ?那須子親分さんちの?あなたもしかして・・・・」 まめっちは、ちょっと寂しそうな顔をして言った。 「そう、母とはお別れして伏姫様の所へ来たばかり。でも妃母さんや吾妻兄さんが優しくしてくださるわ。」 ここにもうれしい出会いがあった。 そんな彼女たちの様子を見ながら、伏姫は目を細めて言った。 「これは役行者様が二人のために薬草を煮出してくれた薬です。これをお父上に届けてあげなさい。効き目は・・・・・」 伏姫はそこで言葉を切り考えて、ちょっとおどけたように続けた。 「そう役行者様が八百歳を超える老人であることを見れば分かるでしょ?」
里見家を宿敵と狙う関東管領扇谷定正は一旦退いたが、滅んだわけではない。 いやこれからが関東大戦の本番である。 だが八犬士は里見義成の八人の姫とそれぞれ結ばれ、獅子奮迅の活躍でこれを退け安房の国に平和をもたらすこととなる。 その後、金碗の名を捨て僧となり八犬士探索の使命を果たした丶大は、伏姫受難の地、安房富山の洞穴の奥に姿を消した。
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