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カテゴリ:三猫珍道中
「千代坊、ちょっとここらで一休みしないか?」 雷は千代にそう話しかけた。 「そうだな、おいらもそろそろ休みたいと思っていたところだ。」 そう言って千代もうなずいた。 二人は今、道節と毛野を追って武蔵の国の鈴茂林に向かっていた。 小文吾と信乃が浜路と共に穂北荘へ向かったことを伝えるために。 鈴茂林には扇谷定正の家臣である竜山免太夫(たつやま めんだゆう)がおり、これは毛野が父の仇と狙う籠山逸東太(こみやま いっとうた)が名を騙っていたのだ。 雷と千代はさっそく火をおこし、川で獲った魚を焼いて食べ、少し横になることにした。 二人がうとうとし始めたとき、何かがさっと走り去るのに気付いた。 千代は自分たちが食べ残していた川魚が一匹なくなっているのに気付いた。 雷は数間先の藪が揺れて、何かがかき分けて行った後を見つけた。 二人がその藪の向こうを覗くと、一人の黒い猫の少年が魚をむさぼり食っていた。 「おいお前、おいらたちから魚を盗んだな?」 千代が言うと少年はハッと振り向き、両手に握った歯形の残る魚を背中の後ろに慌てて隠した。 「お、お、俺・・・」 少年は震えていた。 その時千代は、その少年の胸に白いハートの模様があるのに気付いた。
その少年の名は連といい、武蔵の国のある村の秋祭りの夜、姉とともに人さらいにさらわれて、売り飛ばされてひと月前まできつい、汚い、危険の悪徳代官の屋敷で働かされていたが、余りの酷使につい厠で居眠りをしてしまい、着る物と一日分の食料を与えられて追い出されてしまったまだ六歳と幼いともいえる猫族の黒猫の男の子だ。
雷と千代は信乃から犬坂毛野と犬山道節に伝言を頼まれて鈴茂林に行く途中で、犬坂毛野が仇とねらうのがその悪代官であったことから、屋敷まで道案内を頼むことにした。
こうして十日間の三猫珍道中が始まったのだ。
三人は鎌倉街道から東にそれて一路鈴茂林をめざすことになった。 しばらく歩くと前から妙ななりの男がよたよたと歩いて来た。 まだ老人とは言えないが若いとはとても言えない、ようするにおっさんだった。 男は三人に近づくと何かわけのわからないことを口走った。 「わしは仙人じゃが仲間を探しとる。お前ら知らんか?」 男はいきなりこんなことを言ったが、仲間と言って名前を言わなきゃ誰だか分かるはずもない。 そもそもこの男、自らを仙人と呼ぶとは余程ほら吹きか、身の程知らずか、ただの間抜けか? 「おじさん名前はなんていうんだ?」 一番年下のまだ物怖じを知らない連が男に聞いた。 「お前、わしを知らんのか?わしじゃよ。」 「おじさん、わしさんって言うの?」 連が更に聞くと男は今ごろ気づいたのか、ウォッホッホと笑いながらこう言った。 「おお、まだわしの名前を言っていなかったかの?わしの名前は益比(ますぴ)という者で仙人をしておる。」 仙人が職業か何かの様にこの男は言うが、果たして仙人とはどんな者のことをいうのかわかっているのだろうか? それはさておき、一番年長の雷が益比に尋ねた。 「おじさん、仲間を探しているって言ったけどどんな仲間なの。そもそもその仲間どこに住んでいるの?」 「こりゃ、わしは仙人だ!益比仙人と呼べ!」 いい加減業を煮やした千代が手っ取り早く尋ねた。 「はいはい、益比仙人様、あなたのお仲間は何というお名前でどこに住んでおられるのですか?」 「よしよし、それでよい。仲間?おおそうじゃった仲間じゃ仲間じゃ。わしの仲間は八人おる。一番近くに住んでいるのはええと、なんという名前じゃったかな?」 名前を忘れてしまうなど本当に仲間なのだろうか? 雷は思ったが口には出さなかった。 それにしても変なおっさんだ。 益比仙人はしばらく考えた挙句、ようやく名前を思い出し答えた。 「この先の鍋伏山に住んでおる土鍋焦玖斎(どなべこげくさい)という者じゃ。わしの方が良い男じゃがの。」 誰もそんなことは訊いていないと思いつつ、雷は言った。 「俺たちは鈴茂林に行く途中です。そこはその途中のようだからしばらくご一緒しましょうか?」 それはあまりにも申し訳ないから結構という言葉が返ってくることを、期待してのことだが益比仙人はあっさり言った。 「そじゃの、いっしょについて行ってやってもいいぞ。」お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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ふふ、千代坊が登場ですね
でも、千代坊はもう暫く顔を見てません~ (2020.07.02 01:36:12)
フフフ、益比さん登場ですか、楽しくなります。
(2020.07.02 08:26:33)
またまた3猫が出てきて、嬉しいです。
(2020.07.02 23:19:32)
himekyonさんへ
自分で書いていると、まえのヤングマイロンの様に好き勝手なことが出来るのが魅力です。 そのうち八丈島からキョンもやって来るかも? (2020.07.05 12:55:48)
空夢zoneさんへ
はい、自分で自分のスピンオフ書いています。 八犬伝から三猫珍道中をスピンオフさせました。 しばらくはこのネタで。 何せ、益比にも八人の仲間がいるようで・・・・ (2020.07.05 13:00:52) |