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カテゴリ:三猫珍道中
益比が見つけたきのこをワライダケとも分からず皆に食べさせてしまった土鍋焦玖斎も山に住んでいながらいったいどういう事だとは思うが、その焦玖斎も益比のいう四〇〇年前に八人の仲間で何かしようと話した内容は思い出せなく、三人目の仲間の所へ行って確かめることにした。 その名を平来栖(ひらくるす)という伝説の勇者と呼ばれた男だ。 その男は鍋伏山の二つ向こうの鬼首山に住んでいる。 焦玖斎とはちょくちょく会っているが、そのような話は今までしたことがなかった。 もしかすると四〇〇年ぶりの話しかもしれない。
鬼首山はかつてそこに一間二尺(2メートル40センチ)の巨大な鬼が住んでおり、来栖がその鬼の首を刎ねて退治したことから名づけられたものだ。
焦玖斎を加えた五人は来栖に会い、益比のいう四〇〇年前の八人で話した内容を確かめようとしたが、来栖も覚えがないという。 来栖もその鬼とまでは行かないが一間七寸(2メートル)の巨体で、肩の筋肉は盛り上がり。胸は鎧の上に皮をはったようであり、両足は巨木のような強靭な体つきだった。 来栖も覚えがないので、ここから二里ばかり行ったところに住む渡宵子(わたしよいこ)という女神と称えられる女性を訪ねることにした。 来栖を加えた六人が街道を進むと、遠くで何やら悲鳴を上げている女の声が聞こえてきた。 六人が駆けつけると、五人ばかり男たちが村の娘をさらおうとしていた。 来栖がいるので勇気百倍でそこへ駆けつけたが、どうしたわけか来栖は尻込みをしてしまった。 一間七寸の巨体ながら怖気づいている来栖を見て、男たちはひるむことなく三猫たちに襲いかかって来た。 なんと最初に逃げ出したのは、こともあろうに来栖本人だった。 六人が男たちに追われることになったおかげで、村の娘たちは救われたが。
ここは男たちの隠れ家。
太さ二寸(6センチ)の太い縄でぐるぐる巻きにされた三猫たちは無造作に床に転がされていた。 どうやら臆病だが怪力の来栖もさすがにこの縄は引きちぎることはできないようだ。 「来栖さん、あなた伝説の勇者でしょ。このくらいの縄、あなたの怪力で引きちぎること出来るんじゃないですか?」 雷が訊くと来栖は済まなさそうに答えた。 「申し訳ない。腕と胸を大きく膨らませて縄を引きちぎる時に、縄が肌に食い込むのが痛くてできないのでござる。」 「一間二尺の鬼の首を取ったくらいのおじさんなのに?」 連が言うと来栖は、 「あれはわしの体を見込んで帝が申しつけられたことなのじゃが、元来わしは臆病な性質でいやいやでござったのだ。いざ鬼を見ると案の定腰が抜け、それでもどうにか逃げ出そうとして立ち上がったのじゃが、石に躓いた拍子に手に持っていた太刀が手元から飛び出しなんと鬼の首を断ち切ってしまったのでござる。だがそれを知らぬ京の者はわしの手柄だと思い、わしを伝説の勇者と称えるようになり、恥ずかしくて鬼首山から降りられなくなって早五〇〇年。」 来栖の言葉に千代は舌打ちしながら言った。 「しょうがないなあ。じゃあ俺の特技を見せてやるよ。」 螺良猫団でも随一のわざ者である千代は体をもぞもぞと揺らし、彼の体は風船がしぼむようにひょひょろと細くなったかと思うと縄をするりと抜けてしまった。
こうして六人は人さらいたちの隠れ家からどうにか逃げ出すことが出来た。
どうも益比の仲間たちはろくでもない者たちばかりのような気がする。 次に訪ねる渡宵子なる女性がまともであることを願うばかりである。 三猫はろくでもない者たちばかりの中でも、実は益比が一番ろくでもない者のような気がして来た。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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千代の特技ですか
細い猫ちゃんならそんな技も出来るかも~( ´∀` ) (2020.07.09 04:11:44)
助さん、格さんの珍道中みたいですね。
3にゃんずたち、頑張って~ (2020.07.09 18:07:19)
益比仙人、活躍の場はないの?これから?
(2020.07.11 07:58:08)
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