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カテゴリ:三猫珍道中
人さらいの隠れ家を抜け出した六人は、益比の4人目の仲間である渡宵子(わたしよいこ)を訪ねることにした。 名前からして何やらとても良い人で、唯一まともな人のような気がする。 彼女は平来栖の住んでいる鬼首山から2里の所に住んでいた。
「あらーっ、益比仙人お久しぶり百年振りくらいかしらね?」 前からやって来た女性が若い女性が益比に声を掛けてきた。 百年振りとは、やはり彼女は益比の仙人仲間のだろう。
だがしかし若い。 若いっていうもんじゃない。 まだ十八くらいにしか見えない。 そんな彼女も百年以上を生きている仙人の一人としたら相当な年寄りということだ。 だからこそ仙人なのかもしれないが。
それになかなかの美人だ。
彼女は気さくな笑顔を浮かべながら六人に近づいてい来た。 「おお、宵子。わしじゃわしじゃ。」
またこのおっさんのわしじゃが始まった。
「お前さんどこに行きなさる?」 焦玖斎が尋ねると、彼女は味噌を買いに麓の町まで行く途中だという事だった。 仙人なら霞を食べて生きていそうなものだが、仙人仲間でもやはり霞は味気なくて不評なのだそうだ。 そもそも、がぶっという歯ごたえも、食感も何もない。
町までの道すがら、益比が四百年前に八人の仙人仲間と何かやろうと話したのは何だったか聞いてみたが、彼女も心当たりがないという。
やっぱり、益比がおかしいのだろう。
そうこうするうちに町に着いたが、高利貸しの店先の前を通ったとき雷がふと橋を止めた。
「どうしたんだ?雷。」 千代が訊くと雷は言った。 「高利貸し屋の前で荷下ろしをしている男の荷の中で何や光る物が見えた。あの荷馬車はどう見てもお百姓さんが炭を運ぶ荷車だけど。」 見るとその荷車の男は傍に立っていた花売り娘と目配せして、彼女にそっと荷の中から光る物を渡した。
短刀だ。
二人は横を通り過ぎる百姓姿の男が辺りをキョロキョロしながら通り過ぎるのを、じっと目で追った。 「どうしたの雷兄さん。」 連が訊くと雷は連に言った。 「連、お前番所へ行って高利貸し屋を襲おうとしている三人組の強盗がいると伝えてくれ。」 その言葉に来栖がすぐさま請け合った。 「おお、それなら足の速いわしが行こう。」 雲を突くような筋肉隆々の体のくせに、役立たずの臆病な来栖はすぐさま走り去って行った。
さすがに逃げ同様、足は速いようだ。
その時、宵子が花売り娘に近づいて花を買おうと言った。 「花売り娘さん。お花をいくつかくださいな?」 今から押し込み強盗をしようとしている娘は困った顔をして宵子を睨んだ。 「今お忙しいのかしら。だって今からこのお店に押し入るのでしょ?」 雷は思わず目に手の平を押し当ててうめいた。 「今ね、私のお友達が番所に届けに行っているところよ。もう少し待っててくださいな。」 「宵子さん。」 千代も目を皿のようにひん剥いた。
そんなことを言われてハイそうですかと、役人が押し寄せるのを待っている強盗などいるわけがない。 当然、三人の強盗は一目散に逃げ出した。 「ああ、ちょっとちょっと、強盗さ~ん。まだお役人さんいらしてないわよ~。」 強盗が逃げ去ったあとすぐ役人がやって来た。 「三人組はお前達だな。」 役人はそういうと三猫をひっ捕らえたが、さすがに騒ぎを聞きつけ面に出てきた高利貸し屋の主人がとりなしてくれたので、事なきを得た。 どうやら渡宵子さんは、何でも正直に言ってしまう、頭に馬と鹿が乗っている正直者のようだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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馬と鹿?
バカじゃないですか~( ´∀` ) (2020.07.12 00:37:13)
3にゃんず、お役人に捕まらなくて、良かったね。
(2020.07.12 20:25:04)
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