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カテゴリ:三猫珍道中
今や団体ご一行様となった三猫珍道中。 三猫に仙人の益比の仲間と称する全六人の仲間は七人目の仲間のもとに向かっていた。 目的は、四百年前に益比の仲間八人で何かをしようと約束したのが何だったのかを究明するためだ。 鎌倉街道沿いを歩いていると、先方の三猫と同じ猫族の女性二人がうずくまっているのに出くわした。 「どうされましたか?」 雷が振り向いた黒ぶちの白猫である猫族の女性の顔を覗き込んで驚いた。 「喜利姐さん!?」 そう、彼女はかつて山賊たちにさらわれてそのままそこに住み着き、山賊に捕らえられた人々をこっそり救い出す手伝いをしていたのが雷だったのだ。 犬塚信乃を案内して姉の蘭のもとに案内したのも雷だ。 「どうしてこんなところに二人そろって?」 雷が訊くと蘭が答えた。 「私たち、父の心の臓に効く蝦蟇の油を求めて筑波山に行く途中なの。」 「でどうしてここにうずくまっておられたのですか?」 まだ初対面の千代が尋ねると、 「さっき、途中の茶屋で食事をしたのだけれど、食あたりのようなの。」 腹痛に顔をしかめながら喜利が答えた。 「おおそれはいかんのお。ちょうどいい、これから行くわしらの仲間は柿野タネという婆さんで、魔法の薬を作らせたら天下一品。たちどころに治してくれるじゃろうて。」 そう言って、土鍋焦玖斎は鼻高々に言った。 一人にさせると道草ばかりする嵯菅野典斎を負ぶっている力持ちの大男平来栖が喜利も負ぶってくれた。 小柄な猫族のため何の苦もなかったが。 「おーい、柿野タネおるか~?」 すると粗末なあばら家から柿野タネなる女性が姿を現した。 「なんじゃい、誰じゃ、何の用じゃい。」 中から現れたのは少なくとも四百年は生きている、いかにも仙人と思えるよぼよぼの婆さんだった。 「おおタネ。お主すまんがこの女性が食あたりで苦しんでおる。薬を煎じてやってくれんか?」 益比が頼むとタネという老婆は顔をしかめて言った。 「なに?腰痛じゃと?」 「違う、違う、『しょ・く・あ・た・り』。」 益比はタネの耳元に口を近づけ大声で怒鳴った。 「ああ、食あたりか?それを早くいわんかい。」 「食あたりと腰痛じゃ全然違うじゃないか。」 連はつぶやいた。 魔法の薬を作れば天下一品なら、耳の聞こえるようになる薬を作ればいいのにとも思った。 「待っちょれ。」と言い残すと奥に引っ込んでやがて紫色の液体が入った器を持って戻って来た。 「ほれ、これを飲みなされ。」 彼女の勧めに応じて、喜利は度胸を決めて呑んでみた。 なんとも苦く、鼻を突くような匂いだったが、ようやくその不快さも薄れてきた。 が..... 一向に腹痛は治まらない。 「何?効かんとな?お前さん腰痛じゃろ?腰痛ならこの薬が一番じゃ。」 益比は目を白黒させてもう一度タネの耳元で怒鳴った。 「あのなあ、『しょ・く・あ・た・り』。」 「なんじゃ、食あたりか、なんでそれを先に言わん。」 彼女は澄ましてまた奥へと引っ込んだ。 そんなこんなで、食あたりによる喜利の腹痛は治まった。 あれほどキリキリと喜利を苦しめていた腹痛が、それっきりすっきりと治ったのだ。 キリっと微笑む喜利。 効き目だけはすごいとしか言いようがない。 こんなことがあり、さすがに父五里姉妹の父親の心の臓に効く薬は頼む気にもならず、彼女たちは筑波山へと向かって行った。
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ここで、蝦蟇の薬も頼めたら良かったのにね。これじゃ無理ですね。
(2020.07.23 20:47:43)
柿野タネ?
食べたくなるような名前ですね~(^_-)-☆ (2020.07.25 21:11:17)
カキノタネといったら、柿の種が柿野タネ、この発想力‼️
(2020.07.26 06:43:58)
パパゴリラ!さんへ
喜利姐さんのお腹が痛くなったのは、途中寄った茶屋の料理のせいです。 いやのさすがの喜利のお腹もこの料理には勝てなかったという事か? (2020.07.26 22:31:00)
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