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カテゴリ:三猫珍道中
三猫は七人までそろった益比の仙人仲間(馬ジーサンだけは怪しいが)ともに、最後の仲間の茂野覚江(ものおぼえ)というやり手の女性の所へ向かっていた。 この女性、一度覚えたことは二度と忘れないという人物らしく、遂にこの旅(三猫にとっては寄り道だが)の目的である四百年前の約束について、分かることになるだろう。 思えば最初にこの女性を訪ねればよかったのだ。 目元すっきり鼻筋も通り、引き締まった唇、少し出た額が知的な印象を与えるなかなかの美人だった。 これは益々期待できそうだ。 さっそく益比が本題に入ると、彼女はそれを制してこんなことを言い出した。 「四百年前に八人で会った?そうね正確に言えば四百十三年二か月と3日前のあの日ね?」 これは益々期待できそうだ。 「あの日ちょうど、平将門が関東に独立勢力を築き、自らを王と名乗ろうした承平天慶の乱、俗にいう平将門の乱が起きたの。私と役行者様は、その乱を収めよう東奔西走したものよ。」 そんなことまで知っているのか?これは絶対に覚えているに違いない。 雷も千代も連も大いに希望を持った。 「私たちはその頃、伊豆の旅籠屋湯園屋の二階に上がった三番目の間である踵腓の間で話していたの。食事をしながらね。献立は海老と鯛と鯖、蛸の刺身と、藻づくに鳥のから揚げ、芋の煮転がしが付いていた。噂にたがわぬ飛び切りのおいしさだったわ。」 そんなことまで覚えているのか?しかも四百十三年二か月と3日前の事なのに。 「土鍋焦玖斎さんはあの時の服と同じね?嵯菅野典斎さんは左目の横に皺が一本増えたわね。でもその時、馬さんいなかった。」 馬ジーサンは出自がばれるかと顔が青ざめた。 「そうじゃったかの?その時からいたような気がしていたが。」 呑気で寝ぼけた益比はそんなことも忘れていた。 「渡宵子ちゃんはその頃まだ若い娘で、仙人見習いをしていた。平来栖さんは、鬼が怖いからどうやって逃げ出そうかみんなに相談していた。」 「そんなあなたなら、仲間で約束したことを思い出すなど大したことはないですね?」 雷が訊くと、 「それが覚えていないのよ。」 「えつ、一度覚えたことは決して忘れないんでしょ?」 千代が訊くと、 「そう、一度覚えたらね。」 「じゃ、覚えていないの?」 連が訊くと、 「私、一度覚えるまでがものすごく時間がかかるの。でも何度も何度も繰り返して覚え直すと、それからは全体に忘れないの。」 「何じゃそりゃ?」 三猫いや全員の共通の思いだった。 こうして最後の頼みの綱の茂野覚江も単なるしょうもない奴だったのだった。
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(2020.07.27 00:34:48)
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