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カテゴリ:我が良き虫の世かな
「三猫珍道中」は第一話で10回の話であることを書いていましたが、唐突に終わってしまった感があるようなコメントが多かったです。 忘れてしまった四百年前の計画を、益比というとぼけた仙人のもとに八人の仙人が集まりこれから百年の歳月をかけて思い出そうという話になり、五百年の「壮大なる計画」になったという落ちでした。 これは「ニャン騒、シャーとミー八犬伝」で、道節と毛野に伝言しに行く途中の三猫の道中を描いたスピンオフで、さすがにこれを何か月も続けるわけにはいきません。 続編も構想はありますが、それまで旧作で特に私が好きなシリーズ「我が良き虫の世かな」を再掲載します。 実は8年前くらいに自費出版した時、出版するうえでブログにあるのはまずいので削除してくれと出版社から言われたものです。 今回の話は、このシリーズでも一番好きな話しで、この話だけは削除せずに残しておいたものです。 悲しい最後ですが、誰も悪くない。みんな自然に生きているだけなんだという事を伝えたい作品です。 2019.06.17 我が良き虫の世かな ~ お散歩ロード ケムシ君はいつもになく上機嫌で、いつも葉っぱをご馳走になっているくぬぎの木からとなりの木へと、小さな大移動をしていた。 道をはさんでほんの10メートル程なのだが、彼にとっては大移動なのだ。 「今度のくぬぎの木は葉っぱがいっぱいあって、柔らかく、とってもおいしそうだぞ。」 ここを散歩する人間が時々するように、口笛でも吹きたい気分だ。もちろん毛虫でなければ。 ・・・・・ 小学校2年生のユミちゃんは、大好きなお父さんと手をつなぎ、今日は100点だった算数のテストのご褒美に、近くのアイスクリーム屋さんで、やっぱり大好きなアイスクリームを買ってもらいに、いつもの公園のお散歩ロードを時々スキップしながら歩いていた。くぬぎや松が日陰をつくって、ひんやりとしてとってもいい気持ちだ。 「ユミ?どんなアイスクリームが食べたいんだい?」 「私ねえ、三段重ねの三色アイスクリーム。前から一度食べたかったの。」 「ああ、この間広告に出てたやつだな?」 お父さんもにこにこしながら言った。 ・・・・・ 『新しいくぬぎさんの所に行ったらちゃんとご挨拶して、いっぱい葉っぱをご馳走になろう。』 そう考えるとケムシ君はますますウキウキしながら、道の真ん中に差し掛かった。 ・・・・・ ユミちゃんは大きな三段の三色アイスクリームを食べている所を思い浮かべながら、 「ユミももう2年生だから一人で全部食べられるよ。ね、いいでしょ?」 ユミちゃんはお散歩ロードの真ん中でお父さんに振り向きながら、ぴょんと前に飛び出した。」 ブチッ 不気味な音が辺り一面に響き渡った。もちろん虫の世界だけの事だが。 ・・・・・ 「しようがないなあ。」 お父さんもユミちゃんもにこにこしながら、また手をつなぎお散歩ロードを歩き始めた。 ・・・・・ そこには新しい葉っぱへの思いが微かに漂い、それもやがて草木の息吹に吸い込まれ、さわやかなそよ風が渡っていった。
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