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カテゴリ:我が良き虫の世かな
働きアリのアントンはいつもこう思っていた。 ビ、ピ、ピ、ピ、ピーーーー! 監督官の兵隊アリの笛がけたたましくなった。 「おい!そこの働きアリ!そこで何をしている?どこの所属で名前は何だ?」 監督官は恐ろしい形相でアントンを睨むと、つかつかと彼の方へ近づいて来た。 アントンは押し黙ったまま、その場に立ち尽くしていた。 監督官は側まで来るとアントンを見下ろすと、 「お前なぜ働かない?働かない奴は首をちょん切って、その辺の草むらに捨ててしまうぞ。分かったか?」 アントンは黙ったまま立っていた。 監督官の顔は更に険しくなり、詰め寄って来た。 「お前何黙って睨み返してるんだ?何か言いたい事でもあるのか?」 アントンはゴクッと唾を飲み込み覚悟を決めると一気にこう言った。 「何故毎日毎日働かなくっちゃならないんだ。おんなじ事の繰り返し。夏も秋も楽しく歌って踊って、たらふく食べて、好きなだけ寝て、好きなだけ遊べたら、冬に凍え死んでしまっても構わないよ。」 これを聞いていた監督官の顔は見る見る青ざめ、ひきつった。 「しっ!声がでかい。ちょっとお前こっちに来い。」とアントンは兵隊アリの詰め所に連れて行かれ、報告を受けた女王アリの側近が直ぐさまやって来て尋問が始まった。 「このアリですか、問題の働きアリは?」側近は兵隊アリの隊長に尋ねた。隊長は困った様子で、「ええそうなんです。最近こういう考えを持った若者が増え、我々も取締に苦労しています。」隊長は汗を拭き拭き答えた。 「どこの所属の者です?」監督官は隊長に聞いた。 「第7食料調達部、第12搬送隊です。」隊長は報告した。 側近は、「やはりまたあのユニットですか?これで5匹目です。わかりました、あのユニットはまとめて廃棄なさい。」と命じた。 隊長は驚く風もなく踵を返して行きかけた。 「お待ちなさい。いえ、第7食料調達部全体を廃棄です。」 これには隊長も驚いた。側近は続けた。 「何千年もの永い間築き上げて来た私たちアリ社会を根底から覆す危険思想です。徹底的に根絶します。女王様には私から、新しい働きアリを増産していただくよう進言します。分かりましたね?」 隊長はさすがに少し動揺したが、直ぐに敬礼して立ち去った。 間もなく五千匹もの働きアリが、小さな箱に無理矢理押し込まれ、川に流された。ほとんどのアリは何の疑問も抱かず、命じられるままに箱に入り、いつか川底に沈むのを待った。 アントンと数匹のアリは必死に箱から抜け出し、そばを通った木切れに乗り移り、木切れが何処か岸に引っ掛かるのを祈った。 しかし木切れは川をどんどん下り、岸に乗り移る事も出来ないまま、海へと出てしまった。アントン達数匹は悲嘆にくれ、漂流を続け、その間ある者は飢え死に、ある者は波に飲まれ、ある者は自ら命を絶った。 3日後、アントンは揺さぶられ目覚めた。喉が焼ける様だ。それはアントンと共に最後に残った、イブリンというメスだった。 「アントン起きて。島よ、島に流れ着いたの。」 驚いて起き上がると、確かに小さいが島だった。二匹はその島に降り立つと、どうにか住めそうな事を確かめると見つめ合った。 「ここで二人で生きて行こう。」 アントンの言葉にイブリンは答えた、 「今はまだ二人だけどね?」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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これから、また、新しいアリの巣ができそうですね。
(2020.12.06 00:31:22)
アリってみんな働いているように見えますが、2割ほどはサボっているようですね。
人間社会の2・6・2の法則が当てはまるようです。 パパゴリラ!も終わりの2割派のようです。 出来ればキリギリスのように遊んで暮らしたいですね~! 流れ着いた島で、イブリンは女王アリになるのかな? (2020.12.06 08:46:37)
「アントンとイブリン」はアリ版のエデンの園ですが、楽園を作って行くことについては「アダムとイブ」とは真逆です。
それと本来働きアリはすべてメスなのですが物語上オスとメスの「アントンとイブリン」です。 (2020.12.09 16:01:09)
個々を部品としか見ないアリ社会を飛び出して理想の楽園を作って行きます。
(2020.12.09 16:02:46)
パパゴリラ!さんへ
遊んでいるように見えるアリも、実はいざというときのバックアップかもしれません。 それなりの意味があるように思えます。 例えまったくの怠け者だとしても反面教師的な意味合いはあるのかも? アリに聞かないとわかりませんが。 (2020.12.09 16:06:38)
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