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カテゴリ:我が良き虫の世かな
めっきり強くなった日差しの中で蝶のキタテハは舞う。 何十年、何百年と受け継いで来たし、これからも受け継いで行く春の風景。 花は香りに我が身を託し、目にもまばゆい極彩色で虫達を誘う。 これもまた、幾百年も繰り返して来た春の習わしである。 春は己を待ちわびる数多の命に優しく囁く、「冬は去った。代わりに温かな風を運んで来た。だからさあ出ておいで。」と。 躍動、飛翔、徘徊、 虫達はそれぞれの形でそれに応える。 春はたゆたう磯の波に似て、ある時は逆巻く波に洗われ、凍える風雨に阻まれながらも、今この場所に安住の場所を求めようとしている。
キタテハは目覚め、花の差し出す蜜の香りに誘われて、巻き取った舌をそこに伸ばす。
「うっ!冷たい!」
キタテハはあまりもの冷たさに今度は本当に目覚めた。
辺りは暗く、相変わらず凍り付くような寒さだ。どうやら寝惚けたらしい。 キタテハは落胆のため息を漏らしながら、再び忍耐の冬眠に戻った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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