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カテゴリ:その他
え~どこの世界にもなくてはならない存在というものがありましてな、我々落語界では八つぁん熊さんなんかはさしずめその代表と言っても良いんじゃないでしょうかな。八つぁんは本名八五郎、熊さんは本名熊五郎といいましてな、喧嘩早いがお人よしでおっちょこちょいで慌て者の江戸っ子で、人情溢れる下町の長屋の住人というのがお決まりでしてな。 所で八つぁん熊さんどっちが格上で人気者かってのは意見も色々、人それぞれ。本人達もかなり気にしておりましてな、今日もああだ、こうだと唾を飛ばしての大激論になっておる次第であります。ほら大家が呆れて待ち受けるのにも気づかず、二人して向こうからやって来ます。
八つぁん 「てやんでぇ~、俺の方が上に決まってんじゃねぇか。八つぁん熊さんだろ?いつも俺の名が最初だ。」
熊さん 「何を言いやがる。俺の方が上だぜ。二枚目ってぇのはなぁ、役者の名札が二枚目に出るから二枚目ってえんだ。うまい物も食べずに後に取っとくじゃねぇか。」
八つぁん 「まずい物は最後まで食わずに犬にでもくれちまうがな。」
熊さん 「何を~!」
大家 「八つぁん熊さん、朝っぱらから何揉めてんだい?」
八つぁん 「おお、おやおや大家。いつからそこに?」
大家 「何言ってんだい。あたしゃさっきからここにいてお前さん達が、何やら言い合いながらやって来るのをずっと見てたよ。」
熊さん 「そんな事より大家さんよ、今度から熊さん八つぁんって呼んでおくんな。」
大家 「なんだいそりゃ?」
熊さん 「いや何ねぇ、八の野郎の名が先に呼ばれるのは、てめえの方が偉いからなんぞとぬかしやがるんでね。」
大家 「そんだけの事かい?」
八つぁん 「そんだけの事って、そもそもこちとら、落語じゃ『だくだく』だろ、『たらちね』だろ、『野ざらし』だろ、『一目上がり』だろ、『天災』だろ、『道灌』だろ、『船徳』だろ、『浮世根問』だろ?みんな出たぜ。」
熊さん 「てやんで~!こちとらだって『崇徳院』だろ、『上方版らくだ』だろ、『薮入り』だろ、『まんじゅうこわい』だろ、『猫の災難』だろ、『大山詣り』だろ、『子別れ』だろ、『粗忽長屋』だろ・・・」
八つぁん 「待て待て待て。『粗忽長屋』にぁ俺だって出てるぜ。」
熊さん 「すっとこどっこい。オメェなんざ、俺の脇役。刺身で言やぁつまみてぇなもんだぜ。」
八つぁん 「なにを~」
熊さん 「そんじゃどっちが上かご隠居さんに決めてもらおうじゃねぇか?」
八つぁん 「上等じゃねぇか、後でほえづらかくな。」
隠居 「みんな聞いとったワイ。」
熊さん 「どうしてこんな所に?」
隠居 「たわけ。こんな路地でそんな大声で怒鳴り合やぁ、いくら耳の遠いワシでも聞こえるワイ。」
八つぁん 「それじゃ話は早い。どっちが上だい?俺だろ?」
隠居 「こらこら焦るでない。そもそも落語の主人公ってのはなぁ、おつむの足りねえ、何をやるにもドジばかり、失敗ばかりで、まわりにめぇわくばかりかける鼻つまみで、・・・・・」
ご隠居が長々と講釈を垂れるのを二人とも黙って聞いておりましたが、
八つぁん 「熊よ、オメェの方が少しばかり沢山出てるかもな?」
熊さん 「馬鹿言え!二人とも同じようなものだぜ」
八つぁんは考えていたが、ぱっと顔を輝かせ、
八つぁん 「『粗忽長屋』じゃ、おりゃぁ刺身のつまだ。」
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マスPさんは落語も得意なんですね。
(2021.05.02 21:28:05)
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