205583 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

マスP文庫

マスP文庫

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

プロフィール

Master P

Master P

お気に入りブログ

山の会 満開のヤマ… New! himekyonさん

うまくいかない布団… New! 空夢zoneさん

バビが 4月20日 New! ララキャットさん

伊豆の朝 New! パパゴリラ!さん

幸達爺のノホホン菜園 幸達爺さん
ほっぺちゃんの マ… ほっぺ001号さん
ソフト部あきちゃん… ソフト部あきちゃんさん
Musashino SnapShot gekokuroさん
スコシフシギな世界… まつもとネオさん
simo simo2007さん

カテゴリ

2021.08.29
XML
「町長さん、僕も一つ気になる事があるんですが質問してもいいですか?」
町長は少し眉を持ち上げるとジョンピーにうなずいた。
「最初僕たちが渓谷を抜けてカナイド町に来た時、外の世界じゃ見た事もない生き物ばかりで、トットさんみたいなデブリンバトさんまでいたんですが、ここは犬は犬、狸は狸で、蛇は蛇なんですか?」
「トットさんみたいは余計だ。俺はドバトのトットさんだ。」
トットさんはそう言ってむくれた。
町長は少し複雑な表情をして答えた。
「カナイドの住民は我々の祖先がここにやって来て大輪田町を作る前からいた者たちなんだ。多分彼らはブラックホールがここにやって来た時にそこにいて、急激な空間のねじれでほとんどの者は死に絶えたんだが、中にはいろいろな生物と混ざり合いながらも辛うじて生き残って今に至っているらしい。我々が彼らとは別の町を作ったのは君も言った様に、犬は犬、狸は狸で、蛇は蛇であるために自らの種族、文化を守るためなんだ。お互いに差別しているわけでも、敬遠している訳ではないけれど、この町からカナイドに移るのは構わないが、カナイドからこちらには移動できない事にしようと、この町ができた頃にカナイド町との話し合いで決まったとの事だ。」
「なるほど。それならここでは猫に角が生えたり、猪が卵を産んだり、蛇がさえずったりなんて事はないわけですね?」
ジョンピーは気になっていたことを口にした。マリリンさんたちに移住を勧めるにも、いつか子や孫におかしな生物が生まれてしまったら困った事になるからだ。
「それはここに来た先祖たちも心配したらしいが、君たちがここに来る洞穴で気づいたと思うが、道がらせん状になっている。つまりカナイドの裏側に逆さまにこの大輪田町がくっ付いた形になっており、どうやらこちら側の空間は安定しているらしく、この千年以上異常は発生していない。だが、これからもずっとそうかと聞かれれば私にもそれは分からない。カナイドでは空間のひずみの影響で時々想像もできない事が起こるらしいけど。」
ここで狸町長は言葉を切り二人に伝えた。
「君たちのお知り合いがここに引っ越して来られるのは我々も大歓迎だけど、次の二つは承知してもらいたい。」
一. 空間のねじれでいつ異常が起こるかは保証できない。ただ、町創設以来千年以上何も不都合は起きていない。
二. この町では互いに争う事無く仲良く暮らして、食物はみんなで作ってみんなで分け合う事。
「どうだろうマリリンさん?かなり訳ありな場所なんだけど、暮らして行くには申し分ないところだ。それにもともとマリリンさんは草食主義だから食料の事も問題ないと思う。」
工場の外れに放置された廃車のボンネット裏のマリリンさんの家に戻ったトットさんはそう言って彼女の眼を見つめた。
マリリンさんはじっと考えていたが、夫のジョニーさんと目を合わせるとうなずきあった。
「トットさん、ジョンピーさんありがとう。私たちのために危ない思いをしてそんなところまで行ってくれるなんて。でも私たちはここに残るわ。私たちだけがそこに移れても全国何万匹もの野良猫さんや野良犬さんたちがそこに行けるわけじゃないもの。そりゃここに残れば今までの菜食主義を捨てて生きなきゃならないけど、もともとはそれが正しい姿。本当に食料に困った時は獲物をとる事もあるだろうけど、それは最後のことでなるべく菜食主義をこれからも続け、他の生き物は殺さないように生きながら、親子六人でやって行くわ。」
トットさんも、ジョンピーもしばらく黙っていたが、やがてトットさんは言った。
「マリリンさんならそう言うと思ってたぜ。それも人生これ以上は何も言わねえよ。」
こうしてマリリン一家は現実を受け止め、強く生きる決心をしたのだ。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2021.08.29 00:00:19
コメント(8) | コメントを書く



© Rakuten Group, Inc.