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辺りは暗く時折通り過ぎるライトの光と足音以外は虫の声とそばを過ぎ去る車の音だけになった深夜の公園で何かが木のほこらで蠢いていた。 その何かはほこらに引っかかる体をむずむずと引き抜くように這い出すと根元にドスンと落ちた。 耳を澄ますと今は静かだった。 彼は巨体をゆすって生垣の隙間をすり抜け遊歩道を横切り、草むらに身を隠しながら超美人の妻と3人の息子とひとり娘が待つ我が家に足を急がせた。 しかし、その巨体はどうしようもなく走っているというより転がっていると言った方が良いくらいだった。 必死に走る彼は向こうに見え始めた我が家の明かりに希望が湧いてついつい我を忘れてしまった。 もうここまでくれば追手も来ないだろうと最後の原っぱを横切り始めた時、急に目の前が明るくなり、その明かりの中心に巨大な影が映っていた。 「おーい!いたぞ!未確認生物だ!」 後ろからけたたましい声が聞こえたくさんの足音が地響きを立てながら近づいてきた。 彼は彼の持てるだけの力を振り絞って家に向かって走り始めた。 ムギュムギュ、ボアボア 体の隅々の贅肉がこすれ合い、波打ちあって奇妙な音を立てた。 あともう少し、あと一歩・・・・ と思ったその時、急に顔に何かが覆いかぶさって来て前のめりになり、自ら捕獲網に絡め取られるように網の中に転がり込んでしまった。 足を蹴り、羽をばたつかせ、首をねじり、声を限りに叫んだがすべては無駄だった。 やがていくつもの手が彼を取り押さえ、もう目を剥いて自分を照らすライトに瞬きするくらいしかできなくなった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ NHK19時のニュース 「昨晩発見された未確認生物が今日16時から世界各国から集まった学者の立会いのもと解剖されました。ではこの生物の解剖を担当した東京大学の大場かな子教授の記者会見の模様です。」 ----- 会見の映像が流れ始め、進行役が彼女を紹介した。 「では東京大学農学部教授、オオバカナ、コさんより解剖の結果を発表していただきます。」 進行役は彼女の名前の『かな子』を『かな』と間違えて言ってしまい慌てて『子』をつけて呼んだのだ。しかし逆にこれが悪く、彼女の鋭い非難の視線に動揺してたじろいだ。 そしてようやく会見の映像は終わった。 ----- 「全世界を興奮と好奇心の渦に巻き込んだこの生物は、実は単なる太り過ぎのハトだと分かり担当者は一様に落胆の色を隠せない様子で、あっけない結果に終わり一時は大騒ぎしたメディアも一斉に撤収を開始しました。」 NHKのアナウンサーは淡々とニュース原稿を読み上げ、最後に言った。 「次は明日のお天気です。」
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