158824 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

マスP文庫

PR

X

全8件 (8件中 1-8件目)

1

ほのぼの日記

2019.05.18
XML
カテゴリ:ほのぼの日記

「健太泣くんじゃなかと。涙はいつかいっぱい泣く時のために取っとかんばいかん。」

友達にいじめられ縁側で泣いていた健太の側にどっかと座り、太い血管をいく筋も走らせた日焼けした腕を両膝にびんと張って、祖父はぎらつく太陽を見上げながら言った。

健太はなおもすすり上げながら祖父の横顔を見つめ、同じく太陽に目を移した。

「お日様は眩しかろう?ばってん目をそむけちゃならんばい。そむけずにしっかり見つめ続ければ、あのお日様だっていつかその手に掴める日が来るとばい。」

 

「間もなく着陸体勢に入ります。どなた様も座席にお付きになり、背もたれを起こしシートベルトの着用をお願い致します。」

健太はニューヨーク発成田着の飛行機から福岡空港行きに乗り継いで、更に飯塚へとタクシーを飛ばした。

 

祖父危篤の報が入ったのは、社運をかけた大商談に今、正に入ろうとする直前だった。

 

可愛がってくれた祖父。叱ってくれた祖父。守ってくれた祖父が。しかし、今はその事を心から締め出し商談に望んだ。商談は大成功を納め、東京本社の社長から感謝と祝福と共に、これから北米における責任者として力を十分発揮して欲しいとのメッセージが届いた。

その晩取引先の重役幹部が集まるパーティーがあり、それに出席して欲しいという要望があった。健太は動揺を抑えて招待を受けた。

しかし、パーティーでスピーチを求められた健太は、堪え切れず祖父の事を打ち明けた。すると取引先の社長が檀上に上がり、

「ケンタ、何をしている。早くお祖父さんのもとへ行ってあげなさい。」と言ってくれた。健太は励ましの拍手に見送られ会場を後にした。

成田に着いた時に訃報を聞いた。死に目には会えなかった。しかし、こうしてタクシーを飛ばさずにはいられない。はやる気持ちにつき動かされ、祖父の待つ居間に飛び込んだ。

覆いを取った祖父の顔は相変わらずかくしゃくとしており、柔和でもあった。

健太は誰はばかりなく泣いた。止めどももなく涙を流して。



勤め先の海老名で5月にも拘わらず、富士山がくっきり見えたので・・・







最終更新日  2019.05.18 02:20:08
コメント(4) | コメントを書く


2019.04.30
カテゴリ:ほのぼの日記

ゴールデンウィークを利用してパパのおばあちゃんちに行った小学校5年生のアツシ、みんなはアッちゃんと呼ぶからここでもアッちゃんと呼ぶことにするが、さっきから難しい顔をして古い作文を納屋で見つけて読んでいたのだ。



作文はパパの小学校6年生の時の卒業文集で決して難しい内容でもなく、字もパパがいつもアッちゃんに言う割には下手くそだけど読めなくはなかったのだが、この作文の最後にある、



「ボクは大きくなったら時代のせんぷうきと言われるような人になりたいです。」
の意味が分からないのであった。



「パパどうしてせんぷうきになりたかったんだろう?世界をあおいでさわやかにするのかなあ?グルグル回って注目されたかったのかなあ?」



アッちゃんは不思議で不思議でならなかった。



この作文を持ってママの所に行って聞いたけれど、「結婚する前で、しかも子供の頃の物だし、パパから聞いたこともないからおばあちゃんに聞いてみて。」ていうだけだった。



おばあちゃんの所に行って聞いてみたけれど、「さあねえ?何だかねえ?おばあちゃんもさっぱり分からないよ。アツユキは小さい頃から何を考えているんだかさっぱり分からない子だったからねえ。」とメガネの奥の目をへの字に細めて笑っているだけだった。



今度はパパのお兄さんのおじちゃんに聞いてみたけど、「アッちゃんのパパは国語が苦手だったからな。おじさんにも分からないよ、今パパはその頃からの友達と会っているから、夜帰って来たら聞いてみるといい。」と答えた。



パパが帰るまでに時間があるし、おじいちゃんに聞いてみたけど、「そんな作文があったのかい?」と全然お話にならなかった。



結局パパは夜遅く酔っばらって帰ってきたけど、アッちゃんは待ちわびてようやく聞いてみた。



パパはちょっと臭い息を吐き出しながらしばらく作文を読んでいたが、突然大笑いをして、そのまま寝てしまった。



翌朝パパが昼近くになって起きて来たので早速聞いてみたら、あの時『ふううんじ(風雲児)』と書かないといけないのを言葉が思い出せず間違えて『せんぷうき』と書いてしまったのだと分かった。



おばあちゃんは、「アツユキったらこんな大事なものを。」と怒っていたが、結局みんなで涙が出るほど大笑いした。



それからパパはアッちゃんの字の事をあまり言わなくなったので、アッちゃんはちょっぴりラッキーだと思った。







最終更新日  2019.05.01 15:35:54
コメント(2) | コメントを書く
2019.02.24
カテゴリ:ほのぼの日記

「もしもし ベンチで ささやく お二人さん 早くお帰り 日が暮れるー・・・」

彼もお巡りさんだがもう若いとは言えなかった。しかし、さすがにこの「若いお巡りさん」が流行った昭和31年を懐かしく思う程の歳ではなかった。第一その年はまだ生まれてもいなければ、両親でさえ結ばれてもいない時分だ。しかし、自転車に乗って巡回に出ると不思議にこの歌を口ずさんでしまうのだった。もちろん公務中であり、声に出して歌うわけではなく、心の中で口ずさんでしまうのだ。

彼はいつものルートを回り、そろそろ傾く夕日を背中から受け、自分の影を追うように公園に差し掛かった。公園ではまだ子供達の笑顔と歓声が満ち溢れ、買い物帰りの主婦達の長い立ち話に花が咲いていた。そんな様子を微笑えましく見やりながらベンチに差し掛かると、あの歌の様に若いお二人さんが座っていた。ただ違うのは何やら険悪な雰囲気で、お互いに口論していた。

「あんたが悪いんじゃん、遅れてくるから。あたし何分待ったって思ってんの?」

彼は自転車を止め、方足を地面に着けその二人を見つめた。男の方がそれに気がつき、更に険悪な眼差しで彼を睨み怒鳴った。

「何だよ、ポリ公には関係ねえよ。あっちに行けよ。」凄まじい剣幕でまくし立てた。彼は警官らしい落ち着いた態度で受け止め言った。

「どうかされたんですか?何か困り事でもあれば・・・」言いかけると若者は更に逆上と言ってもいい程の語気で、「関係ねえって言ってっだろう?てめえ!」と激昂した。

彼はしばらく置いて彼女の方にも声をかけた。「お嬢さんの方は?」

「関係ねえよ。」

彼女の方もまた負けない程の捨てぜりふを返した。

「何があったのかは個人的な事なので立ち入れないけど、まあ程ほどに。」と彼は言い残し、巡回を再開した。

彼は道すがら、50年代は「もしもしベンチでささやくお二人さん」、80年代は「邪魔をしないで、私達これからいい所」、2000年を過ぎると、「てめえ、関係ねえよ!」かと苦笑いをすると交番に戻って行った。

 

「あのー?すいませーん。」

彼が日誌に申し送り事項を書いていると、男の声がしたので顔を上げると、夕方の若者だった。若者の方も気が付き、一瞬まずいと顔をしかめたが、彼がにこやかに「どうかなさいましたか?」と尋ねたので気を取り直し、「俺、財布落としちゃって、届けなかったスカ?」とボソッと言った。

彼は落とし物の届けを調べたが、鞄の置き忘れ以外は何もなく若者に聞いてみる事にした。

「最後に持っていた所を覚えていますか?例えは買い物をしたとか。」

彼が尋ねると若者は、「こいつと会う前にコンビニで・・・・」と後ろでこれまたいやに神妙に控えていた彼女に振り向きながら言って口ごもった。

「コンビニって公園のそばの?」

彼が聞くと若者は黙ってうなずいた。

「ちょっと待って。」

彼は電話に手を伸ばすと、そのコンビニに電話をかけ始めた。

「ええ、ええ、ええ、ああそうですか?じゃそういう事で。」

彼は受話器を置くと、若者に名前といくら入っていたかを聞いた。若者はボソボソ答えた。

「財布はコンビニにありましたよ。カウンターの影に置き忘れていたそうです。中にあった免許証の名前で今本人確認が終わりましたから取りに行っていただけますか?」

彼がにっこりして言うと、若者の顔にも安堵の表情が浮かんだ。多分これからのデートを棒に振らずに済んだのだろう。

小さな声で「ありがとうございました。」とぺこりと頭を下げて行きかかったものの立ち止まり、「さっきはすいませんでした。俺いらいらしちゃって....」と若者は言い彼女の所に戻った。

彼は手を繋ぎ肘で脇腹を小突かれる若者を見送りながら、『いつの世の若者も、実はそんなに変わらないものなんじゃないだろうか?』と思うのだった。

 


 







最終更新日  2019.02.24 19:22:16
コメント(4) | コメントを書く
2019.01.25
カテゴリ:ほのぼの日記

娘はうなだれて母親の前に座り込んで、目の前に置かれた理科のテスト用紙に赤く大きく、72と書かれた数字を凝視していた。

母親はキッとした目付きで我が子を見下ろし、先程からずっと黙っていたが、明らかに非難する気持ちがピシピシと伝わって来た。

小さいときから学習教室に通わせ、小学校4年生からは有名私立中学校への高い合格率を誇る、スパルタで有名な学習塾に通わせ始めた。

そのお陰で娘は公立小学校ながら学年で常にトップクラスだった。「それなのになんなのこのこの点数は?」と彼女は先程から心の中で何度も繰り返していた。

「ユミ、今日から1週間ビアノは禁止、いいわね?」そう申し渡すと席を立って黙って家事を始めた。

ユミはまだテストをみつめうなだれている。

その時電話がなり母親はつかつかとやってくると電話を取った。おじいちゃんからの様だとユミが思ったその時、

「えっ!お母さんが?」

母親はうろたえたものの、直ぐに夫に今日は早く帰る様に頼み、手早く学校と塾にも連絡し宮崎の実家に飛ぶ準備を始めた。

「おはあちゃんが倒れたからママ行くから。」と言うと、「ユミも...」という娘の言葉を制して、「あなたはお勉強。いよいよの時は呼ぶからいいわね。」そう言い残すと出掛けて行った。

 

結局、夫も娘も息子も祖母の死に目には会えず、通夜の晩にようやく到着した。彼女は後に残る父親のために母の物を少しずつ整理していた。押し入れの奥には何やら段ボール箱があり開けてみると、あまりうまいとは言えない絵や、男の子の様な字の作文なんかが出て来た。彼女がユミくらいの頃の思い出を母はしまい込んでいたのだ。さらに中を覗いて見ると、テストなども出て来た。

100点、100点、93点、90点、88点、...

70点。彼女はそこで手を止めた。彼女も決して成績は悪くはなかったが、総合点ではユミに全然歯が立たないなと思い宙を見つめ、傍らの小さい時に自分が使った古いビアノに目が留まり、

「私はいつから怪物ママゴンになったのだろう?」と呟いた。

 

「ユミ!ユミちゃん!ちょっと.....、おばあちゃんにユミのビアノ聴いてもらいたいの。」

隣の部屋から来たユミは、「でも、ピアノ.....」と言い淀んだ。

「いいの、弾いて欲しいの。」

 

彼女はいつの間にか上達した娘の演奏を聴きながら、

「勿論ビアニストとは比べる事など出来ないけれど、これほど心に染み渡る演奏を聴いた事はない。」と思い、大粒の涙を拭おうともしなかった。






最終更新日  2019.01.25 14:24:47
コメント(4) | コメントを書く
2019.01.14
カテゴリ:ほのぼの日記

私は会社に出勤する前にコーヒーショップで一服して行くのが日課である。

その日も熱いコーヒーを啜りながら通りを行き交う人々を見るともなく見てはまた啜っていた。

外はまだ寒く風は冷たく、みんな歯を食いしばり、険しい顔で足早に通り過ぎて行った。

いつも見る風景ではあった。ショップの一枚ガラスの窓沿いに並ぶカウンター席から半ば放心したように外を眺めながら、昨日の出来事や今日の仕事や明日の計画に頭を巡らすのであった。

外から見える私の顔も負けず劣らずしかめっ面なのかも知れなかった。

そんな一時、ふと私は不思議な事に気付いた。

外の通りの中程に出て来る小さな路地があるのだが、そこから出てくる人は、サラリーマンもOLもお年寄りも小学生も高校生も主婦もみんな程度の差はあれ、陽気に笑ったり、微笑んだり、和やかな顔であったりで、少なくとも表通りの様なしかめっ面をした者は誰ひとりいなかった。

そう思って観察を続けたがやはり間違いなかった。そんなに楽しいものがあの路地にはあるのだろうか?私は不思議に思い、少し会社とは反対方向になるが、20年目にして始めてあの路地に足を踏み入れてみる事にした。

薄暗い路地は狭く、少しじとっとしていた。こんな路地のどこがそんなにいいのか?訝しがりながらも、その間にすれ違った人はみな笑顔だったので、ますます確信しながら歩を進め、とうとう路地を通り抜けてしまった。

期待外れの私は落胆しながら見回していると、朝であるにも拘わらず、「こんにちは!こんにちは!」と明るい声が聞こえた。
声の方向に行くと、角からけらけら笑いながら女子高生の一団が曲がり出て来た。

私はその角を曲がると、20メートル先に信号があり、その角の一つに30過ぎ位の若者が立っていた。私が近づくと、彼は少し焦点が合っていないが満面の笑みで、嬉しそうな身振りを添えて、

「こんにちは!」

と場違いなほど大きな声で挨拶して来た。しかもまだ朝というのに。私は訳がわからず、ぎこちなく会釈しながら通り過ぎた。少し行くと回れ右をしてそこにさしかかると、やはりその青年は変わらぬ笑顔で、

「こんにちは!」

と挨拶して来た。私は少し愛想笑いして、元の路地に戻ったが、知らぬ間に微笑んでいる自分に気付いた。

それが、いついかなる時もそこで、必ず明るく挨拶してくれる、路地裏の福の神にあった初めての日だった。







最終更新日  2019.01.19 00:23:58
コメント(4) | コメントを書く
2019.01.06
カテゴリ:ほのぼの日記

かん君は2歳。早生まれなので同学年となる他の3歳の子供たちとはまさに二学年は違いそうなくらい、体や体力はもちろん知力の発達も一年の差は大きかった。

さらにのんびりした性格で優しく、おっとりしているので、通っているロンパールームと呼ばれる幼稚園前の子が行く保育所でも弟扱いだった。

下の娘が生まれる頃で、育児と早生まれのギャップをなるべく埋めるために通い始めたのだったが、少し酷だったかも知れない。

お遊戯会も運動会もただぼーと立ち尽くしているだけで、いつも先生に手を引かれていた。

そんなかん君もロンパールームを卒園する頃のある出来事であった。

ちなみに卒園後の3月下旬に3歳の誕生日を迎えたのだが。

どうやら卒園に向けて何か先生から質問を受けるらしいと聞き、まだ言葉も遅れているので、答えられるように色々話してみる事にした。

「かん君、食べるものは何が好き?」

「ハンバーグ」

「じゃ、先生から食べるものは何が好きですか?って聞かれたらハンバーグって答えるんだよ。」

という具合にだ。

その後ロンパールームから帰ったかん君に、「ちゃんと答えられた?」と聞くと嬉しそうにうなずいていた。

やがて卒園の色紙が届き 、かん君の言葉もちゃんと載っていた。

『大きくなったら何になりたいですか?』

『ハンバーグ』

 







最終更新日  2019.01.06 19:19:43
コメント(4) | コメントを書く
2018.12.31
カテゴリ:ほのぼの日記

「オーイ!リョウくーん!がんばれー!」

仲良し三人組の二人の友達は滑り台の上からにこにこしながら手を振っている。二人とも滑り台反対上がりに成功して得意満面だった。三人は同じ幼稚園に通う年中さんだった。

この滑り台反対上がりは子供達が一つ上のお兄ちゃんとして認められる大事な儀式だったのだ。勿論幼稚園でやるとけい子先生に目玉が飛び出るほど叱られるから、こうして幼稚園から帰った後、近所の公園で挑戦となったのだ。

友達二人は難無く成功したが、ちょっと太ってて運動が苦手な良君は何度やっても半分くらいまでしか行けなかった。早い子では年小さんでも登れる子がいるというのに。

良君はたっぷり助走をすると勢いよく真ん中まで駆け上がるのだが、その後は焦る気持ちから足は空回り、そのままずりずり後退りしてしまう。友達は滑り台の上からやんやの大応援をしてくれるにも関わらず、何度やってもどんなにやっても途中でずるずる。

良君はちょっと涙を浮かべながらもう一度挑戦した。

「えええーい!」

どうだ後一歩まで来たぞ。良君は後一歩を踏み出せばどうにかてっぺんに届きそうだったので、踏ん張る足を思い切り前に降り出した途端、足を滑らせ万歳をした姿勢でまたもや滑り台の一番下までずるずるずる。

こけたときに顎をしこたま打ったのと悔しいのと悲しいのと惨めなせいで、とうとうその場で涙が溢れ出て来て、ひれ伏したまま泣き出してしまった。

「ケンちゃーんそろそろ帰る時間よー。リョウちゃんも、ヤッくんもそろそろ帰らなくっちゃ。」

ケンちゃんのママが呼んだので、二人に背中を摩られながら、良君もとぼとぼ公園の出口までやって来て、それぞれの家路へと分かれた。

良君は50メートルばかり行くと公園を振り返り、しばらく考えた後、公園に向かって走り出した。

もう一度、もう一度、もう一度。何度も何度も滑り台反対上がりに挑戦し始めた。両手と両足の指を足した位の数は既に挑戦して、また後一歩までやって来た。今度は慎重に、

「えい!」

辛うじて引っ掛かった右足に力を込めて・・・・・

 

良君は遂に滑り台のてっぺんに立った。てっぺんに立って沈みかけた真っ赤な夕日をじっと見つめた。口の中ではさっき顎を打ったせいで歯が一本ぐらぐらしていたけれど、舌先でもぞもぞ動かしながら彼は思った。

「この歯は大人になるときに生え変わる歯なんだ。」







最終更新日  2018.12.31 20:18:47
コメント(6) | コメントを書く
2018.12.26
カテゴリ:ほのぼの日記

「おじいちゃんじゃヤダ!」

母親がどうにかなだめようとすると、

「おじいちゃんじゃヤ~ダ!」

と孫は更に語気を強めて言い張った。

「でもねえケンちゃん、おばあちゃんは腰が痛くて今日のお遊戯会に行けないの。パパもママもお仕事だから、おじいちゃんに行ってもらうからいいでしょ?ケンちゃんおじいちゃん好きじゃない。」

「おじいちゃん、ぶつからヤダ。」

それは3日前、健二が偏食で食べ残しむずかった時、そんな孫を見兼ねて祖父のゲンコツが健二の頭を直撃してからであった。それまでは赤ん坊の頃からずっとそうであった様に祖父と過ごす事が多かったのだが。

「おじいちゃんすみません、お手数おかけしますがお願い出来ますか?」

母親は義父に済まなそうに頼んだ。

祖父はずっと可愛がって来た孫にこんな事を言われるのは堪えるが、苦笑いすると遠慮勝ちに孫に手を差し出した。

健二はためらい不承不承手を延ばすと祖父の指先をつまんだ。

こうしてお互い緊張した祖父と孫の二人連れは幼稚園へと出掛けたのだった。

祖父がどんなに語り掛けようが、孫の健二は口をへの字に今にも泣き出したい顔をしてトボトボ歩いて行くだけだった。

やがて冷たい祖父と孫のコンビが幼稚園に着こうとしたとき、健二はやおら祖父の手を振りほどき、幼稚園まで走ろうと車道に飛び出した。

キ、キ、キ、キー

ちょうど通り掛かった車のブレーキ音が、居合わせたみんなの心臓を鷲づかみにした。

祖父は慌てて孫を追い、すんでの所で襟首を引っつかみ自分に引き寄せたが、自分がボンネットで腰を打ち、反動で孫を抱き抱えながら路上に投げ出されてしまった。

みんなが慌てて駆け寄る。祖父も身を起こすと健二をさっと調べた。驚いて泣いてはいるが、ひどい怪我はないようだ。祖父は一安心すると思わず健二の頭をポカリとやると、「ダメじゃないか、急に飛び出しちゃ。」と叱った途端、またやってしまった事に気がついて、そのまま口ごもってしまったが、

「あ痛て、て、て。」

その時初めて自分の怪我に気付いた。

 

病院の一室。病室のドアが開き嫁の顔が覗いた。

「やっと健二がお見舞いに来ましたよ。なかなか行くって言わないもので....」

祖父は大袈裟に巻きすぎじゃないかと思える包帯の塊となった足の向こうに目を向けた。すると母親の影からまたもや泣きだしそうな健二の顔が恐る恐る覗いた。祖父はニッコリして、「ケン、見舞いに来てくれたのか?ありがとな。」と声を掛けた。健二はなおもおどおど近づいて来たが、突然祖父の首筋にしがみ付くと病院中に聞こえるのではと思う大きな声で、「ゴメンナサイ。」と言って泣き出した。

 

それからというもの、健二は幼稚園からの帰りに毎日祖父の病室にやって来た。そして今日もこれで同じ絵本を三度も読んでもらっていた。

それを見た母親が、「おじいちゃんはお疲れよ、今度はママが読んであげるわね?」と言うと、健二は叫んだ。

「おじいちゃんじゃなきゃヤダ!」

 







最終更新日  2018.12.26 00:02:01
コメント(6) | コメントを書く

全8件 (8件中 1-8件目)

1


© Rakuten Group, Inc.