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マスP文庫

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我が良き虫の世かな

2020.12.31
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ミヤマクワガタは温かい腐葉土に包まれて夢見がてら去年の夏の昆虫大相撲の事を考えていた。

西の正横綱でありながら東の正横綱カブトムシに297連勝を許し、連勝ストップは小兵のゲンゴロウに譲り、自分の横綱としての責任や価値について考えていた。

 

「悔しい。」

 

その一言だったが、結果は結果だ。受け入れるしかない。

 

ゲンゴロウごときに負けたショックで戦意を無くしたカブトムシに勝って、今年の夏場所は晴れて東の正横綱だが、今度は堂々とさすがと言われる様な、見事な勝ちっぷりで勝ちたいものだと思った。

こうして考えていると、自然と体が動き、気持ちは高ぶり、息遣いが荒くなる。今はまだ冬。こんな事をしていては冬眠には良くないのは分かっている。出来るだけ体力を温存しなければならないのだ。

しかし、20年余りカブトムシに独走を許したのは事実だ。

昆虫の場合短命なため、年ごとに種族別の代表を決めて戦うのだから、自分ひとりの責任ではないのだが。

ミヤマクワガタはいつしかカブトムシとの対決に備えてイメージトレーニングを始めた。

がっぷりよつに来たら、右に交わして得意のクワではさみ投げ。

突きで来たら下からクワをあてがい、下から差し込みクワすくい。

あの角でつりだしに来たら、4本の足を絡めてどうにかしのいで、頃合いを見計って逆に大技クワばさみだ。

足を狙って倒しに来たら、カブトムシより重心が低いのを活かして、胸に頭をつけて腰を寄せて一気の寄り倒し。

そんな事に構わず、ただやみくもに押し出しに来たら。

 

来たら・・・・・・・

 

その時は下に潜って後に出て、このまま反対に突き抜ければゲンゴロウだが、グッと堪えて背中に回り込み送り出しだ。

 

イメージの中ではいつも東の正横綱のクワガタの長い冬はまだまだ続く。

 

人間の世界では、もう直ぐ初場所の頃だろう。







最終更新日  2020.12.31 00:00:20
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2020.12.27

めっきり強くなった日差しの中で蝶のキタテハは舞う。

何十年、何百年と受け継いで来たし、これからも受け継いで行く春の風景。

花は香りに我が身を託し、目にもまばゆい極彩色で虫達を誘う。

これもまた、幾百年も繰り返して来た春の習わしである。

春は己を待ちわびる数多の命に優しく囁く、「冬は去った。代わりに温かな風を運んで来た。だからさあ出ておいで。」と。

躍動、飛翔、徘徊、

虫達はそれぞれの形でそれに応える。

春はたゆたう磯の波に似て、ある時は逆巻く波に洗われ、凍える風雨に阻まれながらも、今この場所に安住の場所を求めようとしている。

 

キタテハは目覚め、花の差し出す蜜の香りに誘われて、巻き取った舌をそこに伸ばす。

 

「うっ!冷たい!」

 

キタテハはあまりもの冷たさに今度は本当に目覚めた。

 

辺りは暗く、相変わらず凍り付くような寒さだ。どうやら寝惚けたらしい。

キタテハは落胆のため息を漏らしながら、再び忍耐の冬眠に戻った。







最終更新日  2020.12.27 00:00:18
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2020.12.24

街は華やかなクリスマスイルミネーションに満ち溢れていた。

ショーウィンドウも橋の欄干もタワーもホテルの屋上も光、光、光。

赤、青、黄色、様々なランプが自分こそが一番美しく輝いているのだと競い合っていた。

 

街は賑やかなジングルベルの曲が溢れ返り、デパートもおもちゃ屋もレストランも行き交う宣伝カーさえも、音、音、音。

ショーウィンドウは手を引かれた子供達に、「ここにこそ、君達の欲しい物がいっぱいあるんだよ。」と、呼びかけていた。

 

人はこの日をクリスマスイブと呼ぶ。

 

そして商店街に沿って並んだ街路樹は、それこそ光と音の一大ページェントだった。

 

木を二重三重、いや五重六重に、枝は一本一本に巻かれているのではないかと思われるほどのイルミネーションが、煌々と目まぐるしく点滅し、幹に縛り付けられた大音響のスピーカーが、声を限りにクリスマスソング・メドレーをがなり立てる。

 

街は待ちに待った楽しいクリスマスイブに酔いしれていた。

 

戯れ行く家族連れも、何やら冗談を言い合いながら黄色い歓声を振り撒く女子高生達も、腕を組み、肩を抱いて今夜のお楽しみをヒソヒソ話し合うカップル達も、それを呼び込む売り子達も、みんな笑顔、笑顔、笑顔。笑顔の洪水である。

 

しかし、人間達の自分勝手なお祭り騒ぎを、まさに地で行く苦虫をかみつぶしたような表情で、蔑む存在があった。

 

蛾である。彼の名はスズメガという。

 

「え?どこにって?そこ、そこの木の幹にしがみついて、完全な木肌模様にカモフラージュして、羽を広げてじっとしている.....彼が何かブツブツ言っています、耳をそば立ててちょっと聴いてみましょう。」

 

『ちぇっ、何だいこの騒々しさは?来年春まで温かくなるのをひたすら待ち侘び、空腹に堪え、寒さに堪えているこっちの身にもなれって言うんだ。ギラギラ眩しいは、ガチャガチャうるさいのは、堪んねぇぜ。さむいよ~、腹減ったよ~、春はまだか~~~?』

 

もし彼に歯があるなら、奥歯がガチガチいいそうな寒さの中で、春の香りをその敏感な触覚が捉らえるのをひたすら待ち続けるのであった。







最終更新日  2020.12.24 02:11:12
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2020.12.20

人々は俺をダニと呼んで、毛嫌いし、軽蔑し、排斥しようとする。

俺に言わせれば、俺はただ生きたい様に生き、やりたい事をやり、食いたい物を食ってるだけだ。

別によその国に爆弾を落とし、自分たちは奴等に正義を行ったぞと堂々と胸を張ったりはしない。

別によその国でまだ可愛い盛りの子供を親の目を盗んでさらい、戦争の道具にさせる事もない。

別に善人面をして自分の権限にものを言わせ、談合、癒着、収賄、天下りをしている訳でもない。

別に地球にガスを振りまき、1万年の温度変化をほんの100年でやり遂げる様な事も決してしない。

別に他の者を気に入らないだけで殺したり、誰でもいいから殺したりする様な事もしてはいない。


俺に言わせれば、奴等こそ俺以下だ。


そんな俺がいつもの様にいつもの道を歩いていると、奴等は急にやって来て、俺をしょっ引き、

この暗く、汚い場所に押し込めやがった。


俺はただ生きたい様に生き、やりたい事をやり、食いたい物を食ってるだけだったのに。


おれは今ゴミの中で息も絶え絶え、必死に生き延びようともがき苦しんでいる。

早く俺をここから出してくれ。この、この、この、この掃除機という地獄から。


だから最初に言ったろう。


俺はダニだって。







最終更新日  2020.12.20 03:39:07
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2020.12.17
アリの国の五代目王ギド・アントンは今、目をクリスマスのローソクの様にキラキラ輝かせる子供たちの視線を浴びながら、この国の建国者アントンとイブリンの冒険を話し終えようとしていた。
「アントンは来る日も来る日も国のために働き、働き疲れた者は首をちょん切られて草むらにゴミくずの様に捨てられてしまうアリ社会に疑問を持っていた。
そこで危険な疑問を持つ者が増えてきたと危機感を募らせた女王アリの側近は、そんな不穏分子をまとめて箱に詰め川に流してしまった。
アントンたちは詰め込まれた箱から抜け出し川を流れる木切れに乗り移ったものの、その木切れは海へと流れ、今度はつらく長い航海となった。
そのうちに仲間も一人、二人と命を落とし、諦めかけたとき、この島にたどり着いたのだ。
そのとき生き残っていたのが、初代王のアントンとその妃イブリンだった。
二人はつらい日々を乗り越え、少しずつ畑を耕し、子孫を残し、やがてそれは増え広がり、今こうしてこの国へと栄えているのだ。
だから・・・・」
彼が最後の言葉を継ごうとしたしたとき、部屋の隅で子どもが言い争う声がした。
「返せよ。それ僕んだ。」
「うるさい、僕が先に見つけたんだ。」
「でも僕が先に手に取ったんだから僕んだ。」
ギド・アントンがそちらを見ると、二人の男の子が小さな飴玉を巡って言い争っていた。
親が持たせた飴玉を誰かが一つ落としていたのだろう。
「君たち、つまらない争いはやめなさい。私は今、この国の成り立ちについて話しているところなのだよ。」
ギド・アントンはここで大きく息をつくと言った。
「アントンとイブリンは皆が平等に暮らす幸せな国をめざして二人、二十人、百人、千人と子供を増やして行ってこの国を作り上げたんだ。
さっき言いかけた最後の言葉をここで私に言わせてくれるかい?」
そこで彼は子どもたちを見回した。
彼はニコリと微笑むと最後の言葉を言った。
「だから、私たちは皆家族なのだ。」
子どもたちの真剣なまなざしが一心に彼に向けられた。
その時、一人の子どもが飴玉を取られた男の子に自分の飴玉をひとつ渡した。
受け取った子どもは驚いてくれた子どもを見つめた。
すると、次から次へと子どもたちはその言い争っていた二人の男の子に、自分の飴玉をひとつずつ交互に渡して行った。
やがて二人の男の子は胸に抱えきれないほどの飴玉をもらっていた。
二人の男の子は目に涙をいっぱいためてその場にうずくまり、胸いっぱいの飴玉は床にこぼれ落ちた。
他の子どもたちも自分たちの飴玉を床の上に落とし、子どもたちの真ん中に大きな飴玉の山が出来た。
子どもたちはそこで屈託ない笑い声を上げなら、楽しいひと時を送った。
そんな様子をギド・アントンは目を細めて見つめ天に向かってつぶやいた。
「アントン、イブリン、わが父母よ。ご覧ください。お二人の子たちはあなた方の心を受け継いで立派に育っています。」






最終更新日  2020.12.17 01:26:38
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2020.12.13

何の疑問も持たず、ただアリ社会の中で働き詰めに働き、働き通して死ぬと無造作に捨てられる働きアリの一生に疑問を持ったアントンは捕らえられ、危険思想の持ち主として、他のたくさんのアリ達とともに箱に詰められ川に流される。箱を脱出して木切れに乗り移ったアントン達だったが、木切れは川岸にたどり着く事もなく海へと流され、ほとんどのアリは流されたり飢え死にしたりしながら、ようやくたどり着いた無人島ではイブリンというメスのアリとふたりだけになっていた。

そしてふたりの新しい生活、新しいアリ社会が始まったのだ。

 

5代目アントンのギド・アントンが困り果てた顔でアントンの所へやって来た。代々この国の王は元々の名前にアントンを付けて名乗り、女王はイブリンを付けて名乗ったが、彼と2ヶ月前に亡くなった妃は単にアントンとイブリンと呼ばれていた。

 

「アントンちょっとお話があります。実は山の畑で採れた野菜を隣通しのふたりがそれは自分の畑で採れたのだと言い張り埒があかないのです、聞いてやってくれませんか?」とギド・アントンは言った。

アントンはいつもの様ににこにこ微笑みながら、「連れておいで、聞こうじゃないか。」と答えた。

ふたりのアリはアントンの前に来るとそれぞれ自分の主張をがなり立て相手の言葉など聞こうともせず、いつまでも平行線で延々と口論が続いた。アントンは相変わらずにこにこしながら聞いていたが、アリのひとりが、「こんな世の中など消えて無くなればいいのだ。」と言った途端アントンの表情がガラッと変わり激しい口調で怒鳴った。

「今何と言ったお前?消えて無くなれだと?さっきから聞いていればふたりとも自分の事ばかり言いおって、ああ目障りだ気に食わないからふたりとも海に流してしまえ。」

ふたりのアリは青ざめ、ギド・アントンもこの言葉に驚いたが気を取り直すと逆にアントンに食ってかかった。

「これはアントンとも思えぬお言葉。気に食わないから海に流してしまえですと?見損ないましたぞ。」

ギド・アントンと初代アントンはしばらく険悪な表情で睨み合い、言い争っていたふたりは口論を忘れ、固唾を飲み仲良く並んで成り行きを見守った。

するとアントンは突然大笑いを始め、「よいよい、これでよいのだ。みんなが自分の言いたい事を言い、王たる者は相手が誰であろうと言うべき事は敢然と言う。それでよいのだ。これでこそこの国の5代目の王だ。」

この言葉に今度は3人とも仲良く唖然とアントンを見つめるのだった。

追放されたアリ社会の様にだけはしてはいけないと、この島に着いたときにアントンとイブリンが誓った、「みんなが自由に言い合える世界を作ろう。」という思いはちゃんと守られ、その意思は今の王にもちゃんと受け継がれていた。アントンは満足の眼差しを3人に向けていた。

それから1ヶ月後にアントンもイブリンのあとを追うように息を引き取った。

アントンの葬式には、最近発明された火を起こす方法で灯された松明に照らされ、長い行列が続いた。

社会の一部として何も言えない世界がどれほど不幸な事か、しっかりと伝えられたとしたら、アントンの一生はそれだけでもう何も思い残す事はなかった。







最終更新日  2020.12.13 00:00:19
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2020.12.10

アントンはしばらくうだるような暑さの中じっと荒れた地面を見つめていた。

目の先にあるのは固い土。

奴隷のようなアリ社会に疑問を持ち、同じような危険思想の持ち主と見なされた他のアリ達と共に追放され箱に詰められ川に流された。

箱は川を下り海へ出て苦難の末に小さな小島にたどり着いた。沢山いたアリ達は次々に命を落し、その時残っていたのはイブリンというメスと彼だけになっていた。

二人は島に上がりそこで自分達の家族を作り、家族は一族となり、一族は民族、民族は国となりアントンとイブリンはその国の王と王女となっていた。しかし島の環境は厳しく、土地は痩せていた。遠く離れた無人島に生き物も植物も極端に少なく、それぞれが細々と争いながら僅かな食べ物を奪い合っていた。

幸いアントンの王国はアリらしい秩序と統率で繁栄してはいたが苦しい国民の生活は相変わらずだった。だがアントンもイブリンも働きアリを単なる道具として個々の考え生き方を認めようとしない旧態依然としたアリ社会に反発して追放された経験から、そんな社会だけにはしたくないと思っていた。

アントンは足元に広がる荒涼とした大地に目を落しあることを考えていた。

あのくぼみに雨水をため、溝を掘り、水を導きここに植物を植え、その実りで民の飢えを癒す。

耕作という知識のないアリ達にとってこれは革新的な考えであった。

こうしてアントンとイブリンのもと、アリ達の壮大な挑戦が始まった。

倒れるものがあれば代わりに誰かがクワを持つ、飢えるものがあれば自分のわずかな食料を分け与える。しかし夜ともなれば、へとへとに疲れた体ながら星空の下いつか来る理想の生活を熱く語り、楽しく笑う。こうして彼の理想に導かれ遂に農場は完成した。

そして初の収穫はまだ十分とは言えないものの確実にアリ達の社会を豊かに変えて行った。

大事業を成し終えたアントンは王の地位を後進に譲り、新しい王は代々自分の名前の下にアントンを付けて名乗る様になり、しっかり彼の意志を引き継いで行った。アントンとイブリンは今ではすっかり豊かな農場となった大地を今日も見下ろしながら、手を取り合い微笑みをたたえて余生を送っている。

あの下には幾千、幾万のアリそれぞれの生活が営まれているのだ。







最終更新日  2020.12.10 00:00:21
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2020.12.06

働きアリのアントンはいつもこう思っていた。
「何で僕たちは毎日毎日朝から晩まで働き通しに働かなくっちゃならないんだ。夏の間、カンカン照りのお日様の下、同じ道を行ったり来たリ。前を行くアリの匂いをひたすら追って。重たい荷物を口にくわえて、巣穴まで運ぶ。夏が過ぎ、秋は更に忙しくなる。僕の人生って何なんだ?」

ビ、ピ、ピ、ピ、ピーーーー!

監督官の兵隊アリの笛がけたたましくなった。

「おい!そこの働きアリ!そこで何をしている?どこの所属で名前は何だ?」

監督官は恐ろしい形相でアントンを睨むと、つかつかと彼の方へ近づいて来た。

アントンは押し黙ったまま、その場に立ち尽くしていた。

監督官は側まで来るとアントンを見下ろすと、

「お前なぜ働かない?働かない奴は首をちょん切って、その辺の草むらに捨ててしまうぞ。分かったか?」

アントンは黙ったまま立っていた。

監督官の顔は更に険しくなり、詰め寄って来た。

「お前何黙って睨み返してるんだ?何か言いたい事でもあるのか?」

アントンはゴクッと唾を飲み込み覚悟を決めると一気にこう言った。

「何故毎日毎日働かなくっちゃならないんだ。おんなじ事の繰り返し。夏も秋も楽しく歌って踊って、たらふく食べて、好きなだけ寝て、好きなだけ遊べたら、冬に凍え死んでしまっても構わないよ。」

これを聞いていた監督官の顔は見る見る青ざめ、ひきつった。

「しっ!声がでかい。ちょっとお前こっちに来い。」とアントンは兵隊アリの詰め所に連れて行かれ、報告を受けた女王アリの側近が直ぐさまやって来て尋問が始まった。

「このアリですか、問題の働きアリは?」側近は兵隊アリの隊長に尋ねた。隊長は困った様子で、「ええそうなんです。最近こういう考えを持った若者が増え、我々も取締に苦労しています。」隊長は汗を拭き拭き答えた。

「どこの所属の者です?」監督官は隊長に聞いた。

「第7食料調達部、第12搬送隊です。」隊長は報告した。

側近は、「やはりまたあのユニットですか?これで5匹目です。わかりました、あのユニットはまとめて廃棄なさい。」と命じた。

隊長は驚く風もなく踵を返して行きかけた。

「お待ちなさい。いえ、第7食料調達部全体を廃棄です。」

これには隊長も驚いた。側近は続けた。

「何千年もの永い間築き上げて来た私たちアリ社会を根底から覆す危険思想です。徹底的に根絶します。女王様には私から、新しい働きアリを増産していただくよう進言します。分かりましたね?」

隊長はさすがに少し動揺したが、直ぐに敬礼して立ち去った。

間もなく五千匹もの働きアリが、小さな箱に無理矢理押し込まれ、川に流された。ほとんどのアリは何の疑問も抱かず、命じられるままに箱に入り、いつか川底に沈むのを待った。

アントンと数匹のアリは必死に箱から抜け出し、そばを通った木切れに乗り移り、木切れが何処か岸に引っ掛かるのを祈った。

しかし木切れは川をどんどん下り、岸に乗り移る事も出来ないまま、海へと出てしまった。アントン達数匹は悲嘆にくれ、漂流を続け、その間ある者は飢え死に、ある者は波に飲まれ、ある者は自ら命を絶った。

3日後、アントンは揺さぶられ目覚めた。喉が焼ける様だ。それはアントンと共に最後に残った、イブリンというメスだった。

「アントン起きて。島よ、島に流れ着いたの。」

驚いて起き上がると、確かに小さいが島だった。二匹はその島に降り立つと、どうにか住めそうな事を確かめると見つめ合った。

「ここで二人で生きて行こう。」

アントンの言葉にイブリンは答えた、

「今はまだ二人だけどね?」







最終更新日  2020.12.06 00:00:21
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2020.12.03

寿限無と言って思い出すのは、落語でよく知られている小噺の「寿限無」だろう。

「寿限無、寿限無、五劫の擦り切きれ、海砂利水魚の、水行末・雲来末・風来末・・・長久命の長助」

元気で長生きするように縁起の良い名前を紹介されて、どれがいいか迷った挙句、結局全部繋いでしまったこの長~い名前をすべて書くとそれだけでこの記事が終わってしまうので途中を端折るが、なんとひらがなにして136文字と、とにかく長~いのである。

落語では元々、彼(長いので彼とする)が川に落ちて、それを親に知らせに来た子供たちが名前を言っているうちに溺れ死ぬという内容だったが、子供が死ぬのは残酷だと彼に殴られてこぶが出来た子が親に言いつけに来て名前を言っているうちにこぶが引っ込んでしまったなどという話に替えられたバージョンもある。

そこで虫さんの長~い名前を調べたらあるブログにこんなのが出ていた。

ちなみこのブログで紹介されていた、世界一長~い名前の野球選手は、
「ダルビッシュ・セファット・ファリード・有」さん
とのこと。
イラン系の父親の名前を取ってつけた名前だという。
彼(この場合の彼はダルビッシュ有)にはMLBで世界一の投手になってもらいたいと願っている。

ハリーポッターの通ったホグワーツ魔法学校のダンブルドア校長の名前も長~い。
「アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア」
という。
ピッポグリフのバックビークが死刑になる前に、書類にこの名前を署名してポッターたちがバックビークを助け出すまでの時間稼ぎをしたほどだ。

さて本題の世界一長~い虫の名前は、「カノウモビックリミトキハニドビックリササキリモドキ」という虫で、標準和名は「スオウササキリモドキ」という。

冗談半分に付けたのがきっかけで呼ばれるようになったらしいのだが漢字で書いてみると、「加納もびっくり、元木は二度びっくりササキリモドキ」となるのだが、写真で実物を見てみると合わせてで三度もびっくりするような特異な風貌でもない気がする。

「カノウモビックリミトキハニドビックリササキリモドキ」



他に長~い虫の名前で、
「トゲアリトゲナシトゲトゲ」
というのがいる。

最初は「トゲトゲ」という虫がいて、

「トゲトゲ」

棘のない「トゲナシトゲトゲ」が見つかり、

「トゲナシトゲトゲ」


更に棘のある「トゲアリトゲナシトゲトゲ」
が見つかったというのだ。

「トゲアリトゲナシトゲトゲ」


他にもいる。
クロホシテントウゴミムシダマシに似ているが少し違うぞということで、
「ニセクロホシテントウゴミムシダマシ」
こうなると「お前はテントウムシなのかゴミムシなのかはっきりしろ!」と膝と膝を突き合わせて問いただしたくなる。

「ニセクロホシテントウゴミムシダマシ」


まあ虫さん本虫は、人間から勝手に名前を付けられているなんてこれっぽっちも自覚はしていないだろうが。
まずはこんな長~い名前の虫界の寿限無(幸福が限り無いの意味)たちにびっくり。
感想文みたいに長久命(長く久しい命(名))な名前を付けてしまうことに二度びっくり。
そんな名前を付けてしまう昆虫学者の水行末・雲来末・風来末(水、雲、風のように果てがない)なセンスに三度びっくりである。






最終更新日  2021.02.18 11:01:33
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2020.11.29

「皆様いかがお過しでしょうか?いくら冬とは言え毎日凍える様な寒さですが、お風邪などひかれてはおられませんでしょうか?さて今日のMHK(虫放送協会)、『元気な夫婦』のお時間は、その寒い冬に活動される蛾の仲間フユシャクご夫婦にお越しいただき、並の虫なら凍え死んでいるこの時期になぜこんなにお元気なのか、その秘密をたっぷりとお聞きしたいと思います。」

MHKのアナウンサーらしい杓子定規な前口上を並べ立てたテントウムシは、早速夫婦へのインタビューを始めた。

「先ずはご主人にずばりお聞きしたいと思います。どうしてこんなに寒い時期を選んで活動されるのでしょうか?」

「・・・・・・・」

「ざっくばらんで結構です。何かその訳をお聞かせいたたければ。」

「・・・・・・・」

「少し緊張なさっておられる様ですね。」

「・・・・・・・」

「では、奥様いかがでしょう?」

「・・・・・・・」

それまで黙って横で微笑んでいた付き添いの親戚で、成虫で年を越す蝶のルリタテハがそろそろと話し始めた。

「フユシャクが寒い冬に活動致しますのは、とりもなおさず怖い鳥やクモやカマキリなどがいないからなのでございます。」

アナウンサーはやっと答えが戻って来てほっとしながら相槌を打った。

「なるほど、それはなかなか考えましたね。我々テントウムシは臭い体液を出して身を護ろうと致しますが、敵自体がいないのが一番でございますものね?所で奥様にはお羽がございませんが、何かご事情でも?差し支えなければお聞かせいただけますか?」

ルリタテハは少し苦笑いしながら皮肉を込めて、「アナウンサーの方なら事前にご存知と思いましたが、フユシャクの女は幼児期のシャクトリムシから大人になっても、羽のない蛾になるのです。」

アナウンサーは、「ああ、そうだったんですか?これは大変失礼しました。」と慌てて、「ご主人は奥様のどんな所にお惹かれになったのでしょうか?」と話題を変えた。

「・・・・・・・」


夫はただ照れるように微笑むだけだった。
 

「それは、女が放ちますフェロモンに惹かれての事ですわ。」

ルリタテハのフォローにアナウンサーは少しうろたえながら、
「左様ですか?それはまた...」

そこで一息入れて、
「ご主人は奥様のフェロモン以外にここに惹かれたというものはございませんか?」

「・・・・・・・」

「ご夫妻はとても無口な方でございますね?」
とアナウンサーがルリタテハに水を向けると彼女は、
「もともとシャクトリムシから大人の蛾になったときからフユシャクには口がないのです。冬の間に繁殖して後は死ぬだけですから食べる必要もなく、口はいらないのです。」
と言った。

テントウムシのアナウンサーはギョッとしてフユシャク夫婦をまじまじと見つめて謝った。

「そろそろお時間です。この辺でインタビューは終わりにしたいと存じます。ご夫妻大変申し訳ございませんでした。」

「・・・・・・・」







最終更新日  2020.11.30 00:14:53
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