テーマ:中学校って・・・(601)
カテゴリ:生徒ネタ
うちのクラスのAちゃんのこと書きます。
彼女のことを怖がっている子はたくさんいます。 とにかく言葉がキツく、攻撃的な感情をあらわにし、いつも怒ったような表情をしているからです。 くりくりした目の、とっても愛らしい顔立ちをしているのに、なにしろその言葉遣いと態度のおかげでなおのことキツく見えます。 だけど、それは彼女の不安の裏返しに違いない、と私は思っていました。 そういう目で彼女を観察していたら、彼女がキツい言葉をはくほどに、キツい態度をとるほどに、彼女が愛おしく、また不憫でした。 だいじょうぶ。私はあなたを傷つけない。Aちゃんが大好き。こわがらなくていい。そういって髪の毛を撫でたら、彼女はぽろぽろ泣きました。 愛されている自信がなくて、傷つけられるのがこわくて、だから鎧をまとって先手必勝で攻撃をしかけていました。 みんなが自分のことを悪く言ったって嫌ったって別に関係ない!っていう自分を一生懸命演出していました。 ほんとうは仲良くなりたい。優しい自分を出したい。笑顔で楽しく過ごしたい。彼女が泣きながらそう言葉にしてくれた時に、もう彼女は変われていたんだと思います。 先日の学年集会で、100人のフルーツバスケットをやりました。 みんなで楽しむことが大好きなこの学年の子たちは、寒い体育館を歓声を上げて走り回っていました。 ひとりずつの防災ずきんを椅子代わりに使ってのゲーム。クラスも男女も入り乱れて、誰かの席に移動するゲームです。 大盛り上がりのゲームが終わって自分の場所に戻ったとき。 私はAちゃんを観察していました。どうかな。どうするかな。 Aちゃんは、他の人が入れ替わり座った自分の防災ずきんを、これ見よがしにはたき始めました。 もちろん、眉根を寄せ、怒ったような表情です。 放課後、私はAちゃんを呼びました。今日、楽しかった? 「・・・楽しくない」 そっか。防災ずきんはたいてたの、見てたよ。楽しくなかったね。 そう私が言うとまた、Aちゃんはぽろぽろと涙をこぼしました。 Aちゃん。楽しんでいいんだよ。笑っていいんだよ。なりたい自分になっていいんだよ。 今日のAちゃんは、今まで作ってきた自分にしばられてたように見えたんだ。違うかな。 私がぜんぜん見当違いのことを、勝手に言ってたら教えて。 そうしたら、しばらくだまって涙をこぼしていたAちゃんが、意外なことを言いました。 「今日ね、先生」 うん。 「○○ちゃんに、ふつうに鍵をわたせた」 ・・・! ああ。そうだったの。そんなことがあったの。 すごいよ。Aちゃん。嬉しいよ。 私は思わずAちゃんを抱きしめました。 ○○ちゃんは、彼女が特に攻撃的な態度をとっていた相手でした。 あからさまな言葉と態度で、嫌悪感をあらわにしていました。 人を好きになるのも嫌いになるのも、当たり前のこと。そんなのはただの生理現象なんだ。 だけどね、自分の感情をふりかざして、一方的にいやな態度を取るのはね、相手を傷つける以上に、自分の心を傷つける行為なんだよ。 無理矢理好きになる必要はない。だけど、今の態度を取ることで、自分の心がいやな気持ちになることに気づいて。笑顔と優しさを外に出して。そのほうがずっとらくちんで気持ちがいいってことに気づいて。 そんな話を、秋から年末にかけて、Aちゃんとはしていたのでした。 「○○ちゃんに、ふつうに鍵をわたせた。」 この言葉が、どれほどの大きさを持っているか、私にはようくわかりました。 どれほどの勇気を持って、「ふつうに」したのか。 Aちゃんを抱きしめて、どうだった、気持ちが楽になった?と聞いたら、うん、と泣きながらうなずいてくれました。 なりたい自分に近づこうとしているAちゃん。 それを、私に教えてくれたAちゃん。 その記念すべき日を分かち合えてほんとうに嬉しいよ。私も思わず泣きながら言いました。 次のフルーツバスケットは、きっと楽しくできるね。 「うん。」 もう防災ずきんをはたかなくていいね。 「うん。」 また、すてきなできごとがあったら教えてくれる? 「うん。」 そして、涙をふいて、ちょっと照れくさそうににっこりして、Aちゃんは部活に行きました。 私はしばらく、5年後に柔らかな笑顔の似合う女の子に成長したAちゃんを想像して、ひとりで教室に座っていました。 寒かったけど、ぽかぽかでした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[生徒ネタ] カテゴリの最新記事
|
|