彼 ~ラストレター~
彼の新シリーズを書きます。>挨拶「拝啓晩秋の候朝夕めっきり冷え込むようになりましたが貴女はいかがお過ごしでしょうか?さて貴女がいなくなって3度目の冬を迎えようとしています。貴女がいなくなった夏の日を私は今でも忘れることはありません。それは突然だったようにも思うし、日に日に積み重なった結果であったとも思います。あの時の二人は輝いていたし、二人の生活は永遠だって思っていました。私のとなりには君はもういない…2年以上たった今、やっとその現実を見つめることができるような気がします。君の前では強くありたかったんだ。でもあの最後の日…人目をはばからずに泣くことが出来たのは君への愛情の深さなんだって今でも信じている。そんな僕に君はこう言ったんだ「泣いてもいいよ…」その一言は君の僕に対する最後の優しさなんだって思ったらますます涙が止まらなくなった。君は僕を傷つけたことを精一杯わびようとしていたのを感じていたけどあの頃の僕はどうしても君を許そうなんて思わなかった。そして君をはじめとするすべての女性を対象に報復を考えた時期もあったな…。君の周りにはいつも人が集まっていたように思う…そんな君が眩しくて、そんな君に嫉みを感じていた。あれから何年も経って君がどんな生活を送っているのか今では風の噂ですら耳に入らないんだ。誰かと出会ったのかな?それともまだ一人でいるのかな?君の幸せを心から願えるほど大人じゃないけど君が辛い思いをしていたのを知っているからやっぱり幸せになって欲しいなって思う。でも…僕といた時間より…あの頃より幸せに笑っていて欲しくはないな…。いつか記憶の片隅に追いやられる日が来るのかもしれないけどそんな日はまだまだ先みたい…恋愛映画を見れば君を思い出すし、ラブソングを耳にすれば君を思い出す…。君がなくなったのは僕のせいなんだって今では言い聞かせられるし、報復なんて馬鹿げたことも忘れちまったな。今は思うんだ君のことを好きだった分だけそして君がいなくなって悲しんだ分だけきっとまた幸せになれる日がくるんじゃないかって…。そんな風に思える僕は…少しは大人になれたんじゃないかな?日に日に寒さが増しますが風邪などひかぬようご自愛ください…敬具」彼はペンを置いて机の上に置いてあるエヴァンウィリアムスのボトルから直接口に流し込んだたった一口含んだバーボンが彼の喉を焼き付ける…。今更もう泣いたりできないな…。文字の敷き詰めた便箋を丸めて投げ捨てた…。一つの物語の終わりはきっと何かの始まりを意味する。3年という月日はただ彼にアルコールだけを与えた…。